読売新聞教育ネットワークの田中孝宏アドバイザーが、教員の皆さんにお薦めする本を、中央公論新社のラインナップから紹介します!
52ヘルツのクジラたち
町田そのこ著
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる──。
●初版刊行日:2020/4/21 ●四六判/264ページ ●定価:1760円(10%税込)●ISBN:978-4-12-005298-9
>>特設ページ(中央公論新社)
>>[顔]本屋大賞を受賞した、町田そのこさん...「小魚がクジラになって戻ってきた気分」(読売新聞オンライン)
教室の周波数 聞いてみよう
タイトルの52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラのこと。主人公の貴瑚も一時はこのクジラで、だからこそ少年の声を聞き取ることができた。
声を出しても仲間に届かない―― そんな経験をしている子どもが教室にもいる。だが、そうした子どもの孤独な声を聞き取れたにしても、どう踏み出せばいいのか。答えは簡単には見つからない。
「ひとひとりを助け、育てるのは途方もない力がいる」
物語に登場する元教師の言葉だ。教育現場にいると、様々な家庭の在り方や人々の生き方に関わらざるえない時が、往々にしてある。手を尽くし知恵を絞ってもどうしようもないことがほとんどだ。励まし、支えようにも教師一人の力では何も進展しない。
「どうせ担任でいるのは数年だから」
涙を流しながら、自らのふがいなさを語る同僚に何度か出会った。
深刻な内容だが、文章は心地良くて読みやすい。童話を読んでいるような気分にさせてくれる。「2021年本屋大賞」に選べらたのもうなずける。とりあえず本を開いて、52ヘルツの声を聞いてみよう。そして、教室にあふれる様々な周波数を注意深く聞いてみよう。たとえはっきりと聞き分けることができなくても、それが子どもたちに寄り添うことにつながる。
元小学校長。乱読ならぬ雑読。最近は地域の図書館のホームページで検索するとメールで知らせてくれるので、それに頼りきった主体性のない本選び。「ブックぶらタナカ」を楽しんでます。
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