2030 SDGsチャレンジ

学習菜園 地域が支える(東京・世田谷区立八幡小学校)

 

 

 

 ブドウやリンゴ、サツマイモにカブ――。1年を通じて、野菜や果物を育てながら学べる学習菜園が、東京・世田谷区の小学校にある。子供たちは、地域の大人たちとも力を合わせて、学習に取り組んでいる。

(教育ネットワーク事務局 石橋大祐)

 

1年通じ 動植物と触れ合う

 

 「これは1か月前に植えた木です。なんで他の木と離してあるかわかる?」

 

 「大きくなるのにじゃまになるから!」

 

 小さなリンゴの苗木を囲んで、子供たちの元気な声が響き渡る。世田谷区立八幡小学校の学習菜園「八幡ファーム」で、毎週木曜日に見られる光景だ。約720平方メートルの敷地は学年ごとの区画に分けられ、サツマイモやナス、綿など、各学年の単元と関連づけながら植物を育てている。ほかにも、リンゴやミカン、ブルーベリーなどの果樹も、所狭しと枝を張る。

 

 

 この日菜園を訪れたのは、昨年、カブの栽培に取り組んだ2年生。生活科の授業で、菜園の植物についての理解を深めるのが目的だ。「また木曜日に来ていいですか?」と目を輝かせる子供たちに、「いつでもおいで」と、戸嶋英樹さんらが笑顔で手を振る。

 

 戸嶋さんらは、区民によるボランティア「YMOA(八幡みどりを応援する集まり)」のメンバー。果樹や野菜など、それぞれの持つ知識を生かしながら、子供たちの学びをサポートしている。この日の観察会では、大内邦彦さん、近藤文子さんら、他のメンバーも参加。それぞれの知識を子供たちにわかりやすく説明した。

 

リンゴの木復活目指しクラウドファンディング

 

 「ヒキガエルやニホントカゲを見たり、土を使って焼き物を作ったり......。都会の子供たちが自然と触れあう貴重な場所でした」。2003年から15年まで同小に勤務した坂井岳志さんが振り返る。現在も学校支援コーディネーターや、YMOAのメンバーとして、子供たちと関わり続けている。

 

 

 菜園の中でひときわ立派に枝を張るリンゴの木は、1985年に長野県飯田市から贈られた。戦時中に同小の児童らが同市立丸山小学校に学童疎開した縁がきっかけだ。

 

 春には白い花を咲かせ、長年子供たちに親しまれてきた2本の木。ところが、うち1本が病気のため枯れてしまい、残る1本もカミキリムシによる空洞化が進んでいることがわかった。

 

 シンボルが失われてしまう前に、新しい苗木を購入するための資金を募ろうと、2022年度に6年生たちが模擬会社を作り、12月から23年1月にかけてクラウドファンディングに取り組んだ。地域住民の関心も高く、目標額は開始早々に達成。3月中旬に峯岸敦子校長が丸山小の中原秀樹校長を訪ね、近隣の農園などから苗木3本を購入することができた。

 

 「不思議な縁に驚いている。困っている人を受け入れた大先輩たちの懐の深さを、今の子供たちにも受け継いでもらいたい」と中原校長。今後はオンラインなどで八幡小との交流を深めていくつもりだ。

 

学童疎開

第2次世界大戦中、戦況の悪化に伴う空襲を避けるため、都市部の国民学校初等科の児童40万人以上を農村などへ移住させた。当初は地方の親類を頼る「縁故疎開」が進められたが、1944年6月の閣議決定に基づき、学校単位となった。飯田市立丸山小によると、八幡小の前身である八幡国民学校からは340人の児童を受け入れたという。

 

疎開が縁 長野・飯田市との交流も復活

 

 新年度が間近に迫った3月29日。5日前に卒業式を終えたばかりの6年生たちが、再び八幡ファームに集まった。峯岸校長が持ち帰った3本の苗木を植えるためだ。坂井さんらと力を合わせながらシャベルで土を掘り起こし、丁寧に苗木を植え終わると、農家から贈られたリンゴジュースで乾杯し、プロジェクトの達成を祝った。

 

 「伝統を受け継いで、次の世代に発展させることにつなげられたことがうれしい」。6年生による模擬会社の副社長を務めた男子が、誇らしげに汗をぬぐう。地域の大人たちに支えられて続いてきたファームの歴史に、子供たち自身の手で、新たな1ページが加わった。

 

クラウドファンディング × キャリア教育

 2022年度の八幡小学校6年生が立ち上げたのが、「Ideal six八幡」という模擬会社。地域の人たちと協力しながらクラウドファンディングによって資金を集め、新しいリンゴの木を植えて、八幡ファームを復活させようという取り組みで、Ideal(アイディール)とは 理想という意味のフランス語で、sixは6年生。八幡小6年生みんなの願いを込めた社名。クラウドファンディングの返礼品には、地元の人気洋菓子店「粉と卵」の協力を得て、返礼品のお菓子詰め合わせセットを用意した。パティシエ・岡本順孝社長の指導で、子供たちの手作りサブレを一つ入れることになった。

 リンゴをかたどった2枚のサブレにリンゴのジャムを挟んだサブレづくりは、2月中旬に行われた。機械を使って薄く伸ばした生地を、一つ一つリンゴの型に抜いていく宮島綾子「社長」ら、子供たち。生地に型を押し付けると、手のひらにリンゴの型が赤く残る。「痛いだろ、疲れるだろ。これがお金を稼ぐっていうことなんだよ」。岡本社長は時に優しく、時に厳しく、お菓子作りについて話した。会社を作り、お金を集める――。責任の重さが、Ideal sixのメンバーたちの胸に刻まれた。予定を2時間ほどオーバーして完成した160個のサブレ。岡本社長は立ちっ放し、手作業でのお菓子作りに疲れた様子の子供たちに「足が疲れたってことは、鍛えられたってことだよ。何でもプラスに考えよう」と笑顔で話した。

 3月上旬に保護者や地域住民を集めて開かれた報告会では、子供たちから自身のキャリア観とも関連付けた感想が多く聞かれた。

  


(2023年5月15日 07:30)
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