2030 SDGsチャレンジ

じぶんごとからはじめよう®

「The Valuable 500」広めよう(下)~コロナ禍にあった好機

樺沢さん(右)と大内さん

 

 「インクルーシブ社会」を目指して障害者の社会進出を後押しする「The Valuable 500」(以下、V500)運動について語るオンライン会議。提唱者したアイルランドの社会起業家キャロライン・ケイシーさん、V500の日本での旗振り役を務める日本財団常務理事の樺沢一朗さん、参加企業の一つソフトバンクCSR本部長の池田昌人さんの3人による議論は、新型コロナウイルス感染症の影響にも及びました。

 

コーディネーター:大内佐紀(読売新聞調査研究本部主任研究員)

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インクルージョンの革命

大内 コロナ禍を巡るV500への影響についてはどうですか。

 

ケイシー V500を創設したとき、これを「インクルージョンの革命」と呼びました。障害こそが私どものビジネスだからです。コロナ禍は、ビジネスシステムの俊敏性、機敏性を実証してくれました。長年にわたり、障害のビジネス・インクルージョンの難しさが語られてきました。が、コロナ禍が来た途端、多くの企業が在宅勤務にすぐに移行できました。我々が驚いたのは、コロナ禍が始まって以降、V500の参加企業数が大きく伸びていることです。

 理由として、一つは組織が今までと違ったやり方が必要だと認めざるを得なかったからです。V500の企業と連携したら、何がうまくいってうまくいかないかを情報交換する場所を得たのだと思います。やはり数には意味があります。企業が学んだのは今後、部分的にしかインクルーシブでないイメージは彼らの不利に働くということです。

 二つ目に、障害を考えるとき、V500では雇用の面だけを見ているわけではありません。ビジネスシステムを変えて、障害者とその家族が顧客ともなり、社員ともなり、コミュニティのメンバーともなり、サプライヤーともなる社会変革を考えているのです。企業に対し価値のない人間を強制的に雇用させることは、公正さに欠けると思います。V500は、まさに障害者のコミュニティーは企業にとって消費者としての価値があり、消費者にサービスを提供するためには、彼らの専門知識をビジネスの中に取り入れることが重要だと言っているのです。

 コロナ禍への対応は全ての人が参加、「インクルージョン」しなければいけません。V500は、ビジネスと障害者の新しい相互作用の枠組みを提供しているのです。「障害」とは言っても様々な形があります。ビジネスとしてこのチャンスを取らなければ、大きなことを失うということを学ばなければいけないという意味で、V500にとって、コロナ禍はとてもいいチャンスでした。

 

大内 障害者と一緒に働くことをソフトバンクの企業文化のなかで、皆さんはどのように捉えていますか。

 

池田 社内で「ショートタイムワーク」を始めて大きく変わったのは、個々人の特徴を認め合う社風をさらに加速させた気がします。いわゆる見た目も普通でがっしりしているのに、実はメンタル的な問題で、コミュニケーションがとれない人が職場に一緒にいる環境が職場の意識を変えたのだと思います。累計になりますが、そういった特徴を持った40人以上の人が短時間労働をしています。

ショートタイムワーク制度

 ソフトバンクの社内制度で、精神障害や発達障害などの理由により、業務の遂行に支障がなくても、長時間勤務することが難しい場合、週20時間未満の労働時間で就業できる。企業が業務内容を明確に定め、その業務を遂行可能な障害の場合、同じ職場で働くことができる仕組み。

 

樺沢 日本財団が今、障害者を支援する長年の活動の中で、非当事者や非障害当事者といったマジョリティーがどのように障害者と接触する機会を増やすのかを強く意識しています。日本財団はパラリンピックの競技団体を支援するため、5年間で100億円を提供しています。パラリンピックが日本で行われるので成功させるという理由もありますが、この機会にパラリンピアンの活躍を見ることで、普段触れることがないものに多くの人が触れることで意味があります。

 障害者が生きやすい社会は恐らく全ての人が生きやすい社会であり、決して障害者だけのものではなくて、もう少しユニバーサルな話として、社会の変化が全ての人に良い影響を生むことを目指しています。

オンライン会議の様子(9月16日、読売新聞東京本社で)

The Valuable 500 とは

 「インクルーシブなビジネスはインクルーシブな社会を創る」との考えのもと、キャロライン・ケイシーさんが2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で提唱し、世界的な運動としてスタートした。国連のSDGs(持続可能な開発目標)のうち目標8「働きがいも経済成長も」とも深い関連がある。障害者の持つ潜在的な価値を、社会やビジネスにおいて発揮できるように、ビジネスリーダーが自社の事業を改革することを目的としている。目標は、世界で500社の最高経営責任者(CEO)の賛同を得ることだ。

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読売新聞東京本社も参加

 2020年1月のダボス会議では、V500に24か国241社が参加していることが報告された。日本では、9月24日現在、読売新聞東京本社を含め、計24社が参加している。

 日本財団によると9月24日現在、日本から参加している企業(50音順)は、アーバンリサーチ/あいおいニッセイ同和損害保険/NEC/花王/KNT-CTホールディングス/京王プラザホテル/塩野義製薬/昭和電工/住友生命保険/西武グループ/セガサミーホールディングス/全日本空輸/ソニー/ソフトバンク/大日本印刷/大和ハウス工業/電通/TOTO/日本航空/日本電信電話/丸井グループ/三井化学/三菱ケミカル/読売新聞東京本社──となっている。

(まとめ=教育ネットワーク事務局・本田佳子)

 

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(2020年10月 2日 10:18)
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