2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

魚の命 ふる里に還元 記者の目

網走川でウチダザリガニのトラップ駆除をしている美幌高校生(北海道美幌高校提供)

日本の伝統技法を活用

 2020年4月から本紙朝刊教育面で、月1回の連載「SDGs@スクール」がスタートした。今後の試金石になる初回の題材をどうするか。1番バッターに指名された記者は年明けから、いろいろな授業や研究活動に関する文献を調べ始めた。

 

 そのなかで、読売新聞社が後援し、私が取材をたまたま担当していた「全国ユース環境活動全国大会」(環境省など主催)の第5回大会の膨大な活動報告書を読み込んでいて、「これだ!」と思った研究が広島県立世羅高校の「鯉米」プロジェクトだった。大会では全国8地域で地方大会を開き、計162校が応募していた。なかでも世羅高校は、研究レベルの高さに加え、命の尊さに素直な視線を向け、何度も突きつけられるNGに悪戦苦闘する高校生たちのけなげさに心動かされた。

 

 結果的に、最高賞である環境大臣賞の受賞も20年2月の全国大会で、同校に決まった。その活動内容は記事に書いた通りだが、この大会はSDGs関連の授業のヒントが満載だということを実感した。翌21年に開かれた第6回大会こそコロナ禍でオンライン開催になってしまったが、平時なら一般の傍聴も可能なので、情報収集のためにはお勧めだ。

 

 というのも、この大会では高い研究レベルの発表が世羅高校以外にも複数あったからだ。審査委員長の小澤紀美子・東京学芸大名誉教授は「ステージが変わったのでは?」と評していた。

 

 環境再生保全機構理事長賞に輝いた京都府立木津高校は、レジ袋が海洋環境悪化の原因になっていることから、地元特産の渋柿の汁(柿渋)に耐久・耐水・消臭効果があることに着目。柿渋を紙に塗る方法を編み出し、レジ袋の代わりに使おうと考えた。

 

 国連大学サステイナビリティ高等研究所長賞の青森県立名久井農業高校はアフリカの乾燥地での土壌流出防止と食糧増産のため、耕作地での集水・施肥手法を開発した。ヒントを得たのは日本家屋の玄関などに使われてきた伝統技法「三和土(たたき)」。両校とも古くからある技法を現代の視点からアレンジした。

 

大人を超えた発信方法

 

 特定外来生物である北米産ウチダザリガニの駆除と利用の方法をさぐり、読売新聞社賞を射止めた北海道美幌高校など、地元の課題をコツコツと調査し、解決に導こうとする研究も複数あった。この大会の伝統だが、実証研究を積み重ねて「データ」で語る手法は大学生レベルといえる。指導する教員の資質とやる気も大きいのだろうが、行政や企業を巻き込んで活動の質を高め、幅を広げていく手法は大人顔負けだ。

 

 インターネットやSNSを使った活動の発信方法にいたっては、もはや大人の上をゆく。研究したキノコを題材にロールプレーイングゲームまで作ってしまう北海道標茶高校のような研究もある。国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向け、高校生たちはまさに「新しいステージ」に来た。

 

科学的アプローチの大切さ

 


五島列島に漂着するゴミを調査する長崎県立五島高の生徒たち(長崎県立五島高提供)

 

 その前年に開かれた第4回大会には北海道から九州・沖縄まで計152校が大会に応募した。環境大臣賞を受賞した長崎県立五島高は五島列島に漂着するゴミを調査するため、7時間かけて海岸線を一周し、大半の浜辺で漂着ゴミを確認した。

 

 環境再生保全機構理事長賞の岐阜県立恵那高は、里山の環境を守るため、ミツバチに注目。どんな花に訪れているか、ミツバチが運んだ花粉のDNA分析から突き止めた。動脈硬化などに予防効果があるという報告が相次ぐ植物油のエゴマを栽培するアイデアも、情報収集の感度の高さを感じた。

 

 国連大学サステイナビリティ高等研究所長賞の東筑紫学園高(福岡県)は、地元のカルスト台地・平尾台の湿原調査のため、測量に加え、ドローンを使って植生も調べた。先に書いた通り、各校とも「エビデンス」(科学的証拠)に基づいた活動を実践しているのがこの年も印象に残った。これらの成果には舌を巻くが、地元の大学や企業も技術支援していることも各校から報告され、大会の描く近未来社会と地域に開かれた高校の理想のありかたを垣間見ることができた。

 

柔らか頭で地域振興を

 

 主催者が高校生たちの活動の道しるべにしているのが、2015年に国連が採択した「持続可能な開発目標」(SDGs)だ。動植物の保全や気候変動など従来の環境保全活動が重視してきた項目に加え、貧困解消や健康、技術革新、街づくりなど17の目標を掲げている。

 

 地球環境に与える負荷を極力小さくしながら、成長を図る企業・団体に投資が集まり、ブランドも向上する――30年時点のめざすべき社会像を提示することで、現在とのギャップを埋めていく試みだ。読売新聞社賞の名古屋市立名古屋商業高は、水質保全や生物の多様性維持に欠かせない植物のアシを原料に、外国人旅行客向けのうちわなどを作った。大人の考えつかない斬新なビジネスモデルが現状打破へ向けた起業や地域興しにつながればいい。

 

 そして、コロナの感染拡大でオンライン開催となった翌21年の第6回大会。研究活動自体も縮小を強いられた高校が多く、応募したのは、87団体にとどまった。それでも、活動内容をまとめた各動画について、専門家らによる審査と生徒による投票がオンライン上で行われた。

 


校内に水族館を作り、街おこしに貢献する愛媛県立長浜高の生徒たち(愛媛県立長浜高提供)

 

 その結果、宮城県農高が環境大臣賞を射止めた。同校は東日本大震災で校舎が津波に襲われたことを受け、沿岸などに植える桜の新品種を開発した。この桜は塩害に強く、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の吸収量も多いことが評価された。読売新聞社賞に決まった愛媛県立長浜高は校内に水族館を作り、一般公開して街おこしにつなげていることが認められた。

 

 日本ではいま、少子高齢化と人口減少、それに伴う財政難や働き手不足、地方経済の衰退などが同時進行している。「課題先進国」とはよく言ったもので、解決すべき難題が山積している。大人たちはマイナスをプラスに変えようともがいていが、高校生たちも若者らしい発想と突進力で地域の課題に挑戦していることを、この大会で知った。「日本の未来もそう悲観するものではないな」とも確信した。

(小川祐二朗)

(2021年6月30日 10:15)
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