「難民救う」方法探る 担当者に聞く
(本人提供)
■オンラインでもリアル感を 「Sustainable Game」代表 山口由人さん
(2021年3月22日取材)
小川祐二朗 山口さんたちの「Sustainable Game」の取り組みである「課題発見DAY」は2020年5月に紙面で紹介しました。あれから約1年。その後はどんな活動をしてきたのでしょう。
山口由人 新型コロナの感染拡大で、取材してもらった時がリアルイベントとしては最後になってしまいました。そこで、オンラインでもリアルな課題を考えようと、(オンライン会議システムの)ZOOMとスマートフォンを組み合わせて、(米国のアウトドア用品メーカーの)パタゴニアの北海道と東京の店舗を結んで生中継をやったんです。お店のスタッフやアルバイトの人たちと中高校生が話し合いました。
小川 パタゴニアという会社はSDGsに熱心に取り組んでいる会社であることは承知しているのですが、具体的にはどんな課題を話し合ったのですか。北海道と東京の店舗を結ぶと言うことは、双方で課題のニュアンスが違うということですか。
山口 たとえば、パタゴニアのグローバル基準は、店舗自体をサステイナブル(持続可能な)ものにするという決まりになっていて、実際にそれが守れているのは北海道の店舗だけ。東京の店舗はそれができていないんです。
小川 サステイナブルなお店というのは例えば、再生エネルギーを使うってことですか。
山口 いえ。店舗をゼロから新しく建設すると、それだけで環境に負荷がかかるので、北海道の店舗は既存の建物を改装して基準をクリアさせたということだそうです。パタゴニアの商品は価格が高いということが言われていますが、この日のプログラムは地域の子どもたちをお店に来やすくしたり、そういった子どもたちや若者にエシカル(倫理的な)なファッションを提供したりするにはどうしたらいいかといったことを、お店の方との話の中で「気づき」として見つけていきました。たとえば、中高生側からは、お店の中に地域の人向けの交流の場をつくることを提案しました。
スイスの若者と交流も
小川 ほかはどうでしょう。
山口 不動産とエネルギーを扱う都内の会社とコラボ(協働)した時は、この会社が東京と広島に持っているホテルから生中継し、この会社のいろんな部署の社員さんとスマホを通して施設内を見て回まわりました。「2050年の利用者となりうる中高生の需要を満たすホテルとは」という観点から、社員さんと中高生が一緒に意思決定することが目的です。そこで出てきたのが、新しくホテルを作る際、「ジェンダーレス(性差のない)」という需要があり、トイレのデザインを一緒に考えました。
グローバルな視点でこういうプログラムをやりたいという思いもあったので、日本とスイスの若者たちに「バーチャル・リアリティー(仮想現実)空間」に集まってもらうイベントもやりました。たとえば、フードロスや気候変動などについての考えを参加者それぞれがアートで表現するという試みです。
小川 アートとは、絵や音楽みたいなことですか。
山口 スイスとやるわけですから、ドイツ語と英語、日本語という壁を乗り越えていくのはアートがいいんではということから、そうしました。
プログラムの発想法とは?
小川 課題発見DAYは、テーマとするSDGsの目標を回ごとに変え、会場周辺を中高生の参加者がフィールドワークし、参加者で課題の解決方法を討議して発表するスタイル。最初に取材した時、なんておもしろいんだと思いました。これは何かを参考にしたんですか。
山口 いえ。おもしろいことをちょっとずつ付け加えていったら、こうなりました。ただ、原点としてあるのが、中2の時にSDGsの認知度を上げるプロジェクトを校内でやった際、日本でのSDGsの取り上げられ方がずいぶん硬いなと感じたことでした。それをどうしたらいいのかということと、僕の中ではSDGsは世界最大の社会実験で、どうやったら参加できるのか学校で教えてもらいたいなと考えたんです。でも、学校では教えてくれなかった。じゃあ、どうしようかなと思って、ふと思いついたのが、すごろくのようなゲームがあればということでした。
小川 カードゲームなどを使ってSDGsを教える団体はたくさんありますよね。
山口 それで僕も実際に参加してみたんです。でも、正直、おもしろくなかった。リアリティーを感じないというか、カードゲームなどでは自分のアイデアを実行できる、行動できるとは思えなかったんですね。
小川 学校の先生たちの話を聞くと、SDGsに関する授業をやらなくてはという思いはあっても、どうやったらいいか戸惑われている先生も多いと聞きます。
山口 SDGsに関する授業は中1の時、僕の学校では実証実験として始まっていました。しかし、「アクションを起こす」という部分は学校では教えてくれません。企業とのコラボ(協働)になると、学校だけでは責任を負いきれないでしょうし、(企業との交渉に)先生が毎回同伴する訳にもいきませんから。そこで、社会課題にタックルして、アクションを起こす場所を自分たちで学校の外につくりたいと考えたわけです。
僕は学校でSDGsは教えなくていいと思っています。SDGs自体は大事なことだけど、教える必要はないということです。そもそも、先生自体がSDGsに関して詳しくは知らない。SDGsの授業は教えるものではなく、先生も生徒と同じ人間として皆でつくるもだと思うからです。
オンラインの効用
小川 オンライン開催をどう考えますか。海外と交流できるなどメリットは多そうですが。
山口 最大のメリットは移動時間がなくなったこと。中高生は門限があるし、夜9時以降に外出すると補導される。日中は学校に行っているので、平日だと自由な時間は午後3時半から8時までと限られてきます。一方で企業の方は土日が休みなので、土日でコラボをしようにもできません。それがオンラインを使うようになって、移動がなくなったことで、平日の夕方からのイベントも可能になりました。コロナが収束しても、オンラインは欠かせない存在です。
小川 今後は?
山口 これまでは企業に対する提案だけで終わっていることが多かったわけですが、これからは中高生が動かしている各種プロジェクトに大企業の技術やノウハウを入れて社会実装できるプラットホーム作りの準備をしています。複数の大企業が協力してくれることになっていて、今年秋ごろにはスタートしたいと考えています。
「Sustainable Game」の活動は主に、街をフィールドワークして、SDGsにまつわる課題解決の糸口を発見して討議・発表までゲーム感覚でつなげる「課題発見DAY」。このほか、Z世代と呼ばれる中高生の「持続可能」な視点から、参加企業の社員と中高生が一緒に企業の事業課題を再確認し、改善策を考える研修プログラム「Flare Lab」などを行っている。
山口さんが中3の時に任意団体として活動を始め、20年6月に一般社団法人となった。法人化したのは、多くの企業と共創していく上で、信用を得るとともに責任を果たす必要があったこと。加えて、ビジネスとして得た収入は、パソコンがなくてオンラインで活動が難しい同世代にパソコンをプレゼントしたり、マイノリティの課題に対して取り組む同世代に出資をしたりするため。