2030 SDGsチャレンジ

スペシャリストに聞く

「難民救う」方法探る 「Sustainable Game」代表 山口由人さん(聖学院高校1年)

SDGsを中高校生に知ってもらうイベントで、参加者の質問に答える山口さん

 

 

 

 貧困や紛争、乱開発、気候変動の予兆など、私たちが暮らす地球は青息吐息だ。この惑星を末永く使える形で未来の世代に手渡すには、どうすればよいか。国連はそんな危機感から、2030年までに達成すべき行動計画を「持続可能な開発目標(SDGs)」として採択した。若者や行政、企業、団体はどんな行動を始めているのか。毎月1回お届けする。

(2020年5月6日本紙掲載)

 

Mission 「逃走」を後悔

 

 2016年、ドイツ・ミュンヘン。父親の仕事の都合でドイツで育った山口由人(ゆうじん)さん(15)は、小学5年生の頃のある体験をいまもまざまざと覚えている。

 

 手にパンを持って歩いていると、道ばたに座る男が突然、「そのパンをくれ」と独語でまくしたててきた。アラブ系、40代くらいか......。見ると、片方の足がない物乞いだった。

 

 山口さんは思わず身をすくめ、その場から逃げ出した。家に帰ってしばらくすると、「なぜ助けてあげられなかったのだろうか」と自己嫌悪が募った。

 

 

 当時はシリア内戦が泥沼化しつつあり、大量の難民が欧州各国に押し寄せていた。ドイツは最初こそ歓迎ムードだったが、テロが相次ぎ、険悪な空気が張り詰めてきた頃だった。難民に対して手を差し伸べられなかった――。そんな思いを抱えたまま、山口さんは日本に帰国した。

 

Action 仲間を集めて

 

 中高一貫校の聖学院(東京都北区)に進学した山口さんは、中学1年の課外授業で、SDGsの仕組みを学ぶカードゲームを体験した。そこで、SDGsの理念「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を知った。

 

 「あの時、アラブ系のホームレスに手を差し伸べられなかった。この理念を知っていれば、行動に移すことができたのではないか」。そう悔やんだ一方で、SDGsには目標1「貧困をなくそう」があることも知った。

 

 そこから、山口さんの行動が始まった。

 

 大人ばかりのSDGsセミナーに1人で出席し、2年生になると、同学年の友人らに声をかけ、SDGsを学内で広めるため、アンケートを配布し、先生たちにはSDGsのステッカーを配った。

 

 

 全国の高校生約200人が合宿し、政策提言を考える会議にも、中学生ながら特別枠で参加。そして、昨年5月、ゲーム感覚でSDGsを学ぶ中高生の団体「Sustainable Game」を設立した。

 

 活動の柱は、「課題発見DAY」というイベントだ。会場周辺を歩いて課題を見つけ、その解決法を発表するフィールドワークのような手法で行う。自身が代表となり、地道にイベントを重ね、参加メンバーは学校の垣根を越えて24人にまで広がった。

 


レストラン店員のネパール人男性(左)に難民について質問する中高生たち

 

Goal イベント開催

 

 今年2月、国際NGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」(東京)の協力で、全国の中高生36人が参加するイベントを開催した。その際、あるグループはアジア料理店でネパール人店員に難民のことを、スーパーでは、(自然や労働環境に配慮した)フェアトレード商品について尋ねた。難民問題は、SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」に該当する。こうした調査、課題解決の模索は、多様な人々が協力し、社会課題解決を目指す目標17「パートナーシップで目標達成」の実践でもある。

 

 「将来の夢は、社会課題を解決する人材の育成」と語る山口さん。イベントにはこれまでに400人以上が参加した。同志がいれば、きっと、その夢も実現するはずだ。

 

編集後記

 

 山口さんたちに会場を無償提供した国際NGO「ワールド・ビジョン」は、東京五輪・パラリンピックに出場する難民選手団に注目してもらうアイデアを若者から募った。スタッフの堂道有香さんは、「山口さんたちの行動力を見て、10代のみずみずしい感性で意見を出してほしいと思ったから」と説明する。NGOのもとには、後日、「難民について教えてほしい」と、別の高校生も訪ねてきたという。若者の心にSDGsのタネはまかれ、確実に芽を出し始めているのだと感じている。(教育ネットワーク事務局 小川祐二朗)

 

 

 ◇SDGs エスディージーズと読み、Sustainable Development Goalsという英語の頭文字からとった略称。「持続可能な開発目標」と訳されている。2015年の国連総会で採択され、貧困や飢餓、教育、男女の平等、働きがい、生産消費、生態系の保全など17項目の目標を掲げている。目標の下には、具体策や数値目標などを示した計169のターゲットがある。

 

ワードラボ 難民

 

 

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年末時点で、紛争や迫害などで故郷を追われた人のうち、保護対象とする〈1〉難民〈2〉難民認定申請者〈3〉国内避難民――の合計は約6529万人。別組織が管轄するパレスチナ難民などを加えると、計約7080万人。UNHCRの保護対象者は、08年からの10年間で、約3953万人増えた。国別では、シリア、アフガニスタン、南スーダンの順に多かった。

(2021年7月 9日 10:41)
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