SDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、教育でできることとは──。学校の先生方や専門家たちのお話をうかがいながら考える連載「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。トップバッターとなるのは、読売新聞教育ネットワーク事務局アドバイザーで2020年3月までは東京都江戸川区で現役の小学校長だった田中孝宏さん。ずばり、子どもたちにSDGsってどうやって教えるの?
(聞き手 吉池亮・教育ネットワーク事務局長)
──小学校で行うSDGsの取り組みってどんなものがあるんでしょうか?
田中 私が校長だった江戸川区の小学校で取り組んだのは、SDGsの実践というよりは、SDGsが掲げる目標に取り組むことができる「プロジェクト型」の授業。それを実践することが狙いでした。そもそも、文部科学省の教育課程編成の中に「現代的諸課題の解決」という例示の項目があり、それがSDGsの目標内容に重なるところが多いんです。私の学校では、問題発見、そして解決能力を育てるカリキュラム・マネジメント*をする中で、SDGs実践の取り組みを盛り込んでいきました。
*カリキュラム・マネジメント
学校が組織的、計画的に教育活動を行うための考え方で、2020年度から新学習指導要領の中にも示されている。教育内容と、それに必要な時間やヒト、モノを効果的に組み合わせる必要がある。
──具体的にはどういう取り組みですか?
田中 現代的な諸課題として中央教育審議会は次の7項目を例示しています。
◆ 健康、安全、食に関する力
◆ 主権者として求められる力
◆ 新たな価値を生み出す豊かな創造性
◆ グローバル化の中で多様性を尊重するとともに、現在まで受け継がれてきた我が国固有の領土や歴史について理解し、伝統や文化を尊重しつつ、多様な他者と協働しながら目標に向かって挑戦する力
◆ 地域や社会における産業の役割を理解し地域創生等に生かす力
◆ 自然環境や資源の有限性等の中で持続可能な社会をつくる力
◆ 豊かなスポーツライフを実現する力
この例示項目をSDGsと関連付けながらカリキュラム・マネジメントを行いました。たとえば、6年生だと、うちでは「理想の町づくり」というプロジェクトをやっていました。これにかけた時間は長かったですよ。2学期かけて20時限以上はやったのじゃなかったかなと。
──そんなに長くですか?
田中 いや、特段長いということはありません。要はカリキュラム・マネジメントをすることによって、各教科・領域を有機的につなげた教育活動という感じですね。教科、総合的な学習の時間から給食の時間までも使って、です。
──給食の時間も?
田中 給食では地元特産の小松菜が出る。そこで「地産地消」を学べるわけです。あるいは総合的な学習の時間では地元特産のハスの栽培を学ぶんですけど、地域の伝統的な食材を復活させようという取り組みをやりました。国語ではプレゼンテーション(発表)のやり方。現代社会では、町づくりの基本的なことを学ぶ。理科では、生物や地球環境で学んだことを地域のことにつなげいてく。こうした学習でSDGsが掲げる目標を意識し、SDGsが目指す考え方も学ぶことができます。
その上で、「自分の町ではどうしたらいいのか」ということを子どもたちに考えさせていくようにしました。カリキュラム・マネジメントをすることで学習内容を一つのプロジェクトとして集約して考えるという概念ですね。これのいいところは、教科として教える必要があるものを単に技能や知識として扱うのではなく、それをどう実際の課題として考えることにつなげられるということですね。
──文字通り子どもたちがSDGsを「じぶんごと」として考えるということですね。
田中 そうです。ただ技能や知識として学んだだけでは身につくことがなくても、我が事として学習すれば身につきやすくなるし、自分から考えて行動するようになる。それが狙いでした。SDGsを実践するというよりは、SDGsが掲げる目標を考えながら実践することができるプロジェクト型の学習方式ですね。
──発表の場はどうしたのですか?
田中 普通はこういうことをやると、だいたいは先生方の間で発表するのが普通なんですが、このケースでは子どもたちが自ら、多くの保護者や先生方の前で発表するという方式をとりました。研究発表という形ですね。子どもたちもいきいきと発表してくれました。江戸川区の自然を生かした「町づくり」を提案した子もいれば、子どもも大人もお年寄りも楽しめるテーマパークをつくるという発表もありました。その中に「日本一のクリーンな町」という提案もありましたが、それなどはまさに国連のSDGs目標の11番にマッチしますよね。
発表を聞いた先生方も参考になったのではないかと思います。プロジェクト型学習というのは何を目指すべきか、SDGsの考えと併せてよく理解できたのではないか。そのやり方、ノウハウを知ってほしかったので、私にとってもいい経験になりました。
>>(中)を読む