高円宮杯座談会(上)英語が話せるとどんないいことがあるの?どうすれば上手になるの?

安河内さん(後列中央)と大学生たち。(後列右から時計回りに)久松さん、斎藤さん、東野さん、深井さん(11月5日、読売新聞東京本社で)=秋山哲也撮影

 読売新聞社とともに高円宮杯全日本中学校英語弁論大会を主催する日本学生協会基金の大学生4人が、同大会に特別協賛する東進ハイスクールのカリスマ英語講師、安河内哲也さんと、英語にまつわる様々な話題について語り合いました。座談会からは、英語が好きになる多くのヒントが見えてきました。

 

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【出席者】(敬称略)

・日本学生協会基金

 深井雄介/斎藤若奈/久松将太/東野友紀

・安河内哲也(東進ハイスクール)

・司会:細田ひかり(読売新聞東京本社事業開発部)

 

始めは楽しく、「でたらめでもよかばい!」

――みなさんが英語を学び始めたきっかけを教えてください。

 

斎藤 4歳から小学6年まで英会話教室に通っていました。姉が英会話教室に通っていたので「私もやりたい」と言ったらしいです。自分から興味を持ったので、教室は楽しかったですね。

 

安河内 楽しくできたのは良かったね。親が「勉強しなさい」とプレッシャーをかけすぎると、英語嫌いになることもあるからねえ。小学生の時から親が、「英検受けなさい」とか言いすぎると、英語が嫌になってしまう場合もある。

 

――ほかのみなさんは英会話教室に通っていましたか。

 

久松 はい。

 

東野 通っていました。

 

安河内 今、たくさんの子供たちが通っているね。でも、英会話教室に通っても、必ず英語ができるようになるかというと、そうではない。そろばん教室に通っていたけど数学ができるようになるかどうかは別なようにね。とはいえ、楽しく教室に通えるなら意味があるね。英語への関心を持ち、外国人への抵抗感がなくなるという点では意味があると思う。

 

安河内哲也
やすこうち・てつや 1967年、福岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。東進ハイスクール、東進ビジネススクール英語講師。実用英語教育の普及を目指す一般財団法人「実用英語推進機構」代表理事を務め、文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」委員などを歴任した

 

――先生が英語に関心を持ったきっかけはなんですか。

 

安河内 生まれ育った福岡県の町には、英会話学校なんかまずないし、外国人もいなかった。英語を学んだのは中学校の教室。でも、昔の授業は疑問文や否定文をノートに書いて、和訳を作って、という内容ばかり。だから興味が持てず、クイーンとかビートルズとかを聞いて、スピルバーグの映画を見ていた。大学受験に失敗して予備校に通っていた時、文字ではなく、音を使って英語を教えるいい先生に出会った。そして1年勉強したら英語ができるようになった。受験英語だけどね。

 大学は外国語学部の英語学科。周囲は英語が話せる帰国子女ばかりで、自分の発音にすごくコンプレックスを感じて、1年ぐらいで英語が嫌になっちゃった。それでも2年生の時にアメリカを旅行したら、ほかの国から来た人たちの英語がでたらめだった。そこで「でたらめでもよかばい!」と気づいた。でたらめでもいいから、どんどんしゃべるようにしたら英語がうまくなった。

 

――英語との出会いは地域によっていろいろなんですね。

 

東野 私が生まれ育った岩手県は、正直に言うと海外から来ている人は少ない。英語を学んでも使う場所がないから、「じゃあなんで勉強するの」っていう抵抗感を持っている子供たちは多分多いと思う。自分はたまたま恵まれていましたが、地域格差はあると思います。

 

東野友紀さん(早稲田大国際教養学部3年)

 

英語を話さない英語の授業!?

安河内 学校によっては、英語の授業時間に英語が聞こえないところもあるね。難しい文法用語ばかり、ノートに漢字ばかり書いてね。僕も、何年か前まではそんな授業もやってた。

 

深井 僕の高校も英語の時間は日本語ばかり話していました。

 

安河内 自分の場合もそうだけど、「先生との出会い」というのは大きいね。

 

東野 私の場合、英会話教室で英語ミュージカルを教えている先生に出会い、英語が楽しいと思うようになりました。ミュージカルを通じて耳から英語に触れられたので、「英語を読まなくちゃ」というような変なプレッシャーもなく、単純に「楽しい」と思ってやっていました。

 

安河内 日本の生徒たちって、音を使わないで英語を勉強するじゃない? あれって、1時間でできることを3時間かけて学んでいる感じがする。例えば、大学受験の勉強でも、英語の長文があれば、ノートに写して、日本語にして、本文にS、V、O、Cをわざわざ全部つけて、それで意味がわかったら「はい、おしまい」で、音を全く聞かないの。ものすごくもったいない。最初からたくさん聞いて、音読して、構文も口で覚えれば3分の1の時間でできるようになる。だからそれをミュージカルっていう形で指導してくれた先生がいたっていうのはすばらしいこと。

 ミュージカルなら、どんな曲を勧めます? もし小学生の妹がいたとしたら。

 

東野 最初は意味がわからないから「この曲好きだな」という感じでいいと思います。

 

安河内 自分もいろいろ教えているけど、中学生や高校生に好きな曲を選ばせると、すごく早い曲とか、ヒップホップみたいな格好いい曲を選ぶのね。それはそれでいいと思うんだけれども、例えば中国人の学生が日本に来て、日本語を勉強しますというときに、B'zとか桑田佳祐とか勧めないじゃない。だから、カーペンターズやミュージカルの曲とかがいい。「ア・ホール・ニュー・ワールド」とか。歌詞が1つ1つきちっと発音されている曲がいいと思います。

 

深井 童謡とかはどうですか。

 

安河内 いいと思う。ただ、そこは難しいところで、いかにも子供向けっていう感じの童謡だと乗ってこないかもしれない。ビートルズ、カーペンターズぐらいだったら中学生、高校生なら乗ってきてくれるかな。

 

モチベーションをどう作るか

――お勧めの学習法やモチベーションの上げ方があれば教えてください。

 

久松 大学生活の中で英語に触れる機会を作るため、バイトに英語を取り込むようにしました。僕は高校時代から東進衛星予備校のお世話になっていて、今も東進で英語の添削のアルバイトをしています。あと、外国人が多い都内のホテルで接客のアルバイトをして英語に触れる機会をつくっています。

 

安河内 もともと英語は得意だった?

 

久松 はい。小学校低学年のころにネイティブの英会話の先生に最初に教えてもらったのがきっかけでしたが、数カ月程度で終わりました。中学校からまた英会話教室に通い出して、そこで会った日本人の女性の先生が、英語の学習だけじゃなく、「英語を使うことでどれだけ世界が広がったか」という話をしてくれました。英語を使えたからこそ、外国のオフィスで働いて、価値観が広がったそうです。だから僕も英語で何か発信したいと思って、英語弁論大会に出たり、スピーチコンテストに出たりしました。

 

久松将太さん(東京大工学部3年)

 

安河内 英語弁論大会を利用したり、刺激的な先生と話したりすることで英語学習のモチベーションを保ってきたわけだね。

 

斎藤 私は小学校を卒業する時には「将来、留学しよう」と決めていました。

 

安河内 留学したの?

 

斎藤 はい。高校時代の1年間です。私の母も高校時代に1年留学していたので、子供の時から「留学は楽しいから行ってきなよ」と言われていました。だから中学時代に留学しようと思いましたが、難しかった。でも、留学を目標に頑張ったと思います。

 

安河内 中学3年から高校2年ぐらいの間に留学するのはいいよね。ある程度文法がわかった上で行くと、どんどん使えるよね。

 

斎藤 そうですね。相手が言っていることが文法的にわかると、それを自分のものにして、次は自分でしゃべってみる。このやり方をすることで、英語力が伸びました。

 

安河内 文法がわからないと、現地の子供と同じように、ゼロから学び始めないといけないので、時間がかかる。でも高1ぐらいだと、ある程度文法がわかっているからいいよね。

 

斎藤 そうですね。語彙もそれなりにあるので、相手の言った話の中から自分のものにできるところを取り込むということが一番バランスよくできました。

 

深井 僕の場合、幼稚園ぐらいのころに親がパソコンを買ってくれたのがきっかけです。キーボードでローマ字入力する時にアルファベットの存在を知りました。「パズルみたいでおもしろいな」と思って勉強するうちに、英語に興味を持ちました。今、英語へのモチベーションを維持するため、羽田空港の国際線ターミナルで海外のお客様の接客をするアルバイトをしています。

 

深井雄介さん(東京学芸大教育学部4年)

 

安河内 みんな違うのがおもしろいね。

 

英語ができたら壁がなくなった

――みなさんが「英語ができてよかったな」と思ったのはどんな時ですか。

 

久松 中学時代、英語が人よりしゃべれると「すごい」って言われました。だから「もっと言われたいから頑張らなきゃ」って。

 

安河内 いいね、それ。

 

久松 自分とは全く違う価値観を持っている人たちのことを知ることができるのも面白いと思います。例えば、外国人の方って、台風のことをめちゃくちゃなめてる人がいる。「なんでそんな風が強いだけで日本人は午前中からタクシーを走らせないんだ」とか。自然災害の多さとか、文化とか、その人に根付いているものによって考え方が違ってくるのが面白いですね。

 

安河内 英語を勉強してよかったと思うのは、人種の壁がなくなったこと。例えば大阪の新世界の飲み屋にいるおっちゃんも、ロンドンのパブで飲んでるおっちゃんも、ただのおっちゃんで、みんな仲間だという感じで接することができる。壁がなくなったのはやっぱり英語を話せるようになったから。これは実はビジネスでも同じで、円卓で経営戦略について語り合っている時に、1人だけ通訳がいたり、1人だけ翻訳機を使っている人がいたり、1人だけランチで言葉が通じなかったりするとビジネスにならないんだ。

 中国語や韓国語、アラビア語ができないならまだいい。でも、英語ができないのはかなりきついね。なぜかというと、中国の人も韓国の人もブラジルの人も、みんな英語を使ってワンチームになろうとしているのに、1人だけチームに入れないことになる。英語の価値は多分そこにあるんだと思う。

 

――そういう意味では、読める、書けるよりも、話せる、聞き取れるのほうが大事なのでしょうか。

 

安河内 やっぱり4技能全部大事ですよ。ただ、1つだけ言えるのは「話す」がないとほかの3技能の勉強にやる気が起こらない。何かを読む時に「おもしろいから、誰かに伝えたいな」と思って読むじゃない。その前提で読むのと、自分が読むだけで完結して終わるのとでは、読む時の深みが変わってくる。書くのも同じ。人の言ったことをまとめたり、誰かと議論してから書いたりするのと、ただ単に書くのとでは全然中身が違う。やっぱり4つの技能が融合されたほうがいいと思う。

 

斎藤 高校時代、留学から帰って受験用の英語の勉強をした時に、ものすごく合わないと感じました。問われる内容とか、問題の感じとか。留学中はそう思わなかったんです。英語で授業を受けて、英語の問いにも普通に答えていました。日本で受験勉強をしながら、なんでなんだろうとずっと思っていました。もちろん今振り返ると、受験英語は大事で、日本語を使って英語の文法について学ぶ授業も大事だとは思っていますけど。

 

斎藤若奈さん(東京大教養学部3年)

 

安河内 日本の英語の入試問題は異常に難しい。でも、できたかできないかよくわからないうちに合格してしまう。ものすごくマニアックな問題も出たりするわけ。それは点数を下げるために必要悪として入れてあって、点数を低く抑えなくちゃいけないから入れているという事情もある。

 海外の大学に進学するならマニアックな英語は通らなくてもいい。英語力は、TOEFL iBTやIELTSで測るから。海外の大学に行くなら問題ないんだけれども、でもやっぱり日本の大学の入試をやる限り、半年間は受験英語の洗礼は受けなきゃいけない。

 

――予定されていた大学入試での民間英語試験の導入が延期されましたね。

 

安河内 準備不足は否めなかったですね。方向性が決まってからの2年間にゴタゴタして高校生に心配をかけてしまったと思う。でも、4技能を測定する方法は決して間違ってはいないと思う。文科省には地域格差や得点対照の問題を一刻も早く解決して、誰もが納得する仕組みを再構築してほしいと思っています。

 

――皆さん、受験生だったらがっくりしていたかも。

 

深井 可能性はありますね。

 

安河内 だよね。マニアックな英語をやらなくてもよい入試になるはずが、「やはり従来通り受験英語はやってください」となったわけだからね。どんな形になるにしろ、受験の英語は今後、難解な英語で点数を抑え込むような形から、4技能をバランス良く測る方向に進まなくちゃ行けないと思う。


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(2019年12月16日 14:00)
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