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――高円宮杯全日本中学校英語弁論大会というのは、都道府県の予選を経て集まった中学生に5分間のスピーチをさせて、それを競うというものです。中学生が5分間のスピーチをするというのは大事なんじゃないでしょうか。
安河内 どんどんやってほしいですね。スピーチコンテストやディベートコンテストがもっと流行ってほしい。日本中で毎月のようにコンテストがあってほしい。でも、残念ながら「受験があるから出ません」と言われる。全くおかしな話で、「英語を勉強しなくちゃいけないのでスピーチコンテストは出られません」っていう人、多いんですよ。本来なら、スピーチコンテストの勉強をすれば合格できる入試にしてあげなくちゃいけないんだけどね。
――中学生でスピーチをするのは難しかったのでは。
久松 僕はこの大会に出場しましたが、英語力が自分の伝えたい内容に追いついていないというギャップをどうするかが難しかったです。スピーチの原稿は自分が知っている単語だけでつくり上げたものじゃなく、英語の先生が教えてくれた単語やイディオムもたくさん入っている。日常生活で使ったことがない言葉をどのように理解して、思いを乗せて伝えられるかという点が難しく、完璧にはできなかった。ただ英語を使って発信するという素晴らしい機会にはなりました。
安河内 どのスピーチコンテストもそうだけれども、棒読みの丸暗記だとはねられちゃう。多少、発音や文法の間違いがあっても、表情、ジェスチャー、そして伝えたいという意思を持って、きちんと間をとって聴衆を見ながら話せるか、という力が大事。本来、コミュニケーションにおいて非常に重要なポイントが身につくので、私はもう中学、高校生は学校の中とか、地域とかで、毎日のようにスピーチコンテストやってほしいです。
個人的にちょっとやりたいなと思っているのは「1分グランプリ」。1分間のスピーチを即興でやる。例えば「あなたの好きな食べ物」「あなたが自慢したい日本の都市」とか言われたら、1分間考えて1分間スピーチする。それでトーナメント制で上がっていくのが1分グランプリの構想です。
――おもしろそうですね。
安河内 ぜひ、読売新聞でやってください。日本のスピーチコンテストに1つ足りないものがあるとしたら、即興性。やっぱり準備できちゃうんですね。でも世界で行われているビジネスの会話とか留学先での会話というのは準備ができない。日本人がここの点を鍛えるには。準備できない英会話、準備できないスピーチ、準備できないディベートをやるといいと思っています。ぜひ、やりましょうよ。
東京・有楽町で開かれた決勝大会。予選を勝ち抜いた27人が参加した。 |
英語をマスターするには留学は必要か?
――別の質問ですが、英語の学習において海外経験は必須だとお考えですか。
深井 僕は、海外経験は必須ではないと思っています。特に英語力を向上するためにというのであれば、必ずしも留学が必要というわけではない。
斎藤 私も必須ではないと思います。でも海外経験を積むことで得られる自信とか、英語をこれからも使っていこうというモチベーションを持てたりするという点はあると思います。
東野 今の日本なら、英語を話せるようになれる。そこの点について言えば留学は要らないと思いますけれども、英語しか通じない状況に置かれてみたいと思うなら絶対行ったほうがいいと思います。
久松 僕も必須ではないと思います。短期間で多くの刺激を受けられる場所に身を置けるという意味では価値があると思いますが、日本でも実現可能です。
安河内 おやじの意見を言わせてもらうと、留学は英語ができるようになるためにするんじゃない。英語なんか、このインターネット時代、日本だろうが、中国だろうが、ベトナムだろうが、モベーションさえあれば誰でもマスターできる。じゃあ留学しなくていいんだ、ってなるのが一番怖い。だって、留学は英語を学ぶためにするものじゃないんだから。
僕が強く言いたいのは、英語はどこにいてもできるようになるから、正しい勉強法でやってください、ということ。ただし、留学は、できる環境にあるならした方がいい。やっぱり得られるものが全然違う。肌の色が違う人とけんかしたり、恋をしたりとかいろいろある。島国の外で、「ああ、世界ってこういうふうになっているんだ」っていうのを学べることが留学の意義だと思う。今は海外でも仕事をしているけれど、大学時代に1年留学したかった。それだけはものすごく後悔しています。
――最近は、日本にいても外国の人と交流する機会が増えています。
安河内 僕たちの時は外人さん、日本人って線引きがあった。英語が日常的に子供のときから浸透している人って、その線引きがないんじゃない?
久松 あまりないです。
安河内 英語を話せる若者にボーダーがないのは見ていて感じている。これは大進化だなと思います。
深井 ラグビーのワールドカップは本当にいい機会でしたね。新宿とかにも応援する外国人がたくさん来て。僕も夜な夜なパブに行って、各国のサポーターたちと英語で話をしました。
安河内 自分も福岡の中州で飲んでいて、ウェールズから来た人と初めて話をした。ウェールズ人とフィリピン人とフランス人で、香港の学生デモの問題を夜中の2時ぐらいまで話した。これは英語だからできるんだ。
いろいろな国の人が1つの問題について白熱して語り合うって、国際連合とかでやってるものだと思いがち。けれども、世界中のカフェやパブではもう当たり前にやっている。そこに日本人だけいないのは寂しい。海外での会議とかに出ると、世界中の人たちがみんなランチに行ったり、ディナーに行ったりしているのに、日本人だけ集団になってビールを飲んでいるのを目にする。
東野 留学中にそうなりかけました。一緒に留学した日本人の友人とも「やっぱり会話のときには日本人グループになっちゃうよね」と話しました。
安河内 ほんとうにそう。アメリカ旅行中、ユースホステルみたいなところに泊まるといろいろな国の人が混ざっている。そこでも、いろいろな国の人90%と10%の日本人みたいに分かれている。そこでも「日本人ばかりで飲み食いしていると勉強にならない」と外国人に混ざる日本人がいる。そうすると、ほかの日本人が「何だよ、あいつ」みたいに言う。
深井 今年、アイルランドに行ったのですが、語学学校にいる日本人の学生が、みんなでラウンジでご飯を食べていました。
――これから留学する人にアドバイスを。
安河内 仕事でもそうだけど、会議室や教室に入ったら、とりあえず黙って座らないで、「Hi, good morning. How are you today?」って声をかけましよう。「My name is Tetsuya. May I have your name, please?」「Oh, you are from...」みたいな感じで。あとはできるだけ授業中に手を挙げる。留学先の授業で先生がしゃべっている内容がわからないことってあるよね。時々、先生が「Any questions?」と言うから、そこで手を挙げて「I didn't quite understand the last part.」とか言っておけばいいのよ。
――もう1回言わせる。
安河内 すると先生が「Oh, good question! I wasn't giving you enough examples.」とか言うから、そうしたら「サンキュー」みたいに答えればいい。
――それいいですね。
安河内 クラスメートが授業でプレゼンしたら、終わって一番に話しかけて、「Hey, thank you for the wonderful presentation. I was so impressed.」って言ったら、「Oh, thank you.」みたいな感じで友達になる。日本人って、いきなり声をかけたら「失礼なんじゃないか」「生意気だと思われるんじゃないか」とブレーキがかかっちゃう。でも、感謝されることはあっても、おかしく思われることは多分ない。仕事でも留学でもパブでも、真っ先に「ヘイ」って声をかけてくるやつは一番人気者になるね。
例えば、アメリカのユースホステルで、出しゃばらないように、ずっと座って話だけ聞いていると、言葉は悪いんだけれども「あいつは頭が悪いんじゃないか」と思われることがある。「自分の意見がない」と思われる。考え方が違うんだよね。日本人でも、ものすごくしゃべって、お調子屋みたいなやつが、アメリカ人から言わせると「あいつはスマートだよ」となる。日本と評価基準が違う。留学するなら、そこを理解しておかないといけない。日本人の控え目な性格を変えるいいチャンスにはなると思う。
英語でのコミュニケーションのコツを説明する安河内さん(中央)。積極的に話しかけることが大切だという。 |
翻訳機があれば英語の勉強はいらない?
――最近は、翻訳機や翻訳ソフトが普及しています。どう活用すればいいのでしょうか。
安河内 私、ポケトーク(音声翻訳機)のヘビーユーザーなんです。
――本当ですか?
安河内 中国語のね。私、中国語はまったくできない。中国に行くと、町にいる普通の人たちは英語があまりできない。数字もわからないことだってある。ポケトークがないと本当に困るんです。
――逆に、ポケトークがあれば問題なく旅はできるんですか。
安河内 ポケトークは便利。電池が切れたときは困ったけど。しかし、中国をポケトーク持って旅しても、残念ながら友達はできない。翻訳機でしゃべっている人とはなかなか友達にはなれない。「駅はどこですか」「これはいくらですか」「何が食べたいんですけど」とか、笑顔でやり取りしてそれで終わり。それ以上、翻訳機を使って雑談なんかしたくないもん。
斎藤 確かに、それはあるかもしれない。
安河内 旅行ではすごく便利な道具だと思いますよ。ただ、私は学生の皆さんにも子供たちにも言うのは、英語は翻訳機じゃだめなんじゃないかってこと。英語は世界中の高校生や中学生が勉強している。例えば何か世界の問題を議論しようというと、まあ英語になる。英語は生の言葉で絶対に覚えてほしいと思いますね。
――それでこそ人間関係もつくれるということですかね。
安河内 やっぱり翻訳機とか通訳が入ったら人間関係はできない。一番簡単な言い方でいうと、翻訳機を使って話す彼女。通訳つきの彼氏。これは無理でしょう。同じことだと思う。人間関係を構築できないので、ランチに行って翻訳機を使っていると、ものすごく悪い言葉で言うと「うっとうしい」って思われる可能性があるかなと思います。
だから重要な契約だけ確認するとか、重要なポイントだけ翻訳機を使うのはいいかもしれない。ただ、今の技術ではとても正確な翻訳は期待できないから、今の段階では翻訳機でやるのは危険かもしれないですね。
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