今年で65回目を迎える「読売教育賞」。学校や地域での優れた教育実践に光をあてるのが目的で、受賞を機に、一層指導に磨きをかける教員も多い。第63回(2014年度)の「算数・数学教育」部門で最優秀賞を受賞した長野県屋代高校・付属中学校の横澤克彦教諭(50)を、選考委員を務める数学者の秋山仁・東京理科大学教授が訪ねた。
◆身近な統計活用し解決策 長野・屋代高校
「コンビニエンスストアで使うカードのいいところは?」。今月18日、長野県千曲市の屋代高校。1年生の教室では、横澤教諭のきびきびした声が響き渡った。
「買い物をする時にポイントがたまる」「小銭が要らない」などと意見が出た後、「じゃあ企業のメリットは何?」と問いかけた。
「客を囲える」「レジがスムーズ」といった見方が出た。少し間をおいて、横澤教諭が「おなかをすかせた高校生が夕方にフランクフルトや空揚げを買う。そんな記録がカードに蓄積され、商品開発や陳列に生かされているんだよ」と話すと、生徒たちはうなずいていた。
横澤教諭は、データを活用して問題を解決する力を育てるため、数学の授業で統計の学習に力を入れている。この日は、生活の中でデータ分析が生かされている例を紹介した。
田中健登君(15)は「統計は数字が並んでいるだけの印象だったけれど、具体的な使われ方がわかって面白かった」と感想を語った。
授業を見学した秋山さんは、「統計はビッグデータなどでも活用され、未来を予測する学問になっている」としたうえで、「いい指導者がいると、いい生徒が育つことが自分の目で確認できた」と笑った。
一昨年、横澤教諭が応募したリポートで、秋山さんが感心したのが、生徒のやる気を引き出すための様々な工夫だった。同校では、生徒に達成感を持ってもらおうと、統計を使って身近な問題の解決策を提案する県主催のコンクールなどへの応募を後押ししている。
横澤教諭の授業で教壇に立つ秋山さん |
放課後には、各種コンテストに挑戦している生徒たちが集まって、横澤教諭の指導を受けている。
今年の慶応大学主催のコンテストで入賞した高2の青木祐人君(16)は、「子育てに関するデータを並べただけの論文を提出したら、先生から『何も提案していない』と指摘され、内容を練り直した」と振り返る。
横澤教諭は「読売教育賞の受賞を機に、自信を持ってデータ分析を取り入れた授業を進めることができた。生徒たちが学習の成果を外に発信する機会も増えた」と話す。
今年の募集を前に、秋山さんは「先生たちが考え、積み重ねてきたオリジナリティーあふれる授業や取り組み。そんな宝をリポートにして全国の先生方に提供してほしい」と呼びかけている。
◆「主権者教育」 報告にも期待
読売教育賞は今回から、募集部門の一部を見直した。「教育カウンセリング」と「児童生徒指導」の両部門は1部門に統合し、不登校やいじめに関する指導、スクールカウンセラーらの実践などを募る。
また、「外国語教育」「学校づくり」「保健・体育の教育」の各部門は、「外国語・異文化理解」「カリキュラム・学校づくり」「健康・体力づくり」にそれぞれ名称変更した。「時代の変化に対応し、幅広い教育活動の報告を期待したい」と選考委員会座長の谷川彰英・筑波大学名誉教授=写真=は話す。
「社会科教育」では、選挙権が18歳以上に引き下げられるのを受け、特に主権者教育の実践に関する応募を呼びかけている。同部門の選考を担当する谷川座長は「政治や社会の仕組みを理解し、自分で判断して投票する意識を持たせていくことが大切」と強調する。
昨年から応募期間は8月になり、夏休みを利用してリポートをまとめる教員も多い。「地道に実践し、試行錯誤した道のりを書いてもらえばいい。子どもとしっかり向き合った教師のリポートは必ず読む人の胸を打つでしょう」
◆第65回は12部門で募集
※今年度の募集は締切りました
【募集部門】 1.国語教育 2.算数・数学教育 3.理科教育 4.社会科教育 5.生活科・総合学習 6.健康・体力づくり 7.外国語・異文化理解 8.児童生徒指導 9.カリキュラム・学校づくり 10.地域社会教育活動 11.特別支援教育 12.音楽教育
【対 象】 小中高校、特別支援学校、幼稚園、保育所、児童館などの教職員、スクールカウンセラー、PTA、教育関係団体、教育委員会などの関係者
【表 彰】 部門別に最優秀賞(盾と副賞50万円)、優秀賞(盾)
【応募期間】 2016年8月1~22日。同日消印有効
【発 表】 10月下旬に読売新聞に掲載予定。
詳細は>>読売教育賞ウェブサイト
問い合わせは事務局へ 電話 03・6739・6713
(読売新聞朝刊 4月22日くらし教育面に掲載)