2015年12月22,23日の両日、東京都江東区の日本科学未来館の7階の会議室では、第59回日本学生科学賞の最終審査が行われた。会場には中学の部15点、高校の部15点の研究内容が幅2メートルほどに区切られたブース内に設けられた。各ブースでは、発表者が研究内容説明や実験の写真などをところ狭しとはりつけ、説明用のパソコンを置くなど、各参加者は最終審査に向けて発表に工夫を凝らしていた。福島県郡山市立郡山第六中学校自然科学部のメンバーは、同市内を流れる9河川の水質について東日本大震災による福島第一原発の放射能の影響も含めて調べたが、研究成果を簡単にまとめた小冊子を手作りして会場で配っていた。
◇島ならではの研究に挑戦。2研究が最終審査へ
全校生徒数38人、東京都の八丈島にある三原中学校。同中学校サイエンス部員は1~3年生で6人。この6人による研究成果「ハチジョウノコギリクワガタの研究Ⅲ」と「青ヶ島の見え方の研究Ⅲ 古来からの島の伝承の真相を探る」の二つともに都の最優秀賞に輝き、中央審査でも15作品の最終審査に残るという快挙を達成した。2010年創立の同部は、これまでにも2点が中央審査で入賞している。
八丈島の固有の昆虫「ハチジョウノコギリクワガタ」の研究は、3年の西村泰雅君(15)が中心になって完成させた。祖父から「昔に比べてハチジョウノコギリが減った」と聞いたのをきっかけに1年生から研究を始め、島全体の分布を知るためにサイエンス部員だけでなく、全校生徒に情報収集を呼びかけた結果だ。結論として、地上を歩くノコギリクワガタがニホンイタチによる捕食やアマミサソリモドキによる活動の圧迫で減少。木の上を移動するコクワガタは影響を受けにくいことがわかった。3年目からは保護活動を行っている。西村君は「保護活動は大変だったけれどノコギリクワガタの数は増えてうれしかった」と話した。この研究は文部科学大臣賞を受賞した。
ハチジョウノコギリクワガタの研究について説明する西村君(右) |
もう一つの研究は、島の南約65キロにある青ヶ島について、「青ヶ島が大きく見えた翌日は雨が降る」という伝承の真相を科学的に明らかにした。校舎のベランダに定規に糸を張ったお手製の観測装置を設置。計748日にわたり、青ヶ島の見える大きさと天候などのデータを収集した。実際に島が大きく見えた翌日が雨になる確率は70%と高く、その理由を気温・湿度・気圧などが違う空気がぶつかって光の屈折率が変化するためと結論づけた。3年の浦木勇瑠(たける)君(14)は「当番を作って朝8時に土日も休まず観測した。地方審査の間もデータを取り続けた」とチームワークの結果であることを強調。同研究は優秀賞に輝いた。
指導した同校の川畑喜照教諭によると「いくつかテーマがあって、それぞれ部員皆で取り組む。レポートを書くときに分かれてやるようにしている」と説明した。同校は学校賞も受賞した。
◇江戸時代の蘭学者の夢を研究テーマに
ジアナ樹を見せながら説明する久松君 |
高校の部では、都立葛西工業高校の久松厚介君(18)の研究「平面的に成長する銀樹の研究Ⅲ ジアナ樹の再現と保存」が旭化成賞に輝いた。ジアナ樹とは、異なる金属と銀イオンによってできる銀樹が(枝を縦横無尽に伸ばす銀色樹木状結晶)が特別な条件で美しい針状結晶となった金属樹。ローマ神話に出てくる女神ディアナ(ジアナ)のように美しいことから名付けられた。180年前の蘭学者宇田川榕庵(ようあん)は、近代化学についての翻訳本、舎密開宗(せいみかいそう)の中でその美しさを保存したいとの夢を持ったが壊れやすく難しいのでスケッチに甘んじた。久松君はこの願いを現実にしようとジアナ樹を平面的に再現し、保存する実験に成功した。
同校では土屋徹教諭を中心に金属樹の研究が続いており、2012年の第56回学生科学賞では祐川翔貴君が金を使った金属樹の研究で都の最優秀賞に輝いた。久松君はこの研究を見て「自分でも結晶を作ってみたい」とチャレンジ。「ジアナ樹を作るだけで苦労したが、それを平面に成長させるのは大変だった」と苦労を語った。