小中高校の教員と学校司書らが新聞活用学習(NIE=Newspaper In Education)の手法を学び合う第3回「よみうりNIE交流会」が10月24日午後2時から約2時間開かれた。今回は読売新聞東京本社(東京・大手町)に集まった12人と、ウェブ会議システムで参加した6人をつなぐ、初めての「ハイブリッド」形式で行われた。元運動部の勝俣智子記者(現・教育ネットワーク事務局)が「スポーツ面取材の舞台裏」をテーマに講演。北海道・札幌市立伏見小学校の長谷川美雪教諭が新聞を題材にした道徳の実践を報告した。田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザーの進行で、授業で新聞を使う意義などについて意見を交換した。
記者講演「スポーツ面取材の舞台裏」
▽勝俣智子・教育ネットワーク事務局記者
今年の6月まで約10年間、運動部の記者としてスポーツ取材を担当してきた。
新聞には締め切り時間が早い「早版(はやばん)」と締め切り時間が遅い「遅版(おそばん)」があり、地域によって配られる版が決まっている。スポーツ面は早版と遅版で紙面を作り替えることが多いのが特徴だ。
例として、ナイターの巨人―阪神戦を扱った朝刊の紙面で説明したい。早版は、まだ試合が終了していない段階で原稿を出さなければならない。投手は試合が終わるまで勝ち負けがつかないため、記事も写真も4番打者の活躍を大きく扱った。しかし、遅番では試合が終了しているので、復帰戦で勝利を挙げた投手に焦点を当て、記事も写真も差し替えた。主砲は毎日試合に出るし、打って当たり前だが、先発投手はローテーションなので毎日マウンドに立つわけではない。まして復帰戦を勝ち星で飾ったこともあり、ニュース性が高いと考え、遅版で大きく紙面を作り直した。早版と遅版は分業制だが、早版を担当する時は起承転結の「転」の部分を書いておくことが大事だ。
巨人戦は複数の担当者で取材するが、ひとりで取材する海外出張は本当に大変だ。昨年のテニス・全仏オープンを取材した時は、日本との時差が7時間あり、試合が行われるのが締め切り時間ぎりぎりだった。版によって取り上げる選手を変え、それぞれ原稿を書かなければならなかった。試合後の記者会見は英語で行われ、会見が終了した後に英語の一問一答のペーパーが出る。ただ、ペーパーを待っていたら締め切りに間に合わない。英語の会見を聞きながら原稿を書いて送り、ペーパーで内容を確認するという仕事の繰り返しだった。英語のコメントを訳すときは、その選手のキャラクターも考えて日本語にするよう気を配った。意訳をすることが大切だが、直訳が正しい場合もある。その判断を誤ると、訂正につながる。来年の東京五輪では、複数の新聞で選手のコメントを読み比べ、そのニュアンスなどを比較する。そんな授業もできるのではないか。
実践発表
▽長谷川美雪・札幌市立伏見小学校教諭
昨年度は6年生の道徳の授業で新聞を活用した。教材にしたのは、話題の人物を扱った地元紙のコーナー。被爆者の証言を動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信する長崎の高校生らを取り上げた。どんな取り組みをしているかを整理した上で、なぜユーチューブで動画を配信したのか、自分ならどう伝えるかを考えさせ、「努力と強い意思」という道徳の内容項目につなげた。話題の人物を扱ったコーナーは毎日掲載され、今を生きている人の人生や考え方が描かれているので、自分ごととして考えやすい。児童たちと年齢が近く、道徳的な価値に迫れるものを選ぶようにしているが、「なんで?」や「すごい!」という意識が、「知りたい!」という意欲へとつながっていく。
今年度は1年生の担任で、子どもたちが新聞に親しむことを大切にしながら取り組んでいる。実物投影機で新聞の写真を写し、「何を言っているのかな?」「何をしているのかな?」と問いかけ、想像させている。その後、記事の内容について説明しているが、「今日の新聞は?」と子どもたちから聞いてくれるようになった。
NIEのねたのたね「ホンモノの壁新聞をつくろう!」
▽田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザー
模造紙で壁新聞を作る取り組みをしている先生もいるだろうが、今日紹介するのは「ホンモノ」の壁新聞。学校の壁を紙面に見立てて、記事を貼りつけていく実践だ。
(1)題字のレイアウトを考える
(2)記事を選ぶ
(3)切った記事を壁に貼っていく
(4)写真に撮って記録する
初めは子どもたちに読んでほしい記事を、校長室前の壁に自分で貼っていたが、そのうち子どもたちが自主的に記事を貼っていくようになった。東京五輪を応援するコーナーも作っていった。社会への関心が高まり、記事を選択編集する力もつくので、お勧めだ。
■第4回のNIE交流会は2021年1月23日(土)
詳細は後日、ウェブサイトでお知らせします。