新聞活用学習(NIE=Newspaper In Education)について小中高校の先生や学校司書らが学び合う第6回「よみうりNIE交流会」が3月27日、オンラインで開かれた。スペインの日本語補習校に勤務する教諭を含む約20人がウェブ会議システムで参加し、防災教育についての講演や、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の実践発表などに耳を傾けた。
講演「防災について考える」
▽笠間亜紀子・くらし×防災メディア「防災ニッポン」編集長(読売新聞編集局専門委員)
くらし×防災メディア「防災ニッポン」は、読売新聞が開設・運営するWEBメディアだ。2020年9月の「防災の日」に公式オープンした。新聞からピックアップした特集記事、暮らしのヒントとなる独自取材の記事の2種類のコンテンツを掲出している。「持ち出し袋」「備蓄」などのタグからコンテンツを探すこともでき、生活に役立つ身近な防災情報を伝えながら、行動変容を提案している。平時の防災だけを扱う、報道機関としては新しい試みだ。
災害は突然やってきて、いやおうなしに巻き込まれるものだ。予測不能かつ想定外で多くの人々の命にかかわる。年代や地域などによって必要な備えはそれぞれ異なるが、「命」「家族」「心地よさ」をキーワードに幅広く防災情報を伝えていきたいと思っている。
数あるコンテンツの中から、NIEの教材になりそうな記事を二つ紹介したい。
一つ目は「ここまでそろった!100円ショップで防災グッズを買ってみた」。首相官邸が公開している「災害の『備え』チェックリスト」を手に100円ショップに行ってみたら、一般的な「災害用持ち出し袋」に必要な品物23項目のうち、6割を超える15項目を購入することができた。近くの100円ショップでどれだけそろえられるのか、子どもたちには実際に調べて行動に移してほしい。
二つ目は「3.11秘話『釜石の奇跡』の裏に共助のリレーがあった」。岩手県釜石市鵜住居地区の避難行動は、「避難のお手本」として広く知られるが、子どもたちの背中を押したのは、周囲にいた大人たちだった。副校長は「点呼はいいから、走れ!」と言い、地元消防団の団員は「はだしで大丈夫だから走れ」と声をかけた。570人の児童生徒が海抜2メートル地点から1.6キロメートル先の峠(海抜44メートル)に走って避難した行動が、証言をもとに時間を追って再現されている。「助けられる人から助ける人へ」を目標に、様々な想定で訓練を重ねてきたことも記されているので、ぜひ活用してほしい。
SDGs授業実践 ~自分ごとからはじめよう~
▽保積栄理・東京女子学院高校教諭(家庭科・フードカルチャーコース担当)
フードカルチャーコースは、食に関する社会問題について考え、実践に結びつけて自分の役割を見出していくことを目指している。プロのパティシエやフードコーディネーターなど、食の専門家の指導も受けながら、食に対する熱い思いを持った人々が社会を動かしていることを学んでもらっている。
企業の取り組みからSDGsと食を考えるため、2月にチョコレート製造大手の明治に特別授業をお願いした。新型コロナウイルスの影響で、残念ながらオンライン授業になったが、事前に届けてもらったカカオを割って実を取り出したり、チョコレートができるまでの工程を教えてもらったりした。その中で明治が、おいしいチョコレートを作り続けるために、カカオの木を育てる人とその土地の環境を大事にする「メイジ・カカオ・サポート」に取り組んでいることを知った。社員がガーナやブラジルなどへ足を運び、カカオ農家の生活が安定することで、森林破壊、児童労働、強制労働をなくすことに貢献していると理解し、生徒たちは自分たちにできることはないかと考えていた。
その後、インタビューのしかたを読売新聞の記者から教わり、東京・表参道でスイーツ販売も手掛けるカフェ「imparfect」を取材した。このカフェでは、商品を買った消費者が「環境」「教育」「男女平等」の3つの社会課題のいずれかに投票でき、売り上げの一部を課題解決に充てるプロジェクトに取り組んでいる。生産者・販売者・消費者がみんなで持続可能な(サステナビリティ)社会の実現を目指している取り組みを知った。
生徒たちからは「企業がおいしいものを作って販売しているだけではないことが分かった」「今まで意識したことはなかったけれど、商品を買うときは企業の取り組みも含めて検討しようと思った」などの感想が聞かれ、「自分にできることは何か」とよく考えて行動するようになった。
実践を通して、SDGs達成に向けた課題解決のためには、生徒たちが社会で起きていることを正しく知り、自分ごととして行動するようにしていくことが大切なのだと感じた。
NIEのねたのたね
▽田中孝宏・読売新聞教育ネットワークアドバイザー
中教審の答申で示された、現代的な諸課題に対応して求められる7つの資質・能力と、SDGsの17の目標を結びつけ、授業で活用できそうな記事を紹介したい。
国土交通省の調査を受け、危険なバス停への対策をまとめた「事故繰り返さぬため」(3月20日朝刊)の記事は、「主権者として求められる力」(中教審答申)とSDGsの「住み続けられるまちづくりを」(目標11)、「つくる責任 つかう責任」(目標12)とからめて考えられるのではないか。この問題は、子どもたちが主権者として自分で考えていかなければ解決できない。事故が起きないようにするために必要なものは何か、すぐにできる対策は何かを話し合ってもらうといい。参考にしてほしい。
※次回の交流会は5月22日(土)に開催します。詳細は後日、このウェブサイトでお知らせします。