読売新聞が記事を基に作成した教材「よむYOMUワークシート」の効果や活用例を紹介する「読解力向上フォーラム」が2月26日、オンラインで開催され、全国の教育委員会や学校の関係者約100人が参加した。
<講演>
学習指導要領を踏まえた教材
「今、注目されている『読解力』とよむYOMUワークシート」
冨山哲也 十文字学園女子大学教授
とみやま・てつや 十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科教授。文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(国語)として、学習指導要領の改定や全国学力・学習状況調査などに関わった。
「よむYOMUワークシート」の監修者として、全ての問題に目を通している。私自身が感じているシートの価値・効果について話をしたい。
「読解力」という言葉が全国的に注目されたのは、OECD(経済協力開発機構)のPISA調査(国際学習到達度調査)で、2003年の読解力の順位が14位になり、00年の8位から急低下したためだった。日本の子どもたちは情報の取り出しの問題はある程度できるが、テキストを解釈したり、熟考・評価したりする問題で課題が見られ、無答率も極めて高かった。
こうした結果を背景に、08年の小中学校の学習指導要領では「言語活動の充実」を打ち出し、現行の学習指導要領では「読むこと」を四つの学習過程で示した。「よむYOMUワークシート」は学習指導要領の内容をしっかりと踏まえ、「構造と内容の把握」「精査・解釈」を意識して問題を作っている。実際に解きながら、求められている読み方を六つに整理した。
(1)文章を丁寧に読み正しく理解する。
(2)文章と図表を関連付けて読む。
(3)原因と結果、意見と根拠などの関係について吟味しながら読む。
(4)複数の文章を関連付けて読む。
(5)筆者の意図を考えて読む。
(6)新聞記事の特徴を踏まえて読む。
今年度下期に配信した小中各15枚ずつのワークシートを見ても、(1)~(6)それぞれに当てはまる問題がたくさん出題されていた。問題を解きながら、様々な分野へ子どもたちの関心が広がっていくのも特徴だ。
何よりも大切なのは、ワークシートに取り組んだ子どもたちが「楽しい」と実感していることだ。現在、未来を生きる子どもたちに必要な資質・能力を伸ばしていくため、「よむYOMUワークシート」を活用してほしいと思っている。
<取り組み事例発表>
正答率 着実に上昇
2020年度からプロジェクトに参加している
野尻智 教諭・吉村倖一郎 教諭 北海道紋別市立紋別小学校
「きょうはすごくわかりやすかった」「キーワードを見つけるのが大変だったけど、解けたよ」などとうれしそうに話す子が増えました。教師が先に問題を解き、「きょうは難しいかも」「できたらすごいなあ」などと声をかけると意欲的に挑戦するようにもなりました。
受け持っている6年生の児童は、5年生後期から「よむYOMUワークシート」を使い始めました。半年ごとに正答率をデータ化すると、5年後期の58.5%から、6年前期66.5%、6年後期は69.5%と、着実に正答率を伸ばしており、無解答率も減りました。
教材の良さは「活字にふれる機会ができること」「文字数や問題数が適量なこと」「問題が身近に感じられること」の3点だと思います。
最初のころは「いやだ~」「むずかしい」と、文字に対する戸惑いを見せていた子どもたちが「自分の力になったよ」と話します。実に効果的な教材でした。
読解力と表現力の両方を育てる
2021年度からプロジェクトに参加している
笹沼恵子 教諭 栃木県大田原市立金田南中学校
「よむYOMUワークシート」の裏面に、記事に関連する作文課題を印刷することで、読解力と表現力、両方を育てる活動を行いました。生徒は週1回、朝学習の20分間で、ワークシートの設問を解き、各自で答え合わせをした後、作文に取り組みます。
書く力をつけるため、これまでも作文に取り組んできたのですが、校内行事の感想や季節の話題など似たような課題になりがちでした。新聞記事を基にした課題にすることで「災害に備えて実践していることは」「記事に書かれた意見に対する考え」など、多彩な内容に挑戦することができました。
当初は文章を読むのに精一杯で作文までたどりつけないのではないかと心配していたのですが、そのようなことはなく、生徒アンケートでは「速読力がついた」「読解力向上につながった」などの回答が多くなりました。また、長文読解に苦手傾向があった学年で無解答率が減るという成果も出ています。速読力が付き、問題を解く時間に余裕が生まれているためだと考えています
2022年度は市内全小中学校で導入
三重県松阪市教育委員会 同市立松江小学校
2021年度は市内18小中学校約2900人が「よむYOMUワークシート」に取り組みました。
22年度からは市内47校全てで、小5~中2の児童生徒が教材を使います。これは取り組んだ子どもたちの意識が大きく変わり「読むための教材としてだけでなく、子どもたちの知識として定着し、社会問題への興味関心の高まり、学びに向かう姿勢につながる」と判断したためです。
今年度、プロジェクトに参加したきっかけは、「文章全体の構成や展開を捉え考えたり、文章と図表などを結びつけて必要な情報を見つけて読んだりすること」「新聞をほとんど、全く読んでいないと答えた子どもの多さ」に課題がある点を重く見たためです。
多くの学校は「朝学習」で教材を実施し、国語の授業で内容を踏まえて自分の考えを文章に書き表したり、友達と話し合う活動につなげたりしてきました。また、タブレット端末を使って、自分の考えを書き込み、整理しながら記事を読み込む例もありました。
市立松江小学校では、22年度初めに保護者らに開示する「シラバス」に副教材として「よむYOMUワークシート」を位置づける予定です。
<講評>
ただ読む、細かく読むで終わらない可能性
田中孝宏 読売新聞教育ネットワークアドバイザー
子どもたちに実用的な文章を読む力を、どのようにつけるかと考え試行錯誤してつくったのがこの教材です。まず大変だったのは「読解力」とは何か、という点です。ただ読む、細かく読んで内容を知るだけではありません。情報活用的な能力、それから様々なことに興味関心を持って読み解く力、意欲など全てが含まれていなければなりません。そうしてできあがったのが、「よむYOMUワークシート」です。
普通だったら解いて、マル付けをして終わってしまうのに、子どもたち同士、あるいは、先生と子どもがこのシートを使って、様々な会話につなげられます。「なぜその答えになるのか」。理由をきちんと述べ、当てずっぽうではなく根拠をつかもうとしていました。このシートには、内容を補足する記事も付いています。単に読解力を鍛えるだけでなく、その先の使い方があり、教育の可能性があると考えます。
「読む・考える」絶対量を増やすことができる
森山卓郎 早稲田大文学学術院教授
活字に触れることが少ない子どもたちにとっては、「読む・考える」ことの絶対量が重要です。一度に集中して読める量には限りがありますから、コンパクトな量の文章をたくさん読むことが大切になってきます。
特に注目したいのは語彙力です。語彙力を育てるには多くの言葉との出会いがなければいけません。よくないループに入ってしまうと、知らない言葉が多すぎて読んでも分かりません。読む気がなくなり、読まなくなり語彙力も育ちません。これをよいループにしていくきっかけが重要です。
興味のある話題について書かれた文章の中で言葉に出会うこと、社会生活で必要になる語彙力を持つこと、ふりがながふってあることなど、「よむYOMUワークシート」には工夫があります。読解の基本的な技能を高めるとともに、学びに向かう力として内容面での興味関心を広げていくことが期待できます。さらに、トピックを共有することで話し合いを豊かにできることも大切だと思います。
>>「よむYOMUワークシート」2022年度のお申し込みはこちらから