進路室は海[1]3000回の出会い

[1]3000回の出会い

 

 横浜市立桜丘高校で国語を教えている。「誰にでも元気に挨拶する」と「授業では生徒を笑わせる」を信条に奮闘しているが、ちょいちょい空回りしてしまう。生徒たちからは「ちばさと」と呼ばれている。

 

 

とにかくもひとこと交はす「ういーッす」たいせつなんだこの生徒には

大松達知『ぶどうのことば』

 

 去年から進路指導室に机を置くようになった。

 漫画によく出てくる「書類の束をかかえて廊下を急ぐ」シーンなんて、現実にはめったにないだろう、と思っていたが、いや、あるのだ(古典の現代語訳、「反語」風に書いてみました)。大学の最新情報、模試の結果、推薦入試の書類など、進路室には毎日、恐ろしいほど大量の(しかも、そのほとんどが分厚い)郵便物が届く。進路担当として新米のちばさとは、それらをかかえて進路室へ運ぶ。漫画では、誰かとぶつかって書類が散乱! ぶつかった相手と恋におちるのだろうが......。

 「手伝いましょうか」

 現実には、誰もぶつかってこない。生徒たちは、よろよろ歩いている俺を心配して、声をかけてくれたり、道を開けてくれたり。

 進路指導担当には、1年で3000回の出会いがある。進路相談、面接練習、小論文指導のために、たくさんの生徒と出会う。生徒たちの人生を大きく変える可能性がある郵便物を通して、校外の世界を知る。訪問してくださる大学の職員さんにお会いして、大学のリアルを教えていただく。いただいたお電話で大切なお話をうかがう。

 生徒は日々変化する。それに合わせて、必要な支援も変わる。進路室は海だ。常にドラマチックに揺れ動き、思いがけない出会いに囲まれる。

 「はい。おはよう! よく来たね」

 生徒が来るたび、俺は元気に迎える。昨日とは違う用事で訪れた子。今日はこの子と、また出会い直すのだ。

 

 

ストレートヘアーでひらひら駆けてくるもんしろ蝶のような女生徒

俵万智『かぜのてのひら』

 

千葉 聡 @CHIBASATO

 1968年生まれ。横浜市立桜丘高校教諭。歌人。著書に『飛び跳ねる教室』『短歌は最強アイテム』など。

 連載スタート! がんばっている高校生たち、先生たちの横顔をお伝えします。よろしくお願いします。

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(2018年12月10日 11:00)
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