リンゴの名産地として名高い長野県の中でも、リンゴ畑が一面に広がる長野市の国道18号沿いは「アップルライン」として多くの直売所が軒を連ねます。2019年10月の台風19号は、この地に大きな爪痕を残しました。5年間の時を経て、復興へと歩みを続ける農家の声を取材しました。
(法政大学・野元美帆、写真も)
濁流がリンゴの木をなぎ倒す
2019年10月13日未明、台風19号がもたらした大雨によって、長野市を流れる千曲川の堤防が決壊。8300棟余りの住宅が浸水などの被害を受けました。
「家の2階まで濁流が押し寄せ、リンゴの木が何本もなぎ倒された」
今年4月、長野市赤沼にある「フルプロ農園」の代表・徳永虎千代さん(32)=写真右=が話してくれました。水が引いた後に立ちこめた泥の臭いが今でも忘れられないそうです。赤く色づき、収穫を待つばかりだったリンゴが一瞬にして失われた現実。それでも、徳永さんはすぐに動き出しました。
SNSでボランティアを呼びかけると共に、「長野アップルライン復興プロジェクト」と題してクラウドファンディングによる復興資金を募りました。「長野のリンゴをなんとかしなくちゃ、という一心だった」。徳永さんは当時を振り返ります。
集まった資金によって購入した草刈り機などは、地域で共有するとともに、自身の農園で推進していた「高密植栽培」による復興を地域の農家に呼びかけました。「流されたものを元に戻すだけが復興ではない」という思いからです。新たに植えるリンゴの木を高密度にすることで、栽培が容易になり、土地あたりの収穫量を増やすことができます。少子高齢化が進む日本で、農業を持続可能なものにしていくためには、生産性の向上が欠かせないのです。
復興を地域の活力につなげる
取材の際に、私も実際に収穫作業を体験してみました。高密植栽培のリンゴの木は、一直線にコンパクトに並んでいるのが特徴です。下の方に実ったリンゴは、歩きながらスムーズに収穫できます。初めて体験した私でも、簡単に収穫することができました。太陽の光をいっぱいに浴びたリンゴの温かさとともに、心地よい重みが両手に伝わってきます。「採れたてのリンゴを丸かじりできるのは農家の特権」。徳永さんの言葉が印象に残りました。
「農業経営がうまくいけば、地域に雇用を創出できる。都市部からの労働力も受け入れられるような会社にしていきたい」と徳永さん。今後も日本の活力を維持していくためには、地方の活力を維持していかなければならない――。変わっていく社会で、農業を維持し続けていくためには、農業従事者も変わらなければならない。災害からの復興だけでなく、将来を見据えた徳永さんの思いを取材して、私たち若い世代もその主役となっていくことができる、と感じました。