一定間隔に貼られたテープや消毒液の場所を強調する矢印。コロナ下、私たちの日常では、これらの感染症対策を促す仕掛けが当たり前になっている。実はこの感染対策には、「ナッジ」という理論が応用されているという。(慶應義塾大学・吉野彩夏)
「新しい日常」の道しるべ
レジ前などに一定間隔に貼られたテープや、人気キャラクターの形で石鹸が出てくるテーマパークのサービス。私たちは、知らないうちにナッジに出会っている。ナッジとは行動経済学の手法の一つで、強制することなく、人々が自然に望ましい行動を取ることができるように、そっと後押しすることを指す。自発的に行動を起こすように無意識下に働きかけることがポイントだ。「新しい日常」は、実はナッジに囲まれているのだ。
「一人ひとりが自然に感染対策をすることが大切」。慶應義塾大学看護医療学部の中村希美さん(4年)が話してくれた。「十分使うとはなまるが出てくる消毒液ボトル」「スマホがトイレの便器と同じくらい汚いことを伝え、スマホの除菌を促すポスター」「除菌シート付きスマホ」「帰宅時の手指衛生を促すデザイン」「消毒液の減りが目に見えてわかるデザイン」--。中村さんが代表を務める「看護医療政策学生会」では、若者に焦点を当てた様々な「ナッジ」を考案している。全国の大学生にSNSでアンケートを行った結果、評価が高かったのは「はなまるが出てくる消毒液ボトル」と「スマホの消毒を促すポスター」だったという。
迷ったら挑戦
中村さんが看護医療の道を志したのは高校1年生の頃。家族が慶応大学病院に入院した時に、寄り添ってくれた看護師の姿に憧れ、「患者さんだけでなく、家族にも寄り添えるような看護師になりたい」と強く思った。
大学入学当初は、忙しい毎日で研究に興味を持てず、「向いていない」と思うこともあったが、「迷ったら、挑戦する」と自分に言い聞かせた。最初は漠然とした興味から入った看護医療政策学生会での活動。全世界を襲ったコロナ禍で若者の行動が批判されたこともあり、感染対策に向けた若者の行動変容に取り組んできた。
4年生になり、卒業後は大学病院で勤務する予定の中村さん。「インクルーシブ教育」にも関心を持っているという。障害を持っている人と持っていない人がともに学ぶインクルーシブ教育。障害の有無にかかわわらず、一人ひとりの個性を尊重することが特徴だ。「誰もが平等に、自由に生活することのできる社会を作っていきたい」と力を込める。
様々な個性や背景を持った患者たちと向き合う看護の仕事。「多様な人たちと関わりながら、自らも学び、成長を続けていきたい」と目を輝かせた。(写真は中村さん提供)
ナッジ(nudge)
英語で「そっと後押しする」という意味。本来の意味は「肘で小突く」「そっと突く」のような動作。行動経済学の知見を活用し、人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けすることを目指す。
キャンスコ46号を読んで、感想を教えてください。抽選でAmazonギフト券が当たるチャンス。Webも読めばさらにチャンスが広がります。キャンスコ46号が手元になくても、Webコンテンツを読めば、アンケートに応募できます。
⇩回答はこちらから⇩