MyScope 17.人の温かさ

船の外は海が見えるだけの日々が続いた


17.人の温かさ


明治学院大学2年 丹伊田杏花(にいだ・きょうか)

 

 どこまでも続く青い海。絶え間なく聞こえる波の音。
 今年1月から2月、私は内閣府の国際交流事業「世界青年の船」に参加した。
 11か国、約240人の若者らと大型客船に乗り、太平洋を約40日かけて往復した。客室に3人一組で寝起きする生活で、船内では、自国の文化を紹介しあったり、テーマを決めて議論しあったりするイベントが毎日のように行われた。
 ケニア出身の参加者がライオンを狩るマサイ族の生活を紹介したり、ニュージーランド出身の参加者が先住民族マオリの踊り「ハカ」を披露したり。多様性を受け取るだけでなく、私からも発信した。出身地・福島県の焼き菓子とようかんを振る舞うと、味や見た目に感激する人が相次いだ。
 船内は電波が届かず、スマホを使えなかった。バーレーン出身の参加者は、「スマホがあれば、どこでも誰とでもコミュニケーションが取れる。でも、あなたを抱きしめることはできない」と話した。情報の「海」におぼれず、生身の人間と向き合うしかない場所に、私はいるのだと実感した。
 スリランカ出身の参加者から、自国の独立記念日が2月4日だと聞いたときは、その日に皆が国歌を斉唱した。誰かの誕生日が来れば、本人を祝う会を開いた。
 そんな日々を送りながら、私たちは歌を作った。
 <あなたの幸せは私の幸せ。あなたが輝かなかったら私も輝かない>
 外は冷たい海風が吹き続けていた。でも私たちがいた船は、ふだん暮らす「陸」より、はるかに温かかった。



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(2020年3月30日 13:00)
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