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紀伊国屋書店新宿本店 アカデミック・ラウンジ
紀伊国屋書店新宿本店(東京都新宿区)3階のオープンスペース「アカデミック・ラウンジ」が人気を集めています。本棚がずらりと並ぶ中に現れる約70平方メートルの空間です。いったい何が行われているのか。昨年12月に開かれたイベントに参加しました。
この日は、ウルトラマンシリーズで知られる映画監督・八木毅さんと、人気アニメの脚本家・小林雄次さんが2人で執筆した児童向け小説「ナイト☆トレイン」(小学館ジュニア文庫)の出版記念トークショーが開かれていました。
作品は、人々の願いをかなえる銀河鉄道を舞台にしたファンタジーです。会場には、ファンとおぼしき小中学生の姿もちらほら。最初は「子ども向けなのかなぁ」と感じました。しかし、イベントが始まるとそんな思いは吹き飛びました。
「キャラ設定で意識したことは何ですか」。女の子からの質問に、八木さんが「特別に、企画書を見せちゃおうかな」と応じ、会場が沸きます。作者との距離が近く、臨場感があります。
「面白いものは、大人にも面白くなければならない」と八木さん。さらに小林さんが「大人にも届く内容」と作品の紹介をすると、書店を訪れていた人たちが次々と足を止め、いつのまにか人だかりができていました。
ラウンジは2022年11月に設けられ、毎週のように大学教授や映画監督らが、自身の著書について語ります。紀伊国屋書店営業企画部の佐藤雄介さんは「書店ならではの『出会い』を届ける空間です」と話します。

「アカデミック・ラウンジ」には、大学生や高校生が「選書」した本が飾られている。
ネットショッピングでは、新しいものに出会いにくくなっています。立ち止まって、いつもとは違うものに目を向け、普段は関心のなかった本や考え方、人と出会う。一見、無駄にも見えるスキマのような場所が、出会いを日々生みだしているのだと実感しました。
【取材を終えて】幼い頃から、なぜか立ち寄ってしまうのが本屋でした。特に何を買うわけでもなく、ただ本棚に並んだ本を見て、たまに手にとって棚に戻すだけなのに、なぜか心が温まりました。アカデミック・ラウンジでの取材で、そのときの気持ちを思い出し、気づきました。本屋に立ち寄る行為は一見意味がないように見えて、「未知との遭遇」を可能にしているのではないか、と。日常とは異なる時間と空間に身を置き、他者とリアルな体験を共有する。日頃とらわれがちなコスパやタイパといった縛りから解放され、実際に交流する。そうすることで、自分にとって未知のものに出会い、他者の想いが自分ごとに変わる瞬間がありました。書店があらためて「無用の用」を教えてくれたように思います。
河合隆志(東京大学2年)
政治思想を専攻。最近読んで面白かった本は「訂正可能性の哲学」(東浩紀著・ゲンロン)、「動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」(千葉雅也著・河出書房新社)。訂正、偶然性、中動態を切り口とした公共圏の在り方に興味あり。
「ナイト☆トレイン」を執筆した小林雄次さん(左)、八木毅さん(右)と一緒に。「未来を切り拓く」というメッセージの込められた物語に出会うことができました。