お宅の襖 大学生が張り替えます!【東大襖クラブ】

コロナ以前の五月祭(学園祭)の様子=写真はいずれも東大襖クラブ提供

 

 あなたの大学にも、頑張っているサークル、ありますよね?ほかのサークルの大学生たちは、どんなことを考えながら活動しているのか、キャンスコを通じて、もっと多くの大学生に知ってもらうお手伝いがしたい!ちょっとお節介かもしれませんが、頑張っているサークルに声をかけて、キャンスコメンバーが紹介させてもらいます!

 

3. お宅の襖 大学生が張り替えます!東大襖クラブ

リポート:淑徳大学3年・奥津楓

 東京大学の学生が、一般のお宅の襖や障子を張り替える、という何とも不思議なサークル。実はその歴史は古く、創部は1964年とのこと。学生のアルバイトとして始まったという活動を取材しました。

 

意外に体育会系

 

 「大きく『襖』とだけ書いてあるパンフレットに引き付けられました」。高校時代はアメリカンフットボール部に所属したという戸谷祐登さん(工学部建築学科4年)が話してくれました。

 「襖の張り替え」という変わった活動だけに、物珍しさからの加入者も多いのでは?と思って取材したのですが、意外にも活動は「体育会系」の厳しいものでした。

 毎年4月に1年生向けに行われる新入生歓迎会。複数回行われるこの会に、3回以上出席した人だけが、ようやく「入部希望者」として襖を張り替える実践練習を許されます。

 「『初張り』の時に、のりの入ったバケツを思いっきり倒してしまったんです」と戸谷さん。「初張り」とは、先輩指導の下、初めて襖を張り替えること。初心者ばかりのサークルだけに、丁寧に指導してもらえるのかと思いきや、直接指導はその1度だけ。「初張り」を終えてからは、1人でひたすら練習を繰り返す日々。週に一度くらいのペースで部室へ行き、初張りのときに先輩から教わった方法で、張り替えを行います。練習で張り替えた襖に名前を書きこみ、部室に残しておくと先輩が後から採点、アドバイスを書き残してくれる、という仕組みです。専門の「講師」がいるわけでもなく、戸谷さんも「とにかく孤独な日々」と振り返ります。

 この3か月の練習を経て、ようやく「張り替え」をマスターできるそうです。

 練習を積み重ね、先輩に認められれば晴れて「合格」となれば本入部。いよいよ、依頼主のお宅に伺うことになります。クラブで受ける依頼は様々で、「個人宅で1枚」の時もあれば、旅館から大量の依頼を受け、泊まり込みで張り替えたこともあったそうです。

襖の張り替え作業     

張り替えで生まれ変わる

 

 「襖を張り替えると、部屋の印象が大きく変わる」と戸谷さん。自宅マンションをフルリノベーションしている依頼主には、「襖担当」として、すべてを任される「職人気分」。依頼主が別の作業をしている横で行った張り替え作業はとても新鮮だったそうです。また、一戸建てに住むある夫婦は、白からピンクへの張り替えを依頼。「帰ってきたお子さんが、いつもと違うお部屋を見て喜んでいた笑顔が忘れられない」と振り返ります。

 張り替えることによって再び使えるようになる襖。「外国にはない日本の伝統的な文化に関われるのが活動の魅力」と戸谷さん。先輩から後輩への伝承で張り替えの技術を受け継いできたサークルにも、「職人魂」のようなものを感じます。

 コロナ禍では依頼を都内に制限せざるを得ない状況が続き、学祭での発表もオンラインで行うなど、活動に大きな制約がありました。それでも、張り替えをYouTubeで生配信したり、オンラインでの部員同士の交流を企画したり、試行錯誤を続けながら、技術の伝承に努めてきたそうです。2022年の学祭では一部対面での張替実演を行ったほか、コロナ対策のもと、依頼も引き受けるようになったそうです。現在の部員は25人ほど。最初から日本の伝統文化や襖に興味があったわけではありません。専攻も建築、工学だけでもありません。「襖という共通言語を通して交流できる。試行錯誤が続くが、何とかこの輪を守っていきたい」と戸谷さんは力を込めます。「襖クラブ」という変わった名前に惹かれて取材した私ですが、「襖が共通言語」という言葉に、学年を超えた繋がりを感じました。洋風建築が普及したいまでも、多くの家屋に残る襖に新しい命を吹き込む活動を、これからも受け継いでいってもらいたいと思います。

 

>>東大襖クラブウェブサイト

練習用の襖が並べられた部室。先輩とのやり取りの記録が載せられている
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(2022年7月 6日 07:16)
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