読売新聞記者による主権者教育の出前授業が3月7日、松山市の済美平成中等教育学校で行われた。今夏の参院選を前に、間もなく選挙権年齢の18歳に達する5年生(高校2年生)約100人が参加した。2回の模擬投票を通して、判断材料となるデータを有権者が持っているかどうかによって、選挙結果が異なることを体験した。(学年、年齢は取材時)
総務省主権者教育アドバイザーでもある本紙の渡辺嘉久記者が講師を務め、松山市の選挙管理委員会と啓発活動に取り組む「選挙コンシェルジュ」の地元大学生7人が協力して実施した。授業では人口が減少する未来の学校について考えた。
日本の総人口は、2020年の1億2600万人が、70年には8700万人と約3割減ると推計されている。少子化が大きな原因で、学校にとっては生徒数の減少により授業料収入が減ることになる。不足分をどう補うかを争点に、選挙コンシェルジュの3人が候補者に扮して模擬選挙を行った。
候補者3人は「授業料を引き上げる」「地域住民が負担する」「借金で賄う」とそれぞれ主張し、有権者に当たる生徒との質疑応答に入った。生徒からは「人口減少が予想以上に進めば地域住民の負担が過重になる」などの質問が出た。候補者は「合併によって自治体の規模を大きくすれば対応できる」などと答えていた。
候補者役の選挙コンシェルジュに生徒からは質問が続いた
生徒は候補者3人の主張について、メリットとデメリットを話し合い、配られた付箋に書き込んだ。渡辺記者から「自分と全く同じ考えの候補者はいない。より近い主張の候補者を選ぼう」と助言を受けて、候補者ごとに用意されたホワイトボードに付箋を貼りつける方法で、模擬投票を行った。結果は「授業料引き上げ」の候補者が50票を獲得し、「地域住民が負担」45票、「借金で賄う」10票を退けた。
この後、渡辺記者は人口減少の未来が、その時の社会の担い手となる今の高校生にどんな影響を及ぼすかを説明した。少子高齢化に伴う社会保障費の負担増、将来にツケを回すことになる国債という借金頼みの財政状況......。それらを、新聞記事や国の資料を元にした図表を示しながら説明した。
こうしたデータを知った上で、松山市選管が本物の投票用紙や投票箱を使った2回目の模擬投票を実施した。結果は「授業料引き上げ」58票、「地域住民が負担」28票、「借金で賄う」19票となった。渡辺記者は「選挙後の合意形成で『授業料引き上げ』が軸になるのに変わりはないが『地域で負担』『借金で賄う』という意見をどれだけ取り入れていくか。1回目と2回目の投票結果では重みが変わってくる」と指摘した。
授業を終えた青山和加さん(17)は「国債は自分より後の世代に負担が回って行く。政治の中で考えなければいけない要素だと思った」と話していた。田房姫星(たふさ・きらら)(17)さんは「投票を体験できて選挙の壁が低くなった。自分の国の将来を決める選挙に行くのは大事なことだ」と振り返った。
本物の投票用紙や投票箱で模擬投票を体験した
読売新聞教育ネットワーク事務局は、主権者教育の出前授業を受け付けています。窓口はこちらから。政治を身近な「じぶんごと」として考え、投票に結びつけるにはどうすれば良いのか。記者講師と生徒が授業で一緒に考えます。市区町村選挙管理委員会との共同実施も歓迎します。