高校生向けオンラインセミナー(2)

東京慈恵会医科大のセミナーで講義した小島博己教授(中央)ら

10月2日 東京慈恵会医科大学

大村和弘 講師(ノースカロライナ大留学中)/栗原渉 助教(耳鼻咽喉科学講座/再生医学研究部)/小島博己 教授(附属病院 院長)/櫻井結華 准教授(キャリア推進室)

その先の医療へ~自らの力で切り拓こう~

 東京慈恵会医大出身で米国のノースカロライナ大に留学中の大村和弘講師は、オンラインで現地から参加した。

 大村講師は、大学卒業後、ミャンマーやカンボジア、ネパールなどで医療ボランティアに従事した経験についての話から始めた。これまでに手術の術式12個を開発し、コロナ下の1年間でもフィリピン、アラブ首長国連邦、オーストラリア、台湾などで手術法を教えてきた。米国では、世界的に有名な教授に直接会って、一緒に研究させてもらえるよう依頼。徹夜で作った資料を基に自分の術式を説明した経験を語った。

 「米国では研究について対面で直接話すことが必要だった。英語は大変だったが、ボイスメモで録音し、後でゆっくり聞き直すことで内容を確認した」と語学面での苦労話も披露した。最後に「日本の医療はすごい。医師になったら、『世界を助ける』という気持ちで一緒に働くことができればと思う」と呼びかけた。

 難聴の治療に取り組む栗原渉(しょう)助教は、人工内耳と再生医療の研究について紹介した。超高齢化社会で加齢性難聴の患者が増加し、現在は世界人口の6.1%が難聴だが、2050年には10%になるという見通しを示した。

 難聴患者の中でも、耳の奥の内耳が障害を受けて難聴になった患者は根本的な治療法がない。患者の耳の外側に装置をつけて信号を送り、内耳に埋め込んだコイルで聞こえるようにする「人工内耳」による治療の現状を説明した。「人工内耳を使うことで聞こえるようになるという小さな奇跡が起きている。自分がやるべき仕事はこれだと使命を感じた」と述べた。

 さらにiPS細胞で人工臓器を作製している基礎研究についても解説。「患者の元に届くまでには、まだまだ長い期間が必要だ。引き続きがんばりたい」と抱負を語った。

 付属病院の院長も務める小島博己教授は「その先の医療へ~自らの力で切り拓(ひら)こう~」をテーマに、医師になるまでの教育と大学病院の役割のほか、医療現場での新型コロナウイルスへの対応を説明、医療の将来についても展望した。

 大学病院は臨床、教育、研究を行っており、小島教授の耳鼻咽喉科だけでも約140人の医局員を抱え、「一つの会社のよう」と説明した。

 新型コロナウイルス対応で大学付属病院は東京都と連携し、病床確保などに総力戦で取り組み、感染拡大初期の2020年3月は、がんと緊急時以外の手術以外は延期するほどの非常態勢だったことも明らかにした。その後、ワクチン接種開始が大きな節目となり医療現場は落ち着きを取り戻したものの、コロナの「負の副産物」として対面交流が減ったと分析した。

 将来の医療は、AI、ロボット手術、遺伝子診断など技術の進歩と、少子高齢化やグローバル化といった患者層の変化が進む一方で、終末期医療などが重要になると予測した。

 それでも、医師に求められるのは、使命感、リーダーシップ、コミュニケーション力、学び働き続ける姿勢だと指摘。「可能性は無限。自分たちで未来を切り開こう」と呼びかけた。

 教員キャリア推進室の委員を務める桜井結華准教授は「医学科カリキュラムトピック&医師のキャリア支援」と題し講義。新型コロナウイルスの影響で、教育現場でも対面形式が見直され、eラーニングや臨床技能研修でのシミュレーターの活用が進んだと説明。「eラーニングは自分のペースで学習できる利点があるが、医療面接などコミュニケーションの練習は出来ない。学習法それぞれの利点、欠点を理解して有効活用することが大切」と訴えた。

 母として3人の子育てをしながら医師として働いてきたキャリアについて振り返り、「研究や仕事へのやりがいやモチベーション(意欲)がキャリアの継続につながる」と述べた。一般的に、育児、介護、病気には一人での対応が難しく、特に育児は子どもが病気になることも多く、支援が必要になると指摘。同大を例に出して、支援策としてベビーシッター費の助成、女性医師研究助成金などがあり、「自分が利用した短時間勤務制度は、大変役にたった」と話した。

東京慈恵会医科大のセミナーで、高校生の質問に答える大村和弘講師と栗原渉(しょう)助教(右から)

 

10月16日 東北大学

押谷仁 教授(医学系研究科 微生物学分野)/小坂健 教授(歯学研究科 国際歯科保健学分野)

感染症と共生する社会を築く

 セミナーの前半は感染症の専門家として国の新型コロナウイルス対策に関わってきた2人が講義し、感染症と共生できる新たな社会を築くには、医学だけでなく様々な研究分野との連携が必要と訴えた。

 政府の対策分科会委員を務める押谷仁教授は、人類と新興感染症との歴史を解説。古代エジプトのミイラに天然痘の痕跡があるといい、文明の発達に伴い人口の増加と人の移動範囲が拡大した影響で感染症のリスクも増大。「21世紀に入り、少なくとも3回、新しいコロナウイルスの脅威にさらされてきた」と話した。

 国境を越えた地球規模での人や物の移動が当たり前の現代では「パンデミックは起こるべくして起きる」と指摘。東北大は感染症と共生できる社会のあり方を探る研究拠点を設立し、医学のほか人間の生活・文化に関わる社会学的な領域も含めて、長期的な視点で学際研究を始めたと説明した。

 「高校時代から山登りをしていたが、(学生時代に)勉強だけでなく、人生経験や読書で、幅を持たせなくてはいけない。問題が複雑化して単一の専門性だけでは対処できないことを考えると、これからの時代、ますます色々な視点を身に付けることが必要」と展望を述べた。

オンラインセミナーで、参加者の高校生の質問に答える東北大の教授ら(仙台市で)=富永健太郎撮影

 厚生労働省クラスター対策班のメンバーである小坂(おさか)健教授は、現代の情報化社会におけるパンデミック対策として、アプリなどを使った韓国とシンガポールの濃厚接触者把握システムを紹介し、国内の感染者接触確認アプリ「COCOA(ココア)」と比べた。

 情報提供は、発信する側の論理ではなく受け手側を考えた伝え方が重要だと指摘。人々の生活環境を左右する政策は健康にも大きな影響を与え、死亡率に大きく関わるという研究論文も示した。

 パンデミックのような大きな災いに立ち向かうには、事前の準備に加え、柔軟な対応が必要とした上で「悲観的にならずに成長していく機会ととらえ、積極的に受け入れて問題解決を図ろうとする考え方が重要だ」とアドバイスした。

 セミナーの後半は、講師のほか、現役学生、研修医と指導医(若手の医師)の3組に分かれ、高校生の質問を受け付けた。現役学生の組では、筆記試験や小論文、面接といった入試対策や、診療科をどの時期に決めるのか、アルバイトと学生生活など様々な内容について、11人の医学部生が自らの経験を踏まえて答えた。

東北大学のセミナーを受講する生徒(秋田県立秋田高校提供)
東北大学のセミナーを受講する生徒(埼玉県立浦和高校提供)

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(2023年3月31日 10:56)
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