【動画つき】医療体験プログラム2025、高校生7人の声「患者の未来を広げる医師に」「命に対する責任を感じた」

手術室の中で外科医から説明を受ける7人の高校生ら。写真の左側は順天堂医院、右側は大阪大病院で

 医療を志す高校生が、医師の心構えを救命の現場で学ぶ「医療体験プログラム」が7~8月、順天堂大学医学部附属順天堂医院=以下順天堂医院(東京都文京区)と大阪大学医学部附属病院=以下大阪大病院(大阪府吹田市)で行われました。医師や患者と間近で接し、手術室にも入った7人の高校生は何を学んだのか。高校生たちの感想と、プログラムの現場で撮影した動画をご覧ください。

 

■医療体験プログラム2025 動画

高校生の感想

順天堂医院の3人

後藤広樹(ごとう・ひろき) 海城高校(東京)2年

 「執刀医として手術を成功させるためには、その手術に関わる全ての人を信頼し、また、全ての人から信頼されることが必要だ」。今回のプログラムで私たち高校生を指導してくださった先生から、そううかがいました。とりわけ強く印象に残っている言葉です。

 信頼関係を築けていれば、周りとうまくコミュニケーションを取れるから、手術の成功は結果としてついてくる、ということでした。もしもうまくいかなかったときには、必ず次に生かすよう努力すること。そして、メンタルに余裕を持つこと。そうした姿勢が、周りからの信頼を取り戻すことに結びつき、「全ての人を信頼し、全ての人から信頼される」という循環が生まれる。そういう趣旨でした。

 見学した手術を受けた患者さんお二人から話をうかがえたことも印象的でした。心臓手術を受けるという大きな人生の選択をした時の心持ちや、術後に目覚めてからどのような経過をたどったのかなど、貴重なお話をうかがうことができました。特に、手術支援ロボット「ダビンチ」を使った手術を受けた患者さんは、まだ手術の翌朝だったので、ICU(集中治療室)のベッドで横になっている段階でした。体調不十分にもかかわらず、私たち高校生にお話をしてくださって、とてもありがたいと思いました。

 「執刀医にはいろいろなタイプの先生がいる」ということが、私にとって最大の発見でした。田端実先生(教授)と天野篤先生(特任教授)は今回、同じ「大動脈弁置換手術」を見学させてくださったのですが、お二人の選んだ術式(手術の方法)は全く違うものでした。執刀医によって手術室の様相がこんなにも変わるのか――と私はびっくりしました。

 手術台のそばで解説してくださった先生が、こうおっしゃいました。「外科手術には医師の数だけ術式がある。すべての術式にメリットとデメリットがあり、それをふまえて執刀医の考え方によって術式が決まる」。深く納得できました。僕も、患者さんの命を救うために自分の考えを持って手術できる医師になりたいと思います。

 

吉崎理沙子(よしざき・りさこ) 埼玉県立川越女子高校2年

 天野篤先生の手にメスが握られ、手術が始まる。胸骨を開き、心臓へたどり着くと、力強く拍動している。人工心肺をつなぐ経路が素早く組まれていく。その所要時間は、私にはものの数分のように感じられた。

 いよいよ弁の置換だ。人工弁に針をかけているところで、横山泰孝先生(准教授)から「針のかけ方で、手術後に合併症を引き起こす可能性がある。そうならないように針の向きを一つ一つ変えている」という説明があった。天野先生は、数ミリずつの等間隔で寸分たがわず針を通していた。私たちにも、手術で使う拡大鏡をつけて持針器で針を持ってみる機会があったが、針は肉眼ではほとんど見えないぐらいだった。その小ささは衝撃的で、これを自在に操る外科医の手技の素晴らしさに、驚きと尊敬を感じた。

 天野先生は、弁の置換だけでなく、左心耳(さしんじ)の切除も行っていた。「左心耳には後で血栓ができる可能性が高く、脳梗塞につながる恐れがあるから」という判断だと聞いた。患者さんの一生に起こり得るリスクを長いスパンで考慮したうえで、予防となる手術が行われていた。「今の病状」を治すことだけが医師の役目ではない――と改めて気づかされた。

 「患者さんに客観的な視点を持って伝えないといけない」という中西啓介先生(准教授、医療体験プログラム2025コーディネーター)の言葉も、強く印象に残っている。例えば、人工弁の置換手術で、どんなタイプの人工弁を入れるかを患者さん自身に選んでもらうときだ。どのタイプにもメリットとデメリットがあるわけだが、医師の説明が偏っていたら、選択に影響を及ぼしてしまう。客観的な情報伝達を心がけることが、患者さんに寄り添う治療につながるのだと学んだ。

 私は2歳の時に先天性心疾患の手術を受けて、その後の活動の可能性を大きく広げてもらった経験がある。私も、誰かの未来を広げられるような医師になりたい。そして先生方のように、患者さんに信頼され、その人生に寄り添っていける医師を目指していきたい。

 

中村仁美(なかむら・ひとみ) ラブンギャップナクーチー高校(米国・ジョージア州)2年

 最も印象に残っているのは、天野篤先生の言葉です。「患者にとって最も幸せなのは、手術を受けたのを忘れることだよ」

 手術前と全く変わらないレベルまで、患者が日常生活に復帰できたことを意味する言葉です。外科医の果たすべき役割が端的に表現されています。その状態を実現するために、外科医は日々技術を磨き、痛みや不具合のない手術を目指して努力されているのでしょう。そして最良の医療とは、良い手術をするだけにとどまらず、常に患者を最優先に考えて日常生活に戻れるよう最善を尽くすことだと気づきました。

 先生方から手術の説明を受けて、患者さんがかかった病気が同じでも、開胸手術や内視鏡手術など、術式の選択肢はたくさんあるということも、よく分かりました。患者さんの体の状態や求めるもの次第で、担当医や術式が変わってくるということでした。内視鏡手術や手術支援ロボット「ダビンチ」による手術は、傷口が小さくて済むので、早期の退院や社会復帰が可能になるという説明も受けました。ダビンチの画面に映し出された映像の鮮明さとともに、強く印象に残っています。

 「人間の心臓を安全に止められるのは心臓外科医だけ」。人工心肺装置の前で技師の方たちから、そう教えていただきました。あまり長時間にわたって人工心肺を使用すると、手術後に心臓のはたらきが元通りにならないとも、うかがいました。心臓の手術は、できるだけ素早く、かつ安全、かつ正確に行う必要があるのだと、よく分かりました。執刀医だけでなく、手術室で働くスタッフ全員が互いに信頼し合い、情報を共有して協力することによって、素早くて安全な手術が実現するのだと実感しました。

 外科医の仕事は、きっと事前の綿密な計画通りに進むのだろうとも思っていました。しかし、今回のプログラムでは、患者さんがコロナに感染したために、見学する手術が急きょ変更になった日もありました。医療の現場では、想定外の事態に柔軟に対応して、計画を変更しなければならないことも多いのだと知りました。どんな状況でも、複数の選択肢から最善の手段を即座に選べる――。そんな力が、命を預かる外科医には求められているのだと学びました。

左から、後藤さん、吉崎さん、中村さん

 

大阪大病院の4人

阪口真彩(さかぐち・まあや) 甲南女子高校(兵庫)3年

 特に印象に残ったことが三つあります。

 一つ目は、チーム医療を体感することができたことです。手術中だけでなく、手術前に治療方針を決める段階から、医師や看護師などたくさんの職種の人たちが協力しあっていることを知りました。病気を治すことだけではなく、回復後の生活まで見据えた治療計画を立てていて、一人の患者さんのために多くの人が真剣に向きあっているのだと理解しました。チーム医療のあり方に深く感動するとともに、人との関わりかたやコミュニケーション能力も医師の極めて重要な資質なのだと、実感しました。

 二つ目は、ICUや小児病棟で、心臓病の子ども患者を目の当たりにして、移植をしなければ生きられないという現状について、うかがったことです。元気そうに見える子もいれば、体調が悪そうな子もいました。患者ごとに異なる病状と、真摯(しんし)に向き合うのが医師の仕事です。その大変さを痛感しました。

 移植する心臓が提供されるまでに、5年という長い期間がかかることにも、大変驚きました。私は「移植をしなくても健康になる治療法を研究したい」という目標を持つことができました。これからの医療ではデータサイエンスが重要な役割を果たすことも知りました。その必要性を、今の段階で意識できたことは本当によかったと思います。

 三つ目は、医師には集中力と技術が求められることを体感できたことです。手術室の見学で、先生方の手技はとてもスムーズに見えました。ところが、術具の操作を模擬体験させていただくと、実際には非常に難しく......。手術室で目にした、みなさんの息のあった連携の印象がよみがえりました。そのとき、私は「一人では不可能なことも、何人かが力を合わせれば可能になる」というチーム医療の一端に触れることができた気がしています。

 医師になりたいという漠然とした思いだけで、自分は医療の道を目指していました。今回のプログラムを通じて、なぜ医療を学びたいのか、何のために今勉強しているのかを、明確に自覚できました。将来医師になったときに負うべき「命に対する責任」を、現実的に感じることができました。こうした意識の変化は、今後の学びや医師としての姿勢に、大きく影響するはずだと感じています。

 

市川温大(いちかわ・はると) 兵庫県立長田高校3年

 特に印象に残ったことが二つある。

 一つ目は小児外科の手術見学だ。手術を始めてから患者さんが麻酔から覚めるまで、すべてを見たのは初めてだった。2日目だったので、手術見学に少し慣れてきていた。先生の説明を聞き、手術チームが何を目標に治療しているのかを頭に入れたうえで、見ることができた。腹腔鏡(ふくくうきょう)のチューブを通すときには、身体に大きな傷が残らないようにしていた。脱腸の原因となる筋肉の隙間を糸で縛り閉じるときなども、先生方は話し合いながら、慎重なチームプレーで手術を進められていた。患者さんが麻酔から目覚めたとき、私はとても感動した。

 二つ目は、病棟見学だ。小児科の病棟は、子どもたちが安心して入院生活を送れるようにと、明るくて親しみやすいデザインになっていた。長期間入院している子どもたちのために、ガラス張りの面会用スペースや院内学級などもあった。病気を治すだけにとどまらず、子どもたちにより良い入院生活を送ってもらうため、数多くの工夫が見られた。患者さんの病気を取り除いたら終わり、ではないのだ。ケガや病気で失われた時間を取り戻す手伝いができる医師に、私もなりたいと思った。

 集中治療室や小児外科の病棟では、補助人工心臓をつけている患者さんを何人か目にした。説明してくださった先生によると、補助人工心臓は心臓移植までの待機期間を支えるためにつけられることが多いが、つけたことによって心臓の負担が軽減するため、待機中に心機能が回復する事例もあるそうだ。生命が持つ素晴らしい可能性を感じるお話だった。一方で、小児の疾患には先天性のものも多く、メカニズムが不明なものもあるという。「神のいたずら」と表現された先生もいる。人の身体の仕組みは、さまざまな研究で解明された部分もあるが、まだ分かっていないこともたくさんあるのだと知った。

 医療体験プログラムを通して、「なりたい医師の姿」や「命」について、しっかり考えることができた。ほかの先生方と協力して目の前の命を救いながら、人の身体の仕組みを研究して、より多くの命を救う。私は将来、そんな医師になりたい。理想の医師に少しでも近づくことができるよう、残りの高校生活や大学生活で、日々努力を惜しまず邁進(まいしん)したい。

 

益池智紀(ますいけ・ともき) 大阪教育大付属高天王寺校舎(大阪)3年

 印象に残っていることの一つ目は、手術見学だ。人間の臓器を見たのは、もちろん人生で初めて。目の前の光景は現実なのか――と疑うほどの衝撃を受けた。手袋をして、摘出された臓器に手を触れた時の感覚は、特に鮮明に覚えている。

 医療ドラマなどを見て、手術は常にピリピリとした空気感の中で行われているものだろうと想像していた。手術見学が少し怖かった。ところが、実際は手術中、医師の方々はよくコミュニケーションを取られていた。真剣さの中にも、どこかリラックスした雰囲気が漂っていた。日々の鍛錬の中で培われた気持ちの余裕もあると思う。何よりも、互いの信頼関係や気配りなどがあるから、あの雰囲気で手術を行えるのだろう。全員が「チーム医療」を大切にしていることが、肌で感じられた。

 二つ目は宮川繁先生(心臓血管外科教授)の話だ。手術見学で様々な医療機器を見た私は、最先端の医療技術にとても驚き「きっと医療に不可能はない」と、思いを先走らせていた。しかし、宮川先生から人工心臓のお話を聞いて、現在の医療にも多くの課題が残っていることを知った。「医者だけでは患者を救うことはできない。これからは工学や他の分野とも協力して医療を進歩させることが必要」。その言葉が特に印象に残っている。多くの技術者や研究者の努力があって、医師は初めて病気に立ち向かうことができるのだと学んだ。

 三つ目は、最終日の座談会での矢嶋真心先生(心臓血管外科特任助教)の言葉だ。なぜ心臓外科を選んだのかという問いに、先生は「登るなら高い壁の方がいいから」と回答された。高校3年生の私自身が、受験でレベルの高い大学に挑戦するかどうか、少し悩んでいた。矢嶋先生のお話を聞いて、医師の方々の自分に対するどん欲さを知り、医師のメンタリティーを少し理解できたように思えた。常に高みを目指し続ける姿勢は、医師としてだけでなく、すべてのことに通じることだと思う。私はこれから、失敗を恐れず、挑戦し続ける人生を歩んでいきたい。

 

平岡大青(ひらおか・たいせい) 清風高校(大阪)2年

 手術室に入ると、患者さんが麻酔をかけられた状態で横になっていた。これまで見てきた医療ドラマでは、患者さんの体は患部のみが映され、ほかはドレープで覆い隠されていた。今回の手術見学は、患者さんの体を消毒するところから始まった。それから体にドレープが掛けられ、メスを入れるべきところに線が引かれ、そのうえで執刀医のメスが入った。この段階から手術を目にしたときのことが、私は最も印象に残っている。「医師は本物の人間を相手に命を預かっているのだ」と再認識した。

 プログラムに参加する前まで、ほとんどの手術は患者さんの体を胸のあたりから大きく切開して行うのだろうというイメージを持っていた。実際は、体には小さな穴を開けるだけで、その穴から入れたカメラ(腹腔鏡や胸腔鏡など)が画面に映し出す体内を見ながら行う手術が多くなっているようだ。患者さんの負担を軽減するためで、素晴らしいことだと思う。

 小児病棟では、補助人工心臓をつけた小さな女の子と会えた。手術前までは、明日までもつかもたないかという状況だったと聞いた。手術後は元気に生活し、心臓も少しずつ回復してきたそうで、将来的には補助人工心臓を外せるだろうということだった。ICUでは、私たちより下の世代の患者が、補助人工心臓をつけて移植を待っている姿も目にした。ドナーが見つかるのが先か、寿命が尽きるのが先か――という状況にある人たちを救う方法はないものだろうか。臓器移植を必要とするような人々を治せる手術や、医療技術の研究を行う「医師」という職業の意義を感じた。

 大病とたたかう患者さんや長期にわたって治療を続ける人々を実際に目にして、人間にとって「病気」がどれほど大きな負担になるかを実感した。そうした人たちの負担を軽くし、人生に前向きなエネルギーを与えることができる「医師」という職業の素晴らしさを、改めて感じる。私も将来、患者さんの気持ちに寄り添い、気遣いができる医者を目指したい。

手術支援ロボットの操作を教わる高校生ら

(2025年10月 8日 11:30)
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