「AI時代に生きる 私たちの命」プレ・フォーラム報告(2)

 医療と先端テクノロジーが融合した未来には、どんな世界が広がっているのか――。7月6日(土)に開催されるフォーラム「AI時代を生きる 私たちの命」では、渋谷教育学園渋谷高等学校(東京)と大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎(大阪)が10代代表として発表する。2校の生徒たちは、フォーラムに登壇するAIとゲノム解析のスペシャリストや、臓器移植コーディネーターの出前授業を受けて発表の準備を行っている。

 

講義後、宮野教授は生徒たちに囲まれ、質問攻めにあった

 

AIとゲノム、がん治療の未来


宮野 悟 氏(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長)

@大阪教育大学附属高校天王寺校舎(大阪)

 

 大阪教育大学附属高校天王寺校舎でも5月下旬に出前授業が行われた。

 宮野悟さんは東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長を務め、スーパーコンピューターとAIを駆使、がんの効果的な治療法を探求する数学者。授業は高校3年の選択科目「生命論」の一環として行われた。

 

■がん研究に、数学、スパコン、そしてAI

 授業の冒頭、同研究所が導入したIBMのAI「ワトソン」が、白血病患者の特殊な遺伝子をわずか10分で見つけ、治療に役立てたケースを紹介した。AIが患者の治療に貢献した国内初のケースで、「医師の判断で患者は治療薬を変更し、数か月で回復、退院した」と語った。

 

 生徒たちの関心をグっと引き寄せた宮野さん。ここからは、なぜ、がん研究と医療にスーパーコンピューターとAIが欠かせないのかを解説した。

 

 「ヒトの全ゲノムは30億文字分に相当し、見つかる遺伝子変異は数百万にもなる。では、現場の医師が、その変異の一つ一つを調べて、がん細胞に影響を与えている遺伝子を特定、さらに、最適な治療法を膨大な医療研究の情報から選択できるか? 明らかに無理です」

 

 個々の患者の遺伝子情報と、がんに関する膨大な研究成果をスーパーコンピューターとワトソンに照らし合わせることによって、初めて今までにない治療法の選択が可能になった、と宮野さん。IBMとの診断支援の臨床研究を通じ、「AIというパワースーツを着た医師たちが医科研に誕生しているのです」とも話した。

 

 遺伝子情報によって早い時期からがんのリスクが分かるようになり、「がんか、がんでないのか、の境界線があいまいになる」と未来を予測した。

 

 がん研究によって人は幸福なれるのか? AIが学習するための臨床データはどう確保するのか。遺伝的プライバシーはどう保護するのか。宮野さんは多くの課題があると生徒たちに伝えた。

 

 生徒の質問がやまず、授業は3時間半にも及んだ。3年生の虎太華穂(とらた・かほ)さんは「自分の遺伝子はどうなのだろう、と強い関心を持った。AIが私たちの命や暮らしに直接関わる時代が目の前に来ていると実感した」と語っていた。

 

<<プレ・フォーラム(1)溝上敏文氏 を読む

 

(2019年6月13日 11:50)
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