【読解力向上プロジェクト】新聞記事を教材に

 学校現場で「活字の学び」を進めるため、読売新聞は2021年度から、小中学生を対象に「読解力向上プロジェクト」を始めます。新聞記事を使った教材「よむYOMUワークシート」に取り組み、言語能力や情報活用力、論理的思考力を伸ばすことが狙いです。20年度に先行して受講した全国の小中学校20校、計約1600人の児童生徒のテスト結果などを専門家が分析したところ、読解力向上の結果が出ていることも明らかになりました。

「よむYOMUワークシート」とは

 20年度から小学校で、21年度からは中学校で実施される新しい学習指導要領※では、新聞などの実用的な文章から、目的に応じて必要な情報を読み取る力を重視することが盛り込まれました。読売新聞では、教育現場での学習に役立ててもらおうと、記事を基に、読解力に特化した教材「よむYOMUワークシート」=写真=を新たに開発しました。

 今年度は小学校高学年用と中学用の教材各15枚を作成。授業や朝学習などで取り組んでもらいました。解答編も準備し、先生たちの指導・評価にも活用してもらおうと、各設問が指導要領のどの項目に対応しているかを記した一覧表も添えました。

※学習指導要領

 小中高校で教える内容について国が定めた基準。おおむね10年ごとに改定され、小学校は20年度から新要領が実施されています。小学校の国語の「読むこと」では、新聞などの説明的な文章を読み、文章と図表を結びつけて必要な情報を見つける力などが求められています。中学校では21年度から新要領が導入されます。

◆協力自治体・協力校

北海道紋別市教委、岩手県野田村教委、埼玉県蓮田市教委、東京都江戸川区立西小岩小、高知県香南市立佐古小、佐賀県多久市立東原庠舎中央校など20校

 

文章の読み方 深く速く

■「役に立つ」9割

 効果を測定するため、15枚の教材に取り組む前後で、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の過去の問題(2問)に取り組んでもらい、アンケートも実施した。

 2月上旬までに教材を終えた学校のデータを分析した結果、「教材は役に立つ・どちらかと言えば役に立つ」と回答した児童・生徒は775人中689人(88.9%)に上った。

 どのような点で役立ったかを尋ねると、「知らなかった話を知ることができた」が最多で、このほかに、「知らなかった言葉を知った」など、読解力向上につながる項目が挙がった。自由記述欄では「資料を読んでまとめることができるようになった」などが目立った。

■意識に変化

 複数の専門家が分析したところ、様々な効果も明らかになった。調査の条件を満たした中学生359人について分析したところ、「文章や資料を読む時に、必要な語や文を探したり、文章や段落同士の関係を考えたりしながら読むようになった」と答えた生徒は、教材に取り組む前と比べて7.8ポイント向上した。

 小学生でも、調査の条件を満たした142人分を分析したところ、教材に取り組んだ結果として、「大切な所を探す読み方ができるようになったか」の設問に「当てはまる」と回答した児童は成績が高いことが示された。

 同様の傾向は「文章を速く読めるようになったか」の設問でも見られ、「当てはまる」とした児童は「2問とも正解」76.8%、「1問正解」23.2%、「正解なし」はゼロだった。

■成績上昇 期待

 今回、データ分析に協力した兵庫教育大の森山潤教授は「文章を読むことへの興味・関心の高まりなど、子どもたちが『教材は役立つ』と感じていたことは明らかだ。早く内容を理解できるようになったり、重要なポイントを探しながら読めるようになったりすることが、成績の上昇傾向と関連する可能性が示された」と語る。

 その上で、「効果測定する学力テストの問題数が少なかったが、今後、より綿密な調査を行うことで、どのような成果が得られるのかなどの詳細が明らかになるだろう」と期待を寄せた。

■自由記述欄より

小学生

「資料からわかることをまとめる力がついた」「読み取るのが早くなった」「文章を書けるようになった」「初めて知った言葉を生かして話をするようになった」「言葉を探すのが速くなった」「漢字が読めるようになった」

中学生

「おもしろいことを知ることができた」「社会の文章が読みやすくなった」「読んですぐ理解できるようになった」「調べたことを文でまとめられるようになった」「文を読んでどこにどの内容があるのかわかるようになった」「国語のテストに役立った」

 

情報見つける力 ついた

 東京都江戸川区立西小岩小では、昨年10月から4、5年生計197人が、週1回、主に朝学習の時間を利用して「よむYOMUワークシート」に挑戦している。

 「きょうは何の記事?」「あ、これ知ってる!」。4年1組では、担任の小泉明子主幹教諭(42)が教材を配ると次々に声が上がった。この日は、将棋の藤井聡太さんの活躍を伝える記事が題材だ。

 指導時間は答え合わせを含めて10~15分。解き終わった後に解説するだけでなく、なぜその答えになったのかを子ども同士で話し合う時間も設けている。この日も「2問目の答え、わかった?」「表の中にあったよ」「最後の方にも書いてある」などと確認し合っていた。

 小泉教諭は「どの部分を根拠に自分が答えを出したのか振り返ることができ、情報を取り出す力、素早く見つける力がついてきた」と手応えを話す。

 同小では、教材に取り組んだ後、自宅学習で、わからなかった言葉の意味を調べてきたり、家族と話し合った感想をまとめたりしてくる児童が増えているという。則岡小織(さおり)校長は「知らなかったことを知るという楽しさを味わいながら、読解力を育んでいける。今後も続けたい」と語る。

 このほか、各校の教諭からは、「読めば必ず答えがわかると実感でき、あきらめないで最後まで文章を読む子が増えた」「文章を読むことに対する抵抗感がなくなった」などの感想が寄せられている。

社会への関心も向上

教材の監修を行った早稲田大学文学学術院 森山卓郎教授


 「やってよかった」と満足している児童・生徒が8割を超え、「知らなかったことを知ることができた」などと前向きに振り返っていることを評価したい。読解力を高めるには、技能だけでなく、興味や意欲、関心も育てる必要がある。新聞記事を題材にした教材は社会への関心も高められたと言えるだろう。

 学校の授業の多くは、一つの文章を何度もじっくり読む「精読」が中心だ。しかし、実生活では初めて読む文章から、必要な情報を素早く取り出し、ポイントをつかむことも求められる。授業だけでは不足しがちな、実践的な読み取りの練習に適していると言える。客観的な結果も出ており、今後さらに研究を重ねて、小学生、中学生たちの「学びたい、知りたい」という気持ちに応える教材となることを期待したい。

今、注目されている「読解力」とは

21年度から監修者に加わる十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科・冨山哲也教授


 新しい学習指導要領が求める「読解力」は、大きく2つに分かれます。

 まず、何を述べようとしているのかの大意をつかむとともに、目的に応じて必要な情報を得る力です。そしてもう一つが、「表現の仕方などに着目し、書き手がどのように、どんな意図を持って伝えようとしているのかをとらえる力」です。特にこの二つ目の力が、これからの情報化社会に必要な「力」であり、日本の子供の弱点でもあります。

 二つめの力は、「なぜこの文章は『信頼出来る』と判断できるのか」「この文章の論の進め方に説得力がないのは、なぜか」「どういう意見を読み手に伝えようと意図して編集しているのか」など、常に書き手の狙いを考えながら読み進めることが求められます。多くの情報に触れ、生活していく時に、書き手の狙いを読み解く力がないと、「だまされる側」になりかねません。情報の「善し悪し」を判断するための力とも言えます。

 書き手の狙いをとらえる力があればこそ、逆に自分が書く側になった際、自分の意図をうまく表現・編集することができます。ですから「読解力」が向上すれば同時に「書く力」「伝える力」も向上するはずです。

 二つめの力を重視した問題集はまだ数少ないのが実情です。よむYOMUワークシートはその点に着目していることが強みであり、特徴だと考えます。

とみやま・てつや

2004年から15年まで、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(国語)として、学習指導要領の策定や全国学力・学習状況調査などに関わる。

(2021年4月 1日 12:46)
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