慶大リレー講義 バブル崩壊と平成不況

 慶応義塾大学で読売新聞東京本社が実施するリレー講義「冷戦後30年の現代史」の第2~4回は「バブル崩壊と平成不況」をテーマに行われた。講師は同社調査研究本部の林田晃雄主任研究員。自身の取材経験を交え、混迷を繰り返した平成経済の30年間を振り返った。

 4万円近くに高騰した日経平均株価は1990年初から一転して急落し、株バブルは崩壊した。損失をこうむった個人投資家を尻目に、証券会社は法人の大口顧客には損失補てんをしていた。読売新聞がこれをスクープすると、国民の怒りに火が付いた。1997年の山一証券破綻では、数年前に予兆を感じて情報収集したが詰め切れず、その後の継続的なフォローを怠ったことで、日本経済新聞に報道を先行された失敗談を明かした。

 報道と市場との難しい関係についても解説した。1992年夏、政府の株価対策を1面トップでスクープした際、その日は株価が上昇すると思っていたのに、逆に急落した経験を語り、「記事を書く時は市場への影響を慎重に考える必要性を思い知らされた」と話した。


 地価バブルでは、銀行が不動産投資に巨額の融資をしたことがバブルを膨らませ、地価の暴落後に巨額の不良債権が発生し、金融危機を招いた経緯を講義した。バブルに加担した銀行の救済につながる公的資金注入には、世論の反対が強かったものの、読売新聞は大手銀行を破綻させないことが最も経済的・社会的コストが少ないと判断し、注入するよう主張した。日本長期信用銀行などの破綻処理には10兆円を超える国民負担が生じたが、3メガバンクなどは公的資金で破綻を免れ、結果的に注入額より多額の返済が行われ、国に「利益」をもたらした。世論に迎合せず、勇気をもって合理的な主張を展開する重要性を強調した。


 バブル崩壊後のデフレに対し、物価の番人の日銀は失策を繰り返し、デフレ不況を長引かせた。日本はデフレを脱却できないままコロナ禍に襲われた。「若いみなさんは平成の失敗の歴史を深く学び、正しい判断ができる力をつけてほしい」と、次世代に期待を託した。


 毎回、授業の最後に、付録として新聞記者の仕事ぶりを紹介した。記者は睡眠時間を削って取材相手の自宅を訪ねる「夜回り」「朝回り」などを繰り返している。こうして取材力を磨くことが、権力側の不正や企業の不祥事をあぶり出す力を養うことになると強調した。


 また、新聞は言論機関としての役割も担っており、論説委員会で徹底して議論を重ね、社説を練り上げていることを紹介。「事実関係や背景、問題点が丁寧に、分かりやすく書かれている。ぜひ読んでほしい」と呼びかけた。


(2021年5月13日 14:55)
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