「全裸刑事チャーリー」著者が絶賛、小此木陽菜さんの爆笑プレゼン【特集】全国大学ビブリオバトル2024

熱弁をふるう小此木さんと、推し本「全裸刑事チャーリー」

 大学生らの「推し本」日本一を決める書評ゲーム「全国大学ビブリオバトル2024」が昨年12月22日、東京都世田谷区の昭和女子大学で開かれた。30人が熱戦を繰り広げ、観客約450人の投票によりテクノ・ホルティ園芸専門学校1年、小此木陽菜さん(18)の紹介した「全裸刑事(デカ)チャーリー」(七尾与史著)が、頂点の「グランドチャンプ本」に選ばれた。全国で開かれた地方大会には、過去最多の1756人が参加した。※大会のYouTube動画はこちら

 

グランドチャンプ本「全裸刑事チャーリー」七尾与史著 宝島社

テクノ・ホルティ園芸専門学校1年 小此木陽菜さん 18

謎解きより「服脱ぎ」の妙

 公共の場で服を脱ぐことを認める「ヌーディスト法」が施行された日本を舞台に、いつも全裸になっているチャーリーと、あくまでスーツ姿の七尾が事件を解決していくお話だ。服を脱ぐ、着るで起こる2人の意見の対立をコミカルに紹介しながら、ストーリーが放つ本質的なおもしろさに迫った。

 

 被害者や加害者が全裸だからこそ起こる数々の事件。一応ミステリー仕立てではあるが、魅力は謎解き以外にある。「『全裸になっていい』と『なる』は全然違う。いろんな考えを持てるのがこの本の魅力です」

 

 この本を最初に読んだのは、高校3年の夏のこと。両親からプレゼントされて大爆笑したが、女子高生がこの本を紹介するのはどうかと思い、ビブリオバトルでの発表は卒業するまで「温存」していた。

 

 1年間温めた思いは地方大会から爆発した。その活躍を知った著者の七尾さんからXで「気持ちは嬉(うれ)しいが、日本の将来が心配だよっ!」と紹介されたほど。作中の事件や謎解きには一切触れず、最後まで観客の笑いを誘う圧巻のプレゼン。「本当に日本の将来が心配だよという感じはあるんですけど、ぜひ読んでもらいたい」と締めくくった。

 

 高校時代から3年連続で全国大会に出場してようやく立った頂点に、「うれしくて、自分がここにいる実感がわかない」と破顔した。

 

 著者・七尾与史さんの話「熱のこもった素晴らしいプレゼンでした。若い人たちに、服飾という虚飾を脱ぎ捨てて、裸一貫から夢に向かって邁(まい)進してほしいという思いで書きました」

 

準グランドチャンプ本「四日間家族」川瀬七緒著 KADOKAWA

叡啓大学ソーシャルシステムデザイン学部4年 豊崎花さん 22

 

「ドブのような4人」が好き

 「ドブのような人たちのお話」。決勝冒頭の印象的な言葉が、聴衆の心をぐっとつかんだ。

 

 山林に捨てられた赤ちゃんを保護した自殺志願者4人組が、SNSでデマを流され、誘拐犯に仕立て上げられる犯罪小説を、「リアルに嫌な性格の4人なのに、共感できるところもある。読み進むうち、好きになってしまう」と紹介した。

 

 現代社会の暗部や怖さを描きつつ、軽妙で人情味もある小説のテイストに合わせ、発表内容と口調は「重すぎず、軽すぎず」を心がけたという。

 

 登場人物を「ドブ」にたとえた表現は、作中にない。その意味を観客から聞かれ、こう説明した。「ドブの水は、すくい上げたら意外ときれいかもしれない。この先、澄んだ流れに変わる可能性もある。そこが4人との共通項」。5度も読み返した愛読者ならではの説得力ある回答だった。

 

 2021年度に広島市で開学した単科大学の一期生だ。初挑戦のビブリオバトルで大活躍し「自分にも大学にも弾みがついた」とほほえむ。今春の卒業後は、東京で編集者の仕事に就くという。

 

ゲスト特別賞「芋虫」江戸川乱歩著 リブレ

石川県立大学 生物資源環境学部2年 櫻井亜仁沙さん 20

人間扱いされぬ夫、何を思う?

 戦争で両手両足を失い、帰還した夫を、かいがいしく世話していた妻は、やがていたぶることに快感を覚えていく......。ビブリオバトルで紹介する本を探していた時、手にした「名作名言 一行で読む日本の名作小説」(中山七里監修)に紹介されていたあらすじに目が留まった。「江戸川乱歩ってミステリー作家じゃなかったの?」

 

 思わず、図書館に走った。「1週間、頭から離れなくなった」ほどの衝撃を受ける内容だった。

 

 言葉を発することすらできず、妻から人間としての扱いを受けなくなっていく夫は、何を思いながら生きていたのか。心情に迫りたいと、何度も読み返した。大会では、「人間とは、生きる価値とは、現代の私たちに多くの問いを投げかける作品だと思います」と訴えた。

 

 夫婦の愛情、人間の尊厳、戦争の恐ろしさなど、重いテーマをはらんだ内容。「トラウマになってしまうかもしれません。それでも覚悟して読んでほしい」と観客に言い切った。

 

「将棋と読書」異色のトーク、柚月裕子さん&佐藤康光九段

 決勝前のトークセッションには、作家の柚月裕子さんと将棋棋士の佐藤康光九段が登壇した。「将棋と読書」という異色のテーマの対談に、観客席が沸いた。

 

 将棋界を舞台にしたミステリー小説「盤上の向日葵(ひまわり)」が大ヒットした柚月さん。将棋を題材にしたことについて、「棋士たちの覚悟を決めた一手が書けたらいいと思った。あきらめない姿勢も描きたかった」と話した。佐藤さんは「熱心に取材いただいた。将棋を知らない方でも情景が浮かぶはず」と評した。

 

 トークの最後には、2人が大学生に薦めたい一冊を紹介。佐藤さんはマナーを学んだという「礼儀作法入門」(山口瞳著)を選んだ。柚月さんは「カモメに飛ぶことを教えた猫」(ルイス・セプルベダ著)を挙げ、「ラストから5~6行めの主人公・ゾルバのひと言に支えられて仕事を続けている」と明かした。

トーク詳報

写真特集「全国大学ビブリオバトル2024」

【主催】活字文化推進会議

【共催】ビブリオバトル普及委員会、ビブリオバトル協会

【主管】読売新聞社

【特別協力】昭和女子大学【協賛】日本書籍出版協会【協力】松竹芸能

【後援】文部科学省、文字・活字文化推進機構、大日本印刷、日本書店商業組合連合会

 

 ※この事業は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成を受けて実施されました。

(2025年1月22日 23:45)
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