小学生ビブリオバトル、東京と京都で...2023夏休み完全版

代表者発表に出場した4人。右から、吉田浩太朗さん、塚本鞠愛さん、阪本陽一郎さん、藤本宗世さん(東京・有明ガーデンで)=横山聡撮影

 大好きな本の魅力を一生懸命に語る児童たちの姿に、観衆が目を細めた。書評合戦「ビブリオバトル」の小学生版である「かいけつゾロリのビブリオバトル」が7月25日、東京都江東区の商業施設・有明ガーデンで行われた。

かいけつゾロリのビブリオバトル...東京・有明

 「完璧な警備の刑務所から、何回失敗してもあきらめずに脱走を試みるゾロリはすごい。ゾロリに失敗してもあきらめない心と仲間の大切さを学んだ」

 会場に集まった約130人の前で、大阪府貝塚市立葛城小5年、阪本陽一郎さん(11)が「かいけつゾロリつかまる!!」の魅力を熱く語ると、「そう、そう」と深くうなずく観客も見られた。

うちわや手をあげて投票する参加者ら

 今回のイベントは、子どもたちに大人気の児童書「かいけつゾロリ」シリーズ(ポプラ社)の中から、お気に入りの1冊を紹介し合うというルールで実施。通常のビブリオバトルは、5分間の持ち時間を使って本を紹介し合うが、小学生ということもあって、持ち時間3分の「ミニ・ビブリオバトル」形式で行われた。

 本の魅力をどうやって他人に伝えればいいのか――。未経験者には、ちょっとハードルが高く感じるビブリオバトルだが、今回は事前に、ワークショップで発表内容のまとめ方やポイントを、全国大会入賞経験を持つ大学生らに学んだ=写真下=。初心者用のワークシートを活用して、「この本で、一番好きなところ」「なんでその場面が好きなのか」といった論点を一つ一つ押さえていきながら、3分間の発表内容にまとめていった。
 ワークショップには、東京や大阪、長野などから、お気に入りのゾロリ本を手にした小学校高学年16人が参加。四つのグループごとに発表し合い、代表を決定した。

イチオシ1冊、熱く紹介

 そして、いよいよ4人による決戦へ。ワークショップ会場から観衆の詰めかけた大会場に移動しても、4人は元気な声で、それぞれのゾロリ愛を披露した。観衆の投票による大接戦の結果、優勝したのは冒頭の阪本さんだった。

 阪本さんは1年生の時から、ハラハラドキドキするゾロリシリーズのファンだが、中でも、いたずらの被害者たちの苦情で、牢屋(ろうや)に入れられてしまったゾロリが、仲間のイシシとノシシと共に、奇想天外な方法で脱獄を試みる「かいけつゾロリつかまる!!」が大好き。「失敗してくじけそうになった時に、思い出して勇気をもらう特別な一冊」だという。

 ビブリオバトルは初体験だったそうだが、「好きなことを話すのは、とっても楽しかった。ゾロリ以外の本も読んで、またビブリオに挑戦したい」と目を輝かせていた。

低学年向け、動き交えて楽しむ

ゾロリ本の好きなところをステージ上で発表する小学生(後ろ姿)。両脇はおむすびひろば Ⓒ原ゆたか/ポプラ社

 会場では、低学年向けイベント「かいけつゾロリを楽しもう」も行われた。

 絵本読み聞かせのパフォーマンスユニット「おむすびひろば」が司会を務め、歌やパントマイムを取り入れたにぎやかな芸を披露すると、会場は子どもたちの笑顔でいっぱいになった。音楽に合わせてゾロリのキャラクターのしぐさをまねする「ポージング」の時間では、参加者全員が元気よく体を動かした。

 ゾロリ本の好きなところを発表するコーナーでは、子どもたちはゾロリのお面をつけて、代わる代わるステージに立った。「ゾロリの作戦がバレバレなところ」「イシシとノシシのおならテクニックがすごい」とそれぞれが魅力を語り、大きな拍手を浴びた。

ゾロリの秘話、次々披露...作者・原ゆたかさん登場

 「かいけつゾロリ」は、1987年に第1巻が刊行されて以降、世代を超えて読まれ続けている児童書だ。キツネのゾロリと双子イノシシのイシシとノシシが世界を旅し、悪事をたくらんでは必ず失敗する冒険物語で、今年7月に最新第73巻「かいけつゾロリ いきなり王さまになる?」が発売された。

 今回のイベントには、作者の原ゆたかさん(70)も駆けつけた。チャンプ本になった「かいけつゾロリつかまる!!」(第15巻)については、「脱走の話なので、本当にまねされると困っちゃうけどね」と話し、会場の笑いを誘った。

 トークショーも行われ=写真=、「小学校の頃、マンガを描いてクラスで回し読みしてもらった。友だちに読んでほしくて、おまけやくじをつける工夫をした。気がつくと、僕は今もゾロリで同じことをやっている」「第1巻は映画『インディ・ジョーンズ』を参考に、山場がいくつもある話にした。いつも、ページをめくる楽しさや1冊を読み終えた手応えを味わってほしいと思って描いている」などとゾロリの秘話を次々と披露した。

絵本専門士の読み聞かせ...巧みな表現、会場沸く

 ゾロリファンの子どもたちに、それ以外の本の面白さにも目を向けてもらおうと、絵本専門士による読み聞かせイベントも開かれた。

絵本を読み聞かせる加賀谷雅美さん(上)盛り上がった「おおきなかぶ」のパフォーマンス(下)

 絵本専門士は、絵本に関わる様々な見識を持つスペシャリスト。全国各地で読み聞かせイベントに出演するなどして、子どもの読書推進にあたっている。

 今回のイベントには、加賀谷雅美さんが出演。「しりとりのだいすきなおうさま」(中村翔子=作、はたこうしろう=絵)と「めっきらもっきら どおんどん」(長谷川摂子=作、ふりやなな=絵)の2冊を紹介した。登場人物によって声色を使い分けつつ、聞き取りやすい速さで、笑みを絶やさず読み上げた。

 続いて、絵本専門士としても活躍するおむすびひろばのコンビが3冊を読み聞かせた。「うんとこしょ、どっこいしょ」のかけ声で有名な「おおきなかぶ」(トルストイ=再話、佐藤忠良=絵)では、作中の人や動物をパントマイムで演じ分けたうえ、客席の子どもらを何人もステージに上げてパフォーマンスを展開し、会場を沸かせた。

 主催 文字・活字文化推進機構
 共催 活字文化推進会議
 特別協賛 読売新聞社、大日本印刷
 特別協力 ポプラ社
 後援 文部科学省
 

ビブリオバトルとは? 本PR、投票で一番決める

 参加者が「他者に読んでほしい」と思う本を持ち寄り5分間(ミニ・ビブリオバトルは3分間)で発表、質疑応答を経て、最後に聴衆の投票で一番読みたい本を決定する書評ゲーム「ビブリオバトル」は、2007年に京都大学大学院で産声を上げた。元々は研究室内での催しだったが、すぐに全国の書店や図書館でも行われるようになった。現在では、小中学校の国語の教科書にも記載され、教育現場でも活発に行われている。

 読売新聞東京本社が事務局を務める活字文化推進会議でも、「同世代のつながりを生かし、『面白いから読んでみて』と促す言葉は、読書への興味を刺激する」として、大学、高校、中学と各年代の全国大会を主催している。

 高校生大会は今年度で10回目を迎える。全47都道府県で予選会が予定されており、年明けに代表が一堂に会し、決勝大会が行われる。

 7回目となる中学生大会は、来年3月24日に大津市の龍谷大学瀬田キャンパスで決勝大会が予定されている。東京以外で決勝大会が行われるのは初めて。14回目となる大学生大会は12月17日に昭和女子大学(東京都世田谷区)で行われる。各大会の模様はいずれもネット配信される予定だ。

京都でも小学生が大いに語る...後日、作者と面会実現

 京都市中京区の丸善京都本店でも8月2日、ワークショップ型のビブリオバトルが開かれ、小学5、6年10人が参加した。
 ワークショップの講師は、ビブリオバトル普及委員会理事で、ソロモン諸島の子どもたちにビブリオバトルを教えていた経験のある益井博史さん(34)が務めた=写真。

 京都のワークショップでは、ふせんを活用。参加した子どもたちは、一枚一枚に「本の内容」や「おすすめポイント」など、キーワードを書き出した後、ふせんを並べ替えながら、どの順番で発表するのがいいか頭をひねった。

 その後、3分間のミニ・ビブリオバトルを実施。京都市立新町小6年の鈴木瑞穂さん(11)が紹介した「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社、宮島未奈著)=写真=がチャンプ本に選ばれた。同書は、大津市を舞台にした青春小説で、鈴木さんは、「主人公は、はっきりした性格で、悪口を言われても気にせず、やりたいことをやる。自分らしく生きていて、私のあこがれ」と語った。

 この様子がSNSで流れ、反応したのが作者の宮島さんだ。宮島さんが書店に鈴木さんとの面会を希望し、14日に対面が実現した。鈴木さんは「あこがれの成瀬を生んだ先生に会えるなんて夢のよう。本に込めた深い思いや背景も聞けてうれしかった」と大喜び。宮島さんも「大人の読者が多いが、こうして小学生にも読んでもらえて本当にうれしい」と話していた。

小学5、6年対象のワークショップ...東京・多摩で10月

 10月28日には、東京都多摩市落合の市立中央図書館で小学生ビブリオバトルワークショップが行われる。参加無料。講師は、ビブリオバトル普及委員会の益井博史さん。

 対象は小学5、6年生で、保護者の送迎が必要。定員20人(応募多数の場合は抽選)。お気に入りの本1冊と筆記用具を持参するだけで、準備は要らない。初心者歓迎。終了後に交流会を予定している。

 問い合わせは、主催の文字・活字文化推進機構(03・3511・7305)。申し込みは、10月10日まで。

(2023年8月29日 17:00)
TOP