「PIHOTEK 北極を風と歩く」に第28回日本絵本賞大賞...北の自然、詩情豊かに
「第28回日本絵本賞」(全国学校図書館協議会主催、松岡マジック・ブック・ヘリテージ協賛、読売新聞社、中央公論新社特別協力)の最終選考会が開かれ、最高賞の日本絵本賞大賞に「PIHOTEK(ピヒュッティ) 北極を風と歩く」(文・荻田泰永、絵・井上奈奈、講談社)が選ばれた。文を書いた荻田さんは冒険家で、2012年と14年に途中で物資補給を受けずに単独で徒歩による北極点到達に挑戦。18年には、日本人で初めて無補給単独徒歩での南極点到達に成功し、植村直己冒険賞を受賞した。
挑戦は人生を楽しくする...文・荻田泰永さん
2000年から北極に通い続け、イヌイットの友人からPIHOTEK(雪の中を歩き旅する男)と名付けられ、初めての絵本のタイトルになった。
「北極での体験は、説明的な文章では表現しきれない。心象風景を表現したい」と絵本にした。1か月ほど頭の中で何度も話を練り直し、1~2時間で書き上げた。大賞に選ばれ「びっくりしている」。
大学を中退し、全力で取り組めるものを探していた時、冒険家が若者と北極を歩く企画を知った。参加を機に「情報が少なく、何をするのも難しいから面白い」と、北極にひかれていった。12年から毎年、小学生らと日本国内を160キロ歩き、「挑戦が人生を楽しくする」ことを伝えている。
色鮮やかに描いた北極...絵・井上奈奈さん
美しい本作りにこだわり続けてきたからこそ、「受賞はうれしい」とほほえむ。
荻田さんの文章を読んだ瞬間、「モノトーンだった北極の印象が色鮮やかに変わり、読者にこの驚きを伝えたい」と特殊なインクを使って表現することにした。描き始めたら止まらなくなり、何度も描き直した。
幼い頃から週末に両親とスケッチに出かけた。大学を卒業し就職後も毎年個展を開き、独立後は装画なども担当。文も手がけた絵本の出版も多く、「くままでのおさらい(特装版)」は2018年、装丁の国際コンクール「世界で最も美しい本コンクール」で銀賞を受賞した。大賞受賞作については「読んだ人が『冒険に出たい』と考えるきっかけになれば」と願う。
あらすじ
北極をたった一人で歩く「僕」の一日。頬をたたく風、北極の動物たち、空から降りる暗闇など、北極を歩く「僕」を追体験できる。
次点の日本絵本賞、3作品に
次点の日本絵本賞(順不同)は「がっこうにまにあわない」(作・絵 ザ・キャビンカンパニー、あかね書房)、「ねことことり」(作・たてのひろし、絵・なかの真実、世界文化社)、「橋の上で」(文・湯本香樹実(かずみ)、絵・酒井駒子、河出書房新社)の3作品が受賞した。
「橋の上で」
学校帰り、ひとりで川を見ていたぼくに、そのおじさんはふしぎな話をした――。絵本「くまとやまねこ」の夢のコンビで贈るいのちの物語。
「ねことことり」
特別な枝を求めて、猫のもとへやってきた小鳥。異なる環境のなかで、互いに歩み寄る思いを描く、心温まるファンタジー。
「がっこうにまにあわない」
ゆかいでハッピーな世界を突っ走る男の子。今日は学校に遅れちゃいけないわけがある。スピード感とスリルでドキドキの絵本。
※日本絵本賞翻訳絵本賞は該当作なし
「生命とは」問いかける...講評・松本猛選考委員長
大賞の「PIHOTEK 北極を風と歩く」は、生命とは、地球とは何かを問いかける。極限の地を歩く作者だからこそ語れる言葉が詩のようにつづられる。絵は、北極の風土と生命のきらめきを見事に表現する。
日本絵本賞の「がっこうにまにあわない」は1分ごとに画面が変わり、焦る少年の気持ちを反映している。次の展開が気になり、読者を引きつける。「ねことことり」は細密描写がすばらしく、物語に自然に引き込まれる。「橋の上で」は、少年の心を、不思議な男との出会いを通して語る。文章と絵が共鳴して心に響く。
最終選考委員(敬称略)
▽松本猛(絵本・美術評論家、ちひろ美術館常任顧問)▽伊藤たかみ(作家)▽福田美蘭(みらん)(画家)▽佐々木泰(読書推進運動協議会事務局長)▽小林功(全国学校図書館協議会絵本委員会委員長)