宮部みゆきさん VS 小川哲さん、直木賞作家のビブリオバトルは「ホラー」対決!

読売中高生新聞は9月23日、人気作家が書評合戦「ビブリオバトル」で対決する中高生の読者向け特別イベントを、読売新聞東京本社(東京・大手町)で開催した。昨年に続き2回目となる今回は、ともに直木賞作家の宮部みゆきさん(65)と小川哲さん(39)を招き、推し本の魅力を語ってもらった。
本家ビブリオバトルでは出場者が好きな本のポイントを5分間で発表し、会場の参加者からの質問に2分間答える。全出場者の発表終了後、参加者が読みたくなった本を1人1票で投票し、最も多くの票を集めた本が「チャンプ本(優勝本)」となる。今回のイベントも同様のルールで実施し、宮部さん、小川さんの順に1冊ずつ発表。参加した中高生の質問に答えてもらった後、中高生が投票した。
宮部みゆきさん 推し本
「消えた心臓/マグヌス伯爵」
M.R.ジェイムズ著、南條竹則訳(光文社古典新訳文庫)
■遺跡で見つけた笛 学者が吹くと...
「みなさんくらいの年齢の時に出会い、今でも大変尊敬している作家です。だから、ここからはジェイムズ先生とお呼びしたいと思います」。先攻の宮部さんは、著者への親しみを込めて話し始めた。
紹介したのは、19~20世紀のイギリスで活躍した研究者M.R.ジェイムズによる恐怖小説集。著者は本業の研究とは別に、クリスマスに教え子や親しい人々のために怖い話を書いて、読み聞かせていたという。
イギリスのホラーといえば幽霊のイメージが強いが、この小説に登場するのは、神の力の及ばない暗闇に
宮部さんイチオシは<「若者よ、口笛吹かばわれ行かん」>という一編。ある学者が古代の遺跡で偶然見つけた古い笛を吹く。その夜から恐ろしい魔物がじわじわと学者に近づいてくる。「造形がユニークで、"ある物"が魔物になって迫ってきます...」と不穏な謎を残して締めくくった。
参加者から「ずっとその本を好きでいられた理由は?」と問われると、「子どもの頃から怖い話が大好きだったんですけど、作家になってからは自分が怪談を書く時に『こういうものを書きたい』という原動力になってきました」と答えていた。
みやべ・みゆき 1960年、東京都生まれ。87年にデビューし、99年に「理由」で直木賞、2007年に「名もなき毒」で吉川英治文学賞を受賞。ミステリー、時代小説、ファンタジーなど幅広い作風でファンを魅了する。09年から直木賞の選考委員も務める。22年には菊池寛賞を受賞した。
小川哲さん 推し本
「反ミーム部門は存在しない」
qntm(クォンタム)著、鳴庭真人訳(ハヤカワ文庫SF)
■忘れているだけ? 怪物はすぐ隣に
偶然にも、後攻の小川さんも"怪物"が登場する本を紹介した。ただ、厄介なことに、その怪物の存在を誰も覚えていられないのだという。
耳に残るメロディーやキャッチフレーズを、つい口ずさんでしまい、誰かに伝わっていく...。こうした現象を「ミーム」という。「遺伝子」と「模倣」という意味の言葉を組み合わせた造語で、遺伝子が増えるように人間の頭の中に記憶や情報が広がっていく現象を指す。「タイトルの反ミームはミームの逆で、自分のことを知った人間から記憶を消そうとする。この本は反ミームが存在する社会で、それに対処する部門を舞台にした小説です」
反ミームの中には体長1000mを超える怪物もいるが、怪物を見たことをみんな忘れてしまうため、誰にも気づかれない。反ミーム部門の職員たちは様々な方法で記憶を維持し、対抗しようとするが、「中には存在を意識した瞬間、その人物だけでなく関連する人々の記憶や記録まで消してしまう反ミームがいます。そんな化け物とどうやって戦うのか。ぜひ読んで戦い方を知ってほしい」と訴えた。
質疑応答では、幽霊やUFOについて「ひょっとしたら反ミームかもしれないですよね。さっきまで宮部さんの隣にオバケがいたのに、その記憶がみんな消されて...」とニヤリ。「人と意見や見えているものが違った時、『反ミームかも!?』と楽しめるのがいい」と魅力を語った。
おがわ・さとし 1986年、千葉県生まれ。2015年にデビューし、18年に「ゲームの王国」で日本SF大賞、山本周五郎賞を受賞。23年に「地図と拳」で直木賞、「君のクイズ」で日本推理作家協会賞を受賞。読売新聞夕刊で「グリモワール」を連載中。
勝者は小川さん!「ぜひ、両方読んで」
今回のイベントでは、くしくも「魔物」や「怪物」といった恐怖を抱かせる存在が登場する小説同士の対決となった。参加した中高生の投票の結果、小川さんが紹介した「反ミーム部門は存在しない」がわずかな差で上回った。
結果が発表された後、小川さんは「僕に投票した方でも、どっちも読みたいと思った方がたくさんいると思うので、ぜひ、両方読んでいただければ。寒くなってきていますがまだまだホラーは読んで楽しい時期なので」と呼びかけた。
前回に続き2回目の参加となった宮部さんは「前回は内容を全て話せなかったので、今回は最後までしゃべれてよかった。中高生の皆さんに20世紀初頭に活躍した作家の作品について聞いていただけてよかったです」と振り返った。
サプライズでサイン会!
イベントの最後には宮部さんが短編を寄せたアンソロジー「プレゼント」、小川さんの著書「屁理屈と哲学」のサイン本が抽選で贈られた。さらに、2人のサイン会もサプライズで行われ、参加者たちは名前や日付が書かれた「宝物」を胸に抱え、笑顔を見せていた。
参加した中高生の声
エンタメ読みたいと思った
説明がとても分かりやすく、さすが小説家といったビブリオバトルに引き込まれました。普段は純文学を読んでいるのですが、エンタメ作品も読みたいと思うきっかけになりました(東京・高1)
読者同士の交流魅力的
お二人とも優しくサインに応じてくれ、トークも面白かったです。学校でもビブリオバトルをしたことがありますが、発表する人と聞く人が同じ読者という立場で交流できるのが魅力だと思います(東京・高1)



