マイナビ第5回全国高等学校ビブリオバトル決勝大会 詳細特集
高校生が愛読書の魅力を熱く語る書評合戦「マイナビ第5回全国高等学校 ビブリオバトル決勝大会」が1月20日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで行われた。観戦客500人の投票の結果、ミステリー小説「最後のトリック」を紹介した静岡県代表の県立富士宮西高校2年遠藤駿介さんが優勝した。
決勝大会には、地方予選でチャンプ本を獲得するなどした45人が出場。7グループに分かれて予選を戦い、各グループの1位が決勝に進んだ。観戦客は、高校生バトラーの工夫を凝らしたプレゼンテーションに大きな拍手を送り、「どれも読みたい。一冊に絞るのは難しい」といった声も聞かれた。
ロビーには紹介本の即売コーナーが設けられた。高校生のバトルに刺激を受けて、グランドチャンプ本やマイナビ賞の本がすぐに売りきれとなった。
第5回大会の地方予選は昨年7月からスタート。新たに北海道、富山、高知、福岡など6道県でも始まり、全国38の都道府県で行われた。活字文化推進会議が仙台、東京、大阪、広島で主催したブロック大会と合わせ、参加校数は過去最高の900校近くに達した。
読後、犯人になった私
◇優勝 遠藤駿介さん 「最後のトリック」(深水黎一郎著 河出書房新社)
「皆さん、今までに人を殺したことはありますか? あるという方は手を挙げてください」。意表を突く問いかけに会場がどよめく。
新聞小説を連載中の作家の元に、「『読者が犯人になる』というミステリーのアイデアを買ってほしい」という手紙が送られてくるというストーリー。「書店で『殺人犯は今、この本を手に取っているあなた』という帯が目に入り、思わず買いました」
大きな身ぶり手ぶりを交えながら、力強い口調でたたみかけていく。「僕は絶対に犯人にならないぞって思いながら読んでいきました。でも、読み終えた瞬間、犯人になってしまい、悔しさと大きな罪悪感が襲ってきた」。半信半疑の様子の聴衆に向けて「とにかく買ってください。犯人になるのも悪くないですよ」と呼びかけた。ビブリオバトル予選よりも聴衆の年齢層が高いと見て取るや、「犯人にはなりたくない」と言う友人に薦めた時のエピソードを盛り込んだ。質疑応答タイムでも「犯人になって何か変わりましたか」という問いに対し、「本を読むという単純作業で、こんな感情になるのか、本はすごいと思うようになりました」と返し、アドリブ力の高さを見せた。
表彰式でゲストの原田マハさんからトロフィーを受け取り、「これまで本をあまり読んでこなかったけれど、いえ、いっぱい読んできましたが......今日出会った面白い本も読んでいきたい」と語り、最後まで会場を沸かせた。
作家冥利に尽きる
「最後のトリック」著者・深水黎一郎さん 大会当日の夜、偶然、ツイッターで知って驚きました。自分で言うのも変ですが、あのプレゼンを聴けば、私も読みたくなってしまったと思います(笑)。「最後のトリック」と出会ったことで、遠藤さんの人生は少し変わるかもしれない。そう考えると、作家冥利(みょうり)に尽きます。これからもビブリオバトルで高校生に紹介してもらえるように頑張って書いていきたいですね。(談)
グランドチャンプ本受賞を記念して、河出書房新社は、遠藤さんのメッセージ=写真=を印刷した帯を制作。都内や静岡県内の一部書店で近く店頭に並ぶ予定。
深い穴の世界に迷い込む
◇準優勝 林仁(じん)さん(昭和鉄道2年) 「失われたドーナツの穴を求めて」(芝垣亮介、奥田太郎著 さいはて社)
「皆さんが思っているよりも穴の世界は深いのです。この本を読んで、穴の世界に迷い込んでみてください」。経済学、哲学、数学、言語学など様々な学問の専門家が、ドーナツの穴の存在意義や歴史などを考察した本を、よどみない語り口ながら熱く紹介。「単純な問題をあえて深掘りしていく学者の感覚に、読む側は知的好奇心を大いに刺激されます」と魅力を語った。
5円玉には穴が開いていると言うのに、指輪やフラフープを見ても、穴と思わないのはなぜなのか。分かりやすい例も交えながら「言語学的に定義を知れば、穴なのか、穴じゃないのか、迷いが生じた時、皆さんを正しい方向に導いてくれるはず」と呼びかけた。
「本を読んで、モノの考え方が変わりましたか」という質問に、「表面に見えているものだけではなく、もう一歩先、物事の裏側を見てみようという気持ちにさせてくれました」と答えると、会場から拍手が起きた。
新感覚ミステリー 力強く
◇ゲスト特別賞 佐久間諒さん(関西創価1年) 「探偵が早すぎる」(井上真偽著 講談社)
「ミステリーが好きじゃない人でも楽しむことができる究極のミステリー小説です」。メリハリのきいた口調、講談を聴いているような発表で、5分間の持ち時間があっという間に過ぎていく。
父の莫大(ばくだい)な遺産を相続した一人娘の殺害計画を未然に防ぐイケメン探偵の活躍が描かれた本。「新感覚の超スピードミステリー」「そんじょそこらのミステリーとは臨場感、格が違う」「誰もが度肝を抜かれる奇想天外のトリック」。時に声のトーンを高く張り上げながら、魅力をアピールする。
中学2年の時に中学選抜ビブリオバトル東京大会に大阪府代表として出場し、優勝した実力者。「頂点を目指してもう一度挑戦したい」と前を向いた。
真犯人 最後まで描かれず
◇マイナビ賞 広部太一さん(千葉県立国分2年) 「どちらかが彼女を殺した」(東野圭吾著 講談社)
「誰でも読める推理小説がここにあります」。人なつっこい笑顔に、自然な語り口。本好きの知り合いが目の前で、面白さを語ってくれているような雰囲気を漂わせ、聴衆を引きつけた。
主人公は妹を殺害された警察官。独自の捜査で容疑者を2人に絞り込んでいくが、最後まで読んでも、どちらが犯人か書かれていない。「著者の東野さんいわく、推理小説というのは、読者が注意深く読んで考えれば、犯人が誰かは分かるようになっているそうです」
自身は単行本を読んでも分からず、ヒントが盛り込まれている袋とじ付きの文庫本を読んで犯人が分かったという。「文庫本を読んでも分からない人は、インターネットで調べれば分かるようになっています」
他の決勝進出者
▽安達菫(すみれ) 滋賀県立高島高校3年 「折れた竜骨」(米澤穂信著、東京創元社)
▽井上敦史 富山県立高岡工芸高校3年 「神様のコドモ」(山田悠介著、幻冬舎)
▽古屋慎人 山梨県立甲府西高校1年 「鈍感力」(渡辺淳一著、集英社)
昨年12月に行われた全国大学ビブリオバトル大阪決戦でグランドチャンプ本を獲得した宮城教育大学の真壁詩織さんが、NHKラジオ第1放送の「NHKジャーナル」の名物コーナー「対決!ミニビブリオバトル」に出演する。放送日は3月8日午後10時。
中学生決勝大会 東京で3月24日
中学生のオススメ本日本一を決める「第2回全国中学ビブリオバトル決勝大会」が3月24日(日)、よみうり大手町ホールで開かれる。ゲストは直木賞作家の森絵都さん。
秋田、福島、山梨、大阪、和歌山、徳島、大分の府県大会優勝者と、11都府県の中学校から学校代表が出場する予定。パブリックビューイング観戦申込みはこちらから。
問い合わせは、活字文化推進会議事務局(03・3217・4302、平日午前10時~午後5時)。
お笑い芸人もバトル
お笑い芸人による「芸人ビブリオバトル」が3月5日、東京都新宿区の新宿角座(かどざ)で開かれる。松竹芸能主催。午後7時開演。お笑いコンビ「オジンオズボーン」のほか、ヒコロヒー、タイーク金井、森本サイダー、みなみかわなど松竹芸能に所属する芸人が登場。入場料は前売り1700円、当日2200円。チケットぴあ、セブン―イレブンで発売中。問い合わせは新宿角座(03・3226・8081)。
【マイナビ第5回全国高等学校 ビブリオバトル決勝大会】
主催/活字文化推進会議
主管/読売新聞社
特別協賛/マイナビ
後援/全国学校図書館協議会、全国高等学校文化連盟、日本書籍出版協会、ビブリオバトル普及委員会
協力/河合塾・高校生向けサイト「みらいぶプラス」