留学生たちが見たコロナ時代 1(海外で学ぶ 番外編)

 新型コロナウイルスの猛威は世界で広がる中、13万人以上の死者を出したアメリカや4万人以上の死者を出したイギリスなどで学ぶ日本人留学生たちがいる。この危機に彼らはどう向き合ってきたのか。教育ネットワークでは、日頃留学生リレーエッセーなどにも寄稿してくれているNPO法人、留学フェローシップの協力を得て、留学生たちの話、留学を考えている現役高校生たちへのメッセージを書いてもらった。

Report1. 安達 涼 アダチ・リョウ さん

オーバリン大学(米オハイオ州オーバリン)2年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 オハイオ州の対応は早かった。3月中旬感染者が1人出た時点で緊急事態宣言が発令され、1週間後には外出禁止令が出た。5月いっぱい外出禁止令は続いている。オハイオは、外出禁止令から少し違う名前の法令に変わったが、緊急事態宣言は続いていて、11人以上の集まりは禁止されている。6月から徐々に経済活動再開はしており、レストランはかなり入店できる人を制限してではあるが、中での飲食ができるようになった。ただ感染者数はずっと横ばいで、5月末〜6月にかけての、ブラック・ライブズ・マターという黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える抗議運動の影響も受けて増えてきている印象がある。また、市によってはつい最近マスク着用が義務付けられた場所もあるようで、依然として警戒態勢は強いと感じられる。大学は、4月以降の講義がすべてオンラインになり、寮の閉鎖が発表されたが、留学生は全員、キャンパスに残る許可が出、自分も寮に残っており、夏休み期間中も残る予定だ。

 

大学での授業

 授業はすべてオンライン。オンラインになると決まった時点で教授向けの研修があったので、オンラインへの移行はスムーズだった。ただ、原則として大学の授業時間での受講が想定されている講義もあり、帰国した留学生には厳しい環境かもしれない。学期半ばで帰国した留学生には寮費、食費の返金があり、自宅にネット環境のない学生や電子機器を所持していない学生には、大学から必要な機器の貸し出しがあった。

 

改めて感じた留学の魅力

 授業だけでなく生活面でも、キャンパスに残っている学生に提供されている食事や住環境がよくないと聞けば大学に働きかけてくれる教授がたくさんいて、悩みを相談するとすぐに電話をかけてきてくれ、教授との距離の近さや、思いやりは、たとえ物理的な距離が離れてしまっても変わらない、と実感した。また、困っている人を助けるシステムも構築され、大学の手厚いサポートを改めて感じた。

 

現役高校生へのメッセージ

 こういう時期だからこそ不安に思うかも知れないが、様々な大学について知るいいチャンスだ。こういう状況下で各大学がどう対応しているのか、それぞれの大学の特徴が見えてくると思っている。

 

Report2. 岡崎 唯人 オカザキ・ユイト さん

カリフォルニア大学デイビス校(米カリフォルニア州デイビス)3年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 サンフランシスコから内陸に120キロ北東の学生タウンなので、学生と先生しかいないくらいの街で、学校が閉鎖されてからは、ほとんど人がいない。また、カリフォルニア州がロックダウンとなってからは、外出者が少なく、余計に人をみる機会が減った。キャンパス自体が閉鎖され、留学生は、大半が帰国、現地のアメリカ人も実家に帰る人が多かった。

 

大学での授業

 全て、オンライン授業になった。自分の好きな時間に、録画された授業を受けられるので、予定を立てやすいが、人と直接あってディスカッションできないので、理解したり、伝えたりが、難しい。また、オンラインで不具合への対応は大変だ。

 

改めて感じた留学の魅力

 オンラインでの授業と実際の授業の差は予想以上に少なく、意外とスムーズだった。

 

現役高校生へのメッセージ

 1、2年先にならないと、現地での授業を受けるのは難しいかもしれないくらいの覚悟で進学した方がいいと思う。答えを出すのは難しいが、心の準備や覚悟を持って判断をするのをお勧めたい。

 

Report3. 野田 奈夏子 ノダ・ナナコ さん

ハーベイマッド大学(米カリフォルニア州クレアモント)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 ロサンゼルスからは東へ50キロほどのクレアモントは、州全体としての早いコロナ対策が功を奏したのか、比較的感染は拡大していない。講義は春休み明けから全てオンラインに移行した。実家へ戻れる学生はなるべく帰るよう促されたが、強制的ではなかった。結果的に私は帰国したが、残ることもできたと思う。

 

大学での授業

 春休み明けからはオンラインで授業を受けていた。私は時差の影響でほとんどの授業を録画されたレクチャーで受けた。ただ、言語の授業に関しては、教授が週2回、個別授業を開いてくれた。化学の実験の授業は、実験のデータを与えられ、その結果を元にレポートを書いた。また、化学はグループワークが多かったので、アジア圏にいる学生を教授がまとめてくれ、専用の教授と話せる時間を設けてくれたので、授業は受け易かった。

 

改めて感じた留学の魅力

 コロナ対策で感じたのは、寮閉鎖の判断やオンライン授業への移行のスピードが早さだった。オンラインでもなるべく質の高い授業をしようという姿勢を感じた。私のように帰国して時差の違う生徒への配慮や、授業のディスカッションに参加できなくても他の生徒との交流や意見交換の場を設けてくれた。

 

Report4. 安田 葵 ヤスダ・アオイ さん

ピッツァー大学(米カリフォルニア州クレアモント)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 カリフォルニア州では、毎日1000人から2000人のペースで感染者が増えており、中でも大学から車で1時間ほどのロサンゼルスは、感染者が州で一番多い場所となっている。不要不急の外出を禁ずる令もでているが、感染者の増加は止まっていない。3月11日に全生徒に対し、「3月18日までの退寮命令と春休み明けの授業が全てオンラインに切り替わる」と発表された。原則全員退寮だったが、留学生やその他の事情で家に帰れない生徒は申請すれば、寮に滞在が可能だった。

 

大学での授業

 帰国したため、リアルタイムで受ける授業は、午前2時からの授業となり体力的に不可能と判断したため、週1コマから多くて3コマ程度だった。リアルタイムの授業に出たのは、録画が提供されなかった授業及びディスカッションベースの授業だった。各教授ともできる限りのサポートをしてくれたが、授業に出られず、教授とも事前のアポイントメントがないとオンラインでも会えず、時差がある学生にはハンデがあった。

 

改めて感じた留学の魅力

 大学を決めるときは、こうした非常事態に、留学生をどのように扱ったかという部分を注視してほしい。非常事態であっても留学生がちゃんとそれぞれの国に帰れるよう、援助してくれるのか、また帰れない場合は生活の保障をしてくれるのか、そこに大学が留学生をどのように思っているのかが現れてくると思う。海外の大学への進学は、家族と離れ暮らすということであり、場合によっては国境が閉じてしまうという可能性もある。自分がそこまでして何を求めているのかを明確にしておいた方がよいと思う。

 

現役高校生へのメッセージ

 こういう時期だからこそ不安に思うかも知れないが、様々な大学についてしるいいチャンスだ。こういう状況下で各大学がどう対応しているのか、それぞれの大学の特徴が見えてくると思っている。

 

Report5. 杉下 はる スギシタ・ハル さん

バッサー大学(米ニューヨーク州プキプシー)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 ニューヨーク州は感染が爆発的に増加したが、5月に入ってから、ピークは過ぎ、新たな感染者数は減ってきている。州が医療崩壊や感染拡大を防止するための対策を丁寧に行っている印象だし、経済再開に向けて準備が進んでいる。寮は閉鎖されなかったが、退寮が推奨された。留学生や経済的に余裕のない家庭の生徒、家庭環境に問題がある生徒などは届け出を出せば残ることができた。中国からの留学生などは多く寮に残っている。

 

大学での授業

 授業は全てオンラインとなり、夜10時ごろから帰国した実家で授業を受けている。深夜の授業などは、現地時間に合わせて授業を受けなくても、録画をみることも認められている。勉学を続けられているのはうれしいが、ディスカッションの授業などはオフラインの方がいい。成績評価は、勉強する環境(ネットワーク環境、家庭環境など)の違いを考慮して、全ての授業がNon Recorded Optionという、可/不可のみで成績をつける方式になった。

 

改めて感じた留学の魅力

 留学でよかったことは、寮に住んで、勉学に集中できる環境があり、多様な友人と過ごすことができたこと、少人数の授業によるディスカッションを通して理解を深められることだった。

 

現役高校生へのメッセージ

 オンライン授業となってしまったが、すばらしい教授が多様な視点から世の中のことについて授業してくれ、自分の学びを深められるという海外の大学の魅力は変わっていない。留学を目指す高校生の皆さんには、新型コロナウイルスの影響で留学をあきらめてほしくはない。一緒にこの状況下で頑張ろう!

 

Report6. 中野 かりん ナカノ・カリン さん

スワ―スモア大学(米ペンシルベニア州フィラデルフィア近郊)2年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 大学があるペンシルベニア州デラウェア郡は、州内でも感染者数が多く、未だに外出ができず店が空いていない。州内には、規制が解除されてきた地域もあるが、フィラデルフィアなどの都市とデラウェア郡は感染者数がまだ抑えられていない。寮は基本的に閉鎖され、留学生も、帰国が難しいといった特例を除き、原則自宅へ戻る対応が取られた。春休み中に寮が閉鎖、大学活動がすべてリモートに移行したため、未だに寮の部屋に荷物が置かれたままだ。州から外出の許可が下りるまで、大学のスタッフも学生の荷物を送るなどといった対応が取れず、荷物を送ってもらえる見通しが立っていない。

 

大学での授業

 教授によって直接オンラインで受けるか、録画されたビデオをみる方法が取られた。録画があったことで、帰国後、深夜に授業を受ける必要はなくなったが、一方でこれまで一緒に授業を受けていた友達と会う機会がなくなり、孤独に感じてしまうこともあった。

 

改めて感じた留学の魅力

 リモートになったことで、気軽に教授の研究室に行けた状況が、すべてアポイントメント制に変わり、アポを取るからにはしっかりとした質問を準備していかないといけない、といったプレッシャーも感じてしまった。以前の、ドアが開いていれば気軽に研究室に入っていける、カジュアルな空間の大切さを身に染みて感じた。また、通りかかった友達と生まれる何気ない、でも学びの多い会話がなくなり、みんなが常に同じ空間で生活していることにどれほどの意義があったのか、改めて実感した。

 

現役高校生へのメッセージ

 不安や苦労もあると思うが、おかげで留学生が一度に帰国して、こんなにたくさん日本にいる機会はあまりない。情報収集は大変かもしれないが、留学フェローシップのサイトなどを通して気軽に様々な大学に通う学生に連絡を取り、直接話を聞いてみてほしい。みんな気軽に話をしてくれると思う。実際に通っている学生に話を聞くことが、大学の雰囲気をつかむうえでもとても役立つと思う。応援している!

大学の日本語学科が毎週実施しているチャットアワーをコロナの影響でリモートで行った際の様子。日本人と日本語を勉強する学生が1時間話すことで、スピーキングの練習をするプログラムで、この日は Zoom で絵しりとりを行いました

 

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海外留学を目指す高校生に進学支援を行っているNPO法人「留学フェローシップ」のメンバーが、海外のキャンパスライフをリレー連載します。留学フェローシップの詳細は>>ウェブサイトへ。

(2020年7月14日 10:35)
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