新型コロナウイルスの猛威は世界で広がる中、13万人以上の死者を出したアメリカや4万人以上の死者を出したイギリスなどで学ぶ日本人留学生たちがいる。この危機に彼らはどう向き合ってきたのか。教育ネットワークでは、日頃留学生リレーエッセーなどにも寄稿してくれているNPO法人、留学フェローシップの協力を得て、留学生たちの話、留学を考えている現役高校生たちへのメッセージを書いてもらった。
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Report7. 関本 椎菜 セキモト・シイナ さん
ウィリアムズ大学(米マサチューセッツ州ウィリアムズタウン)1年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
学校のある街は州都ボストンの西方200キロの郊外で人口も少ないため、感染者の情報はほとんどない。3月ころに周辺の地域で1、2人カリフォルニア州などから帰ってきた人の感染情報があったが、その後キャンパス閉鎖・自粛がはじまり、ウィリアムズタウン在住の教授に聞いた話では、クラスター等が起こることもなく平和に過ごしているそうだ。同じ州内のボストンなどにある周辺の学校がキャンパス閉鎖を宣言したころから、学長から「対応を検討中」とのメールが届いていた。閉鎖・オンラインを避けたい生徒や教授の声を受け、学長はなんとか閉鎖以外の方法で対処できないか最後まで頑張ってくれたが、最終的には閉鎖が決定した。その週の金曜日まで授業、火曜までに退寮1週間以内に退寮というアナウンスだったが、多くの教授が生徒の準備時間を確保するため、授業のキャンセルや中間試験の延期等の対応をしてくれた。だが、留学生や家に帰れない生徒は寮に残る申請も可能だった。今回の閉鎖における帰宅のための旅費は、金銭的支援を受けている全学生に対し大学が全額支払い、支援の有無に関係なく全学生が個数無制限で荷物を業者に預けることが可能になるなど、大学は財政面でも異例の対応をしてくれた。春休みの1週間前にキャンパスが閉鎖されたが、生徒の環境の変化なども考慮し、直後の1週間ともとの春休みを足して3週間の休みが与えられた。その期間は、宿題やテストが禁止された。成績評価は閉鎖とほぼ同時に合否のみの方式で行うことになった。
■ 大学での授業
オンラインで授業を受けており、クラスによってライブでのディスカッションや録音されたビデオでのレクチャーなどがある。多くの授業で時差のある生徒のためにいくつかのオプションを用意してくれているが、日本にいるとどうしても深夜や未明の時刻が中心となってしまう。ほぼ全ての授業で課題が減った。ただ、オンライン授業のため、どの授業を受けて何の課題をしていてもパソコンの画面を見つめていることになり、パソコンの画面が切り替わる以外の変化がない生活には、モチベーションを保ち、メリハリをつけることに苦労している。
■ 改めて感じた留学の魅力
外国人、留学生という立場の弱さを感じざるを得ない機会だったが、大学や教授のサポートの手厚さを実感することができた。オンライン授業移行後、常にひとりひとりの生徒のことを考え、授業内外における必要な対応をしてくれている大学のオフィスや教授には本当に感謝している。生徒をただ学校で学ぶだけの存在ではなく、授業・学校生活・家庭環境など全てに対応しなければならない1人の人間として扱ってくれる点も大きな魅力だ。
■ 現役高校生へのメッセージ
オンライン授業は好き嫌いが分かれる。今後どうなるかはわからないが、何のために大学に行きたいのか改めて考え、それに沿った選択をしてほしい。また、この制限された環境下で、大学がどのように対応したかに注目することも大事だ。その大学が何に重きを置いているのか、財政状況、校風などさまざまな特徴があらわになった時期だった。ぜひいろんな先輩に話を聞いてみてほしい!
書店の前で友人と(右) |
Report8. 松井 紗良 マツイ・サラ さん
スミス大学(米マサチューセッツ州ノーサンプトン)1年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
マサチューセッツ州の州都ボストンの西165キロにある大学なのでボストンやニューヨーク中心部に比べるとかなり感染者数が少ない。3月下旬に帰国したが、大学からは外出する際に必ずマスクやフェイスシールドを装着するよう通達があった。新型コロナウイルスが大学内で流行した場合、近辺の病院がパンクするため、可能な限り実家に帰ってほしいと指示があった。原則は全員退寮だったが、条件次第でキャンパスに残ることもできた。帰国するにあたって経済的支援を必要とする生徒にはお金が出され、また卒業生のコミュニティからは空港までの送り迎えや経済的支援があり、車で40分ほどの場所にある空港までの無料バスも提供された。
■ 大学での授業
2学期のちょうど半分がオンライン講義になった。時差やネット環境に左右されることから、基本的には生配信と録画のどちらかを選ぶことが出来た。当初予定されていた試験範囲が減り、成績の付け方が課題ベースになった点は生徒によっては負担が大幅に増えてしまったのではないかと思った。一方で、毎回5、6人のグループで予習した内容をオンラインでディスカッションする授業もあり、個人的にはこのような形式は以前より、多く学べたのではないかと感じた。
■ 改めて感じた留学の魅力
このような緊急事態の際に、大学側のみならず卒業生からもあらゆるサポートを受けられる環境にあったのは小さいかつ伝統があるリベラルアーツ大学の魅力の一つだと思う。また、オンライン授業への移行に伴い完全ディスカッションベースの授業スタイルに変えられたのも、1学年につき600人程度しかいない小さな大学の特徴ではないだろうか。もし、仮にあと1年間オンライン授業を受けることになっても海外の大学に進学したことを後悔することはないと思う。
Report9. 加井野 絢 カイノ・アヤ さん
ウェルズリー大学(米マサチューセッツ州ボストン)3年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
2月下旬より学校から「手洗いの励行、手拭きペーパーの設置、せきくしゃみのマナー」等の注意喚起メールが何通か送られた後の3月13日、学生と保護者宛に「3月23日から始まる予定だった1週間の春休みを3月16日から開始することとし、3月17日午後6時をデッドラインとして全学生退寮すること。春休み明けの3月30日よりオンライン授業に切り替える」という内容のメールが届いた。3月17日の退寮日までの生活は、街全体もキャンパス内においても基本的には通常通りだった。帰国後、ニューヨークで非常事態宣言が出される中、3月31日に大学から「近隣住民に開放していたキャンパス内を全面封鎖とする」旨のメールが届き、4月4日には、大学関係者にコロナ感染者が出たとの通知もあった。
■ 大学での授業
全学生ともにオンラインの授業形式。時差が大きい地域や体調不良等で受講が困難な学生は、録画授業を見てレポートを出すことで出席とみなされる講義もあり、オンラインということ以外の対応は教授によって様々だ。私は、大学所在地と13時間の時差があったが全ての授業を受け、期末試験も無事に終えた。
■ 改めて感じた留学の魅力
この大学の最大の魅力は教授との近さにあると改めて感じた。世界中どこからでも授業を受けられるオンラインの素晴らしさも体感したが、やはりキャンパスでの授業とは経験量が圧倒的に違う。オンラインでは拾い得ない教授や学生のエネルギー、話し手を受け入れる心構えなど、リアルならではの魅力を再認識したオンライン授業でもあった。
所属するマーチングバンドの仲間と、コロナ前に撮影した(前列右) |
Report10. 髙島 崚輔 タカシマ・リョウスケ さん
ハーバード大学(米マサチューセッツ州ケンブリッジ)3年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
マサチューセッツ州は感染爆発が起きたニューヨークに近い東海岸に位置するが、大学が休校を決断した3月10日時点では州全体でも感染者は100人未満。当時は大学周辺も平穏だった。大学内で初めて感染者が明らかになったのは3月13日。ボストンのロックダウンを経て、現在は5月6日から州全体で外出時のマスク着用が義務付けられるなど、厳戒態勢が続く。3月10日朝。突然学長から寮の閉鎖を伝えるメールが届き、15日までに荷物をまとめて帰宅するように、との指示が出された。感染状況等を勘案し帰国が困難な留学生は希望すれば寮に残ることもできた。4年生を中心に突然の通達にショックを隠せない者も多かったが、タイミングとしてはギリギリだったと感じる。実際、直後にマサチューセッツ州でも感染者が急増し、学長も感染した。
■ 大学での授業
時差があるため、基本的に授業は録画したものを視聴。級友とのプロジェクトは日本時間の朝(米東海岸時間の夜)にミーティングを行っている。実験は大学院生のティーチングフェローが収録した動画をもとにディスカッションし、動画中に得たデータを分析する方法で行われた。ディスカッションと実験の授業のみライブでの参加が必要だったが、時間は最大限配慮してくれた。成績が全て可/不可になったため、テストがなくなった授業もあった。
■ 改めて感じた留学の魅力
大学の魅力の大部分は、キャンパスに流れる「空気」だったと、初めてのオンライン学期を終えて思う。学友と食堂で宿題をするひととき。雑談にかまけて宿題の進捗が悪くなることも多かったが、思い返せば周りでともに学ぶ仲間の存在が刺激となり、無意識のうちに自分も頑張ろうという気持ちになっていた。授業の中身や教授・学生の質の高さも魅力的だが、良い意味で「周りに流されて」勉強が進み、切磋琢磨(せっさたくま)し合う雰囲気も大きな魅力だった。
■ 現役高校生へのメッセージ
留学する目的を、もう一度考え直してほしい。その目的が明確で、想いにゆらぎがなければ、一歩踏み出してはどうだろうか。海外の大学での学びは、withコロナ/afterコロナ時代では大きく変わるだろう。ただ、これまでも大学教育は、不易流行の精神で進化してきた。本質的な価値はそのままに、より深い学びができるように、これからも進化し続けるはずだ。海外の大学では主体的な学びが求められる。困難な時代を乗り越える力――すなわち、変化する環境に柔軟に対応し自分らしく生き抜く力――は、海外大学で培う力に他ならない。これはコロナ時代でも不変だ。むしろ、大学が猛烈に進化し続ける今だからこそ、その力はさらに養われることだろう。慣れた環境を飛び出し、自分らしい学びをデザインする4年間に、ぜひ挑戦してみてほしい。ともに学べることを、楽しみにしている。
ボストンで毎週のように食べていた二郎系ラーメン「Yume wo Katare」(店内。帰国後も味が忘れられず、大分の総本店から取り寄せ、夢を語りながらいただいた) |
Report11. 小森 麟太郎 コモリ・リンタロウ さん
ボウディン大学(米メイン州ブランズウィック)3年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
大学があるメイン州ブランズウィック市は比較的田舎にあり、人口密度が低いため、大都市に比べるとクラスター感染の脅威は少なかったようだ。州全体では総感染者数が2000人に上ったが、大学校内から感染者を出すことはなかった。街のレストランの大半はテイクアウトに移行し、スーパーでの買い出しはマスクが必須アイテムとなった。留学生や特別な理由を持つ学生以外の生徒は基本1週間以内には寮を退去し、実家に帰るように、と3月中旬に指示があった。全学生1800人のうち、自分を含む100人ほどがキャンパスの寮にとどまるのを許された。
■ 大学での授業
オンライン形式のライブ授業を寮から受けた。授業の時間帯や課題の量がほぼ変化しなかったため、週に5日、午前10時から午後2時くらいまで授業を受けていた。また通常通り午後や週末を使って、課題を終わらせていた。オンラインに移行しても授業のクオリティや教授陣とのコミュニケーションの質が低下したと感じることは、一度もなかった。
■ 改めて感じた留学の魅力
授業がリモートに移行してからも教授陣はとても熱心にライブ配信のレクチャーを行い、授業外ではひとりひとりの生徒の相談に乗ってくれた。自分自身、履修している授業では毎日のように教授の研究室に通った。そのため、コロナウイルスに関係なく、自分がとりたいと思った授業の内容をとことん満足するまで学ぶことができたと感じている。このようなサポート体制が整っているのは米国のリベラルアーツ大学の魅力だと改めて感じることができた。
■ 現役高校生へのメッセージ
コロナウイルスの影響で、今後教育システムにも大きな変革がもたらされると思う。自分の学びたい理想の環境像はどこにあるのか、どのようなものなのかを改めて考えつつ、各大学の特徴と照らし合わせながら、留学の準備を進めていってほしい。みなさんの充実した留学生活を、心より祈っている。
コロナ騒動による寮の退去当日。しばらく会えなくなるから、と一年生時から仲良くしていたルームメイト4人で撮影した記念写真 |
Report12. 三枝 万柚香 サエグサ・マユカ さん
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)(英国ロンドン)1年(20年6月時点)
■ 大学周辺の状況
スーパーを除く商業施設がほとんど閉鎖されている。交通機関は運転を続けているが、食料の買い出し、最低限の運動以外では、基本的に外出できない。大学が閉鎖され、3学期に予定されていた試験が、オンラインまたは中止となった。退寮を勧めているが、帰国できない人のために、一応開いている。私は日本に帰国した。
■ 大学での授業
3学期はもともと授業がなく、現在は、年度末の課題を進めている。
■ 改めて感じた留学の魅力
授業時間が短く、自分のペースでリーディングや課題をこなすことに重きをおいたスタイルが魅力だ。
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海外留学を目指す高校生に進学支援を行っているNPO法人「留学フェローシップ」のメンバーが、海外のキャンパスライフをリレー連載します。留学フェローシップの詳細は>>ウェブサイトへ。