留学生たちが見たコロナ時代 3(海外で学ぶ 番外編)

 新型コロナウイルスの猛威は世界で広がる中、13万人以上の死者を出したアメリカや4万人以上の死者を出したイギリスなどで学ぶ日本人留学生たちがいる。この危機に彼らはどう向き合ってきたのか。教育ネットワークでは、日頃留学生リレーエッセーなどにも寄稿してくれているNPO法人、留学フェローシップの協力を得て、留学生たちの話、留学を考えている現役高校生たちへのメッセージを書いてもらった。

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Report13. 佐藤 和音 サトウ・カズネ さん

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英国ロンドン)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 3月下旬からロックダウンのため、街中から人影が消え、ゴーストタウンの様相だ。卵、トイレットペーパー、牛乳、洗剤など生活必需品も一時期手に入りにくくなっていた。交通は減便、夜間運行中止で、一部の駅が閉鎖されている。5月25日時点では、ある程度、外出制限の緩和が進められているが、ロックダウン自体は継続しており、日本よりも厳しい規制が残っている。授業は3月末までオンラインに移行して継続。4〜6月に予定されていた試験はすべてキャンセルされ、さらに1年生には今年度の課題をすべて成績に含めず、試験の代替手段として合否のみのオンライン進級課題が出た。寮は当初開いていたが、3月下旬に大学施設が閉鎖になるタイミングで「帰れる生徒は一刻も早く帰宅・帰国するよう推奨」という勧告が出た。

 

大学での授業

 基本は通常時と同じ時間帯に、オンラインの会議システムを使用して講義という形態だったが、講義スライドだけアップロードする場合もあった。もともと、世界中から学生が来ているので、オンライン授業でみんながカメラをつけるとそれぞれの国での自宅の様子なども写ってちょっと楽しかった(笑)が、やはり教授に直接リアルタイムで質問しにくくなってしまうのは辛かった。

 

改めて感じた留学の魅力

 さまざまな国からの学生たちと知り合えるうえ、UCLは海外の大学のなかでも日本人コミュニティがそこそこ大きいので、情報交換がしやすい。大学自体がもともと大学通信教育を世界で初めて開始したところということもあり、オンライン授業への移行が比較的スムーズだったことも良かった。

 

現役高校生へのメッセージ

 コロナの影響は残念ながらまだまだ大きいが、実際に日本と習慣やルールが異なる海外で生活することで得られる経験値は大きいはずだ。海外の大学は特に多種多様な国籍の学生、日本では出会えないような人たちが集うので、彼らととにかく仲良くなって、一生大事にできる付き合いを作ってほしい。

大学のメインビル前で

 

Report14. 天野 淳風 アマノ・ジュンプウ さん

ダラム大学(英ダラム)4年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 3月中旬よりロンドンに滞在したが、普段より人通りが少なく街も閑散としているが生活に必要な都市機能は足りていると感じた。5月末現在、段階的にロックダウンを解除の予定だ。大学では、図書館や寮を含む大学施設は全面的に閉鎖された。長期的に大学へ戻れない前提での行動が3月から求められている。

 

大学での授業

 完全にオンライン授業へ移行した。試験は普段の2時間のペーパー形式から48時間のオープンブック形式(試験問題が開示されてから提出まで、インターネットや辞書等、何を使っても問題ない試験)のオンライン試験へと移行し、成績評価の方式も変更された。それにより授業と試験に関してモチベーションが著しく低下した一方、試験時間が大幅に伸びたことで精神的に楽にはなった。

 

改めて感じた留学の魅力

 大学やその土地にいることでゼロから交友関係を作れることの価値、対面形式での交流が人間関係の拡大に役に立つこと、創造的な会話が日々の大学生活や寮生活の中で生まれることを再認識した。自粛期間では海外に住むことで生まれる何気ない発見から得る学びが著しく減った。また、図書館で参考文献を探す際に別の書籍が目に触れることで思考の幅が増えていたと認識した。

 

現役高校生へのメッセージ

 正直コロナによる自粛を伴う留学生活はその価値が半減されると思う。しかし、これを好機と捉え、学びの幅を増やすことも可能だ。そして、この自粛後に海外で大学生活を送れた際、その感動は大きいと思う。目標と好奇心を失わずに頑張ってほしい。

ロンドンで、ソーシャルディスタンスを保ちながら誕生日を祝った(奥の自転車が本人)

 

Report15. 小松 千聖 コマツ・チサト さん

ブダペスト・コルヴィヌス大学(ハンガリー・ブダペスト)3年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 ハンガリーの状況は日本や他のヨーロッパの国の状況より落ち着いている。6月9日時点で4000人を超えている。3月の中旬以降から段階的に緊急事態宣言や、店の開店の時間制限、都市封鎖、店や交通機関を使うときのマスク着用の義務などが発表された。国内での感染の中心は首都であり大学のあるブダペストなので基本的に地方から規制が緩和されている。3月中旬の政府発表の翌日には大学が閉鎖された。その後、春休みが前倒しになり2週間大学が対策を考える期間となり、3月中にオンライン授業に移行となった。基本的にテストはエッセイ提出に変更となったが、オンライン形式のテストも残っている。私は時差や最終学年ということを考慮してハンガリーに残っている。

 

大学での授業

 私は3年生で、最終学年になるので普段の課題に加え卒業論文もあったので図書館に行けないのは痛手だった。しかし、論文や本はオンラインでアクセスできるものも多く、大きな問題はない。授業は少々技術的な問題はあったが、自宅のインターネット環境は良いので通常とそう変わらず受けることが出来た。ただ、グループワークは実際に会えず、オンラインでの連絡には時間がかかり大変だった。

 

改めて感じた留学の魅力

 この世界的な大流行の中で、友人の存在はとてもありがたい。メッセージやビデオ通話などでいつでも連絡が取れるし、ハンガリーや他の国の情報も手に入れやすい。所属しているのが留学生の多いコースで、帰国していない友達も多いので、似た境遇で一緒に頑張れるのは励みになる。大学で面白いなと思ったのは、もうすでに欧州連合(EU)での対策などコロナに関する課題や授業があったこと。

 

現役高校生へのメッセージ

 このような状況は進路を考える上で大きな不安要素だと思う。最終学年がこのような形になるのは残念だったが、私はやはり海外に進学して良かったと思う。国によって状況は違うが、緊急時には帰国する選択もあるし、この経験から色々学べたように感じる。コロナの影響だけで判断するのではなく、しっかり調べて準備をして、その大学がどう対応したかなどを見た上で本当に行きたいかを判断するのもいいと思う。その上で断念しても、その準備に費やした努力は無駄にはならないと思う。頑張ってほしい。

 

Report16. 藤戸 美妃 フジト・ミキ さん

デブレツェン大学(ハンガリー・デブレツェン)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 首都、ブダペストは感染者がかなり多いが、大学のあるデブレツェンはブダペストの東230キロにあり感染者は少ない。4月の間は不要不急の外出は禁止され、レストランはデリバリーのみ、買い物は高齢者以外は午前9時から正午は禁止だった。5月中旬からはそれが緩和され、買い物をしていい時間は決められているが、外出制限はなくなった。帰国は推奨されておらず、5月上旬まで大学は「帰国して万が一、試験期間にハンガリーに戻って来られなくても責任は取らない」と言われた。毎週大学から新しいアップデートがメールで送られてきたが、試験期間が急に前倒しされるなど、毎回かなり内容が変更されたのには少し困った。

 

大学での授業

 講義は全てオンラインで、本来学期中にあった試験はなくなった。実験などの授業はデータを渡され、そのデータを自分たちで分析して提出するものが多かった。一部の授業は教授がレクチャーの動画をアップロードしてくれたので、それを見ながら勉強した。自分の好きな時に見られる上、わからなかったら何度も見返せるので動画がアップロードされることは個人的に好きだった。ただ、オンライン授業では普通の授業に比べ、質問がしづらかった。試験は5月25日から始まった。筆記試験もマスク着用、2メートル程度の間隔を開けることを条件に通常通り始まった。6月からは学期中にどうしても行えなかった解剖学の実験などが始まる。6月中旬からは口頭試験なども始まるという。

 

改めて感じた留学の魅力

 コロナで大学に実際に通うことはなくなろうと、次から次へと課題を出されるので、常に忙しかった。その点は家にいても暇にはならなかったので良かった。

 

Report17. 橋本 七海 ハシモト・ナナミ さん

デルフト工科大学(オランダ・デルフト)2年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 2人以下の外出に決まった制限はないが、空いている店は限られている。スーパーマーケットなども人数制限が行われている。ただ、外でランニングや散歩を楽しんでいる人は多く、それほど緊迫感は感じられない。大学は3月中旬からオンラインでの授業に変わり、4月中旬には7月上旬の夏休み開始まで試験を含めて全てオンラインで行われることが決定した。寮生活ではないため、住む場所を追い出されるようなことはなかったが、大学に残る必要もなくなったことから帰国した学生もいる。大学からは、とにかくオンラインでの学習を続けること、という指示があり、自宅での学習のコツなどが紹介されている。

 

大学での授業

 大人数でのレクチャーは録画されたものを自分が都合の良い時間に視聴している。チュートリアルなど比較的少人数のものは時間を決めてオンラインで行われている。レクチャー中に質問をする機会はなくなったが、チュートリアルや別に設けられた質問セッションで聞くことができるため、特に困ってはいない。レクチャーの早送りや巻き戻しができるのは便利だ。

 

改めて感じた留学の魅力

 海外大学の、というわけではないが、私の大学では普段から授業の録画やオンラインフォーラムの活用をしていたことから設備やノウハウがあり、オンラインへの移行が非常にスムーズだったのは良かったところだと思う。

 

現役高校生へのメッセージ

 様々な活動が制限されるなか、不安もあるかと思うが、どの道を選んだとしても方向を間違えなければ行きたいところへたどり着くはずだ。どんな状況であれ、自分が納得のいく進路選択をしてほしい!

運河と岸にチューリップ

 

Report18. 徐 亜斗香 ジョ・アトカ さん

清華大学シュワルツマン大学院(中国・北京)4年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 今回の新型コロナウイルスが中国の武漢で初めて感染が確認されたため、1月の下旬には北京にもその影響が出ていた。幸い、私たちの大学院は中国の春節に合わせた冬休みに入っていたため、既に中国を離れていた学生が多かった。その直後には北京も完全なロックダウンに入り、大学院も当分の間、閉めざるを得ない状況に陥った。生徒の安全を第一に考えてくれる大学ということもあり、新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)し始めてからは全ての講義がオンラインに変わった。メールでのサポートもより充実したものになった。

 

大学での授業

 現在は全ての授業をオンラインで受けている。幸い、中国と日本の時差がそれほどないので、大半の授業を日本時間の夕方に受けている。正直、オンライン授業では、やはり画面越しに授業を聞いたり、ディスカッションに参加したりするのであまり好きではない。しかし、今の状況下では仕方ないのでどうしようもないと思っている。

 

改めて感じた留学の魅力

 海外の大学の教授の方がオンライン化に慣れているのか、オンラインでの授業もディスカッション・グループにスムーズに分けるなど、出来るだけ通常授業のやり方を保てていると思う。海外の大学の魅力としては、世界中の友達が出来るということが挙げられるが、まさに世界中の友達とオンラインビデオ通話などで世界の状況を共有出来るのは貴重な体験だ。

 

現役高校生へのメッセージ

 今回の新型コロナウイルスの影響によって、生活や予定がガラッと変わってしまったかもしれないが、この試練はいつか生かされるだろうし、この経験があってこその未来があると思うので、今は辛くても苦しくても、チャンスだと思って一緒に乗り越えてほしい。

 

Report19. 久我 有茉 クガ・ユウマ さん

クレアモントマッケナ大学(米カリフォルニア州クレアモント)1年(20年6月時点)

 

大学周辺の状況

 アメリカでのコロナ感染者数は150万人以上に上るが、クレアモントは小規模な街で比較的人口も少ないためコロナの実例も少なく10件ほどである(6月初め頃)。2月下旬からアメリカでもコロナの実例が増加傾向にあり、3月上旬ごろから消毒薬がキャンパスに置かれるようになり、食堂にも簡易のシンクが設置された。3月9日の月曜日に幾つかのアメリカの大学がオンライン授業に移行する意思を発表した同日、Zoomでの授業に移行する可能性が示唆された。そして、11日の水曜日、春休み明けにすべての授業を速やかにオンラインへ移行することを正式に発表した。その際、春休みも1週間伸び、15日から27日までとなった。渡航に対する注意レベルが2以上(日本、中国を含めた)の国出身の生徒や家庭にやむを得ない事情がある生徒を除き、23日までに寮から退出することが義務付けられた。滞在を決めた生徒に対し、15日の土曜の夜までに滞在申請書類の提出が求められた。私は悩んだ挙句、日本帰国を決意。急いで荷物をまとめ、15日にキャンパスを去った。米欧州間の渡航が禁止された直後だったため、ロサンゼルス国際空港(LAX)は今までに見たこともないほどすいていて、飛行機も空席が目立った。帰国してから日本人の緊張感のなさに軽く驚いたが、その後私は自主的に14日間の外出自粛を行った。桜が咲き始め、私の自粛生活が明けたころに日本でもコロナの深刻化が進んだので、残念ながら私は引き続き自粛生活に戻った。その頃、大学に残る決意をした友人は、自分の寮からSenior Apartment(4年生が多く住むシェアハウスのような寮)に引っ越していた。部屋にこもるか、ソーシャルディスタンシングに気を付け外出し、食事の際は一つだけ空いている食堂でテイクアウトをする毎日を送っていたようだ。

 

大学での授業

 大学はZoomでのオンライン授業を提供してくれた。時差についてなどのアンケートの結果に基づき、授業の時間帯が変更になったり、録画された授業の様子を見ることが可能になったりと、臨機応変な対応がなされた。一番早朝の授業でも日本時間の6時45分だったので、私はむしろ規則正しい生活が送れたが、夜中の3時から出席必須の授業がある友人はかなり苦労していた。オンライン授業は教室で授業を受ける時よりも集中力が求められるので、時間帯以外にも授業時間の長さがオンライン授業における問題点になってしまう。例えば、私は週1で3時間の授業があるが、いくら休憩をこまめに挟んでいたとしてもかなり疲れてしまう。また、ライブで授業に参加せず、録画されたものを後で見る場合は時間管理能力が必要とされる。だが、オンライン授業の悪い点は基本的に個人の努力で改善されるものばかりである。そして、教授も誰でも教授の研究室に入れるオフィスアワーを通常通り設け、いつでもアクセスできる状態なのでいつものようなサービスを受けられる。また、録画されている授業は見直すことができる利点も多い。

 (両親も)多少急過ぎる決断に戸惑っていたが、コロナの状況を的確に把握し、迅速に対応したことは当時の最善策であったと肯定的だったようだ。しかし、未だに2020−21年度の予定が発表されていないことには、否定的な意見も多い。

 

改めて感じた留学の魅力

 コロナ時代になり、授業や教授との関係性などオンライン授業でも維持できる分野もあるが、やはり友人関係など一緒に過ごす時間を共有して構築していく関係の大切さに気づかされた。私は1年生としてキャンパスで過ごした約半年間でかけがえのない友人を作れたが、仮にオンラインで1年生を過ごしたとすると同じような信頼関係は築けなかったように思える。また、リベラルアーツの環境だからこそ最大限に享受できるキャンパスライフの「会いたい友人や話したい教授とすぐに会える特別さ」、そして「美しいキャンパスでのびのびと生活できる恵まれた環境」を実感させられた。この特殊で素晴らしいリベラルアーツや寮生活における海外大学の環境は最大の魅力であると思う。しかし、キャンパスライフがオンラインに移行しても、教授の手厚いサポートをしっかりと受けることのできるこの大学に進学してよかったと思った。余談だが、海外留学することによってできた様々な国出身の友人から生の声でコロナの現状を耳にすることができ、ネットワークが広まり、世界はつながっていることを強く実感している。

 

現役高校生へのメッセージ

 コロナの影響で先行きが不透明な中、海外進学を迷っている方も多いと思いますが、こんな時だからこそ海外からの視点で日本、そして世界を見つめる機会となる海外留学を諦めずに目指して欲しいです。日本でも安心できない中、海外に行くなんて不安だと思っている人も多いと思います。しかし、それは海外の人々も同じで、海外大学、海外の政府など皆が最適な道を模索しています。ですから、皆さんも今ある不安ではなく、将来何をしたいか、そのために何が必要か考え、もし海外大学に進学したいと強く思うのなら、しっかりと目標に向かって最善の選択をしてください。新しい環境に進むのは時に不安で海外で生活するにあたり壁にぶつかることもあるでしょう。ですが、楽しい生活、新たな価値観との邂逅、世界中に友達を作れる機会、と留学しないと手に入れることのできない貴重な経験がその先に待っています。数年後2020年を思い出した時に、あの時諦めなくてよかったと後悔しない決断をしてください。

Zoomでの リモート授業の様子

 

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海外留学を目指す高校生に進学支援を行っているNPO法人「留学フェローシップ」のメンバーが、海外のキャンパスライフをリレー連載します。留学フェローシップの詳細は>>ウェブサイトへ。

(2020年7月16日 09:40)
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