沼田 晶弘
第1回 踊る教室(1)
♣ももクロに乗って「ダンシング掃除」
うちのクラスを見学に来る人は、たいがい度肝を抜かれます。踊りながら掃除するからです。
給食が終わって片づけが始まると、ボクがパソコンで、ももいろクローバーZの『行くぜっ!怪盗少女』をかけます。ノリのいいリズムに合わせて、クラスの38人が一斉に机といすを動かし、ほうきで床を掃き、ぞうきんがけをします。このあたりの連携もすごいんですが、最大の見せ場はサビの部分です。
〈笑顔と歌声で 世界を照らし出せ~〉
で、全員がほうきとぞうきんを床に置き、ももクロの振りで激しく踊り始めます。見事に揃ってキレもいい。サビが終わると、すぱっと掃除に戻ります。これを繰り返しながら、掃除を終えて、最後は全員の手拍子で締め。
これが6年1組名物「ダンシング掃除」です。
この模様は今年、テレビ朝日系のバラエティ番組「ナニコレ珍百景」や、フジテレビ系の「みんなのニュース」で次々と紹介されました。テレビを見た方は「何てヘンなクラスだ」と思われたかもしれません。しかし、子どもたちにとっては、毎日やっている日常活動なので、特に変わったことをしているという意識はないんです。
♥踊っても掃除はスピードアップ
音楽をかけて掃除をすることには意味があります。『行くぜっ!怪盗少女』は3分48秒、もう1曲『ルパン三世のテーマ』などを流して、トータル5分くらい。ボクが指示するのは、「曲が終わるまでに掃除を終えてね」、ただこれだけです。
すると子どもたちは工夫し始めます。どうすれば効率的に掃除できるか、ムダな動きを省けるかを、徹底的に研究するんです。
小学生にとっては、活動しながら時間を意識するのは難しい。曲を聴くことで「残り何分か」を知ることができます。早く掃除を終えれば、それだけ早く帰れたり、休み時間が増えたりするので、この子たちにとってもメリットがある。実際、ダンシング掃除で掃除のスピードはどんどん上がっています。
「じゃあ何でわざわざ踊るの?」と言われそうですが......。まあ、ボクが面白いと思ったからなんですけど。でも、子どもたちも楽しそうだし、給食のおねーさんたちもファンになって見物に来るし、テレビ取材は来るしで、結果オーライかなと。
この通り、ボクがまずヘンな教師です。教室で子どもから「沼田先生」なんて呼ばれることはありません。いつも「ぬまっち」ですね。
♠世界一のクラスってなんだ?
ボクは6年1組を「世界一のクラス」だといつも公言しています。きっと子どもたちも「オレらのクラスは伝説になる」と信じているはず。
とんでもない大風呂敷に聞こえるかもしれません。世界一のクラスって何なの? どんな基準で世界一を決めるの? 当然、こう質問されると思います。それについての答えは、このコラムで少しずつ書いていくつもりです。
ひとつここで言えるのは、子どもには、大人の予想を軽々と超える力があるということです。まさか無理だろう、ということでも彼らはやり遂げてしまう。ボクはタンニンですが、そんな子どもたちのいちファンでもあるんです。
記事一覧 | >>2 |
沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。