沼田 晶弘
第2回 踊る教室(2)
♣実習生時代の経験がルーツ
「ダンシング掃除」のルーツは、約20年前、ボクが目黒区の小学校に教育実習生として行ったころまで遡ります。
6年生の体育の時間でした。準備体操をさせると、どうも時間がかかる。でも、子どもたちは真面目にやっていて、別にサボってるわけじゃない。どうしてかな? と観察すると、ストレッチとストレッチの間の姿勢の切り替えに、意外と時間を食っている。それぞれはわずかな時間でも、積もり積もるとけっこうなタイムロスです。
ふと思いついて、クラスのおしゃまな女の子を集めて、「準備体操を曲に乗せてみない?」と持ちかけてみた。当時、デンマークの姉妹歌手Me&Myの『Dub-I-Dub』という曲が流行っていました。それに合わせて体操させてみたら3分ちょっとで終わった。曲がその長さだから当然ですが、全体的にキビキビするようになったんです。
これはいけると思い、放課後、クラス全員を集めて、校庭の隅っこで『Dub-I-Dub』をかけながら、子どもたちが振り付けみたいにストレッチ運動を考えた。これが曲を使った最初です。
♥初ダンスは『世界に一つだけの花』
現在の学芸大附属世田谷小に赴任して、2007年に初担任として3年生を持った時、掃除に時間がかかるので、同じように曲を流してみました。「3曲かけるから、その間に掃除して」。EXILEとかノリのいい曲を流して、3曲で計10分くらい。その時はダンスはさせてません。その時間で掃除が終わるようになると、「そろそろ飽きたから曲変えるわ」と、しれっと言って、だんだんアイドル系の曲を入れていきました。なぜって1曲が短いから。子どもが知らないうちに、こっそりハードルを上げてるんです。
そんな感じで、以後しばらく、担任するクラスで掃除の時に曲をかけ続けました。
ボクはけっこう飽きっぽいところがあります。2011年に2年生の担任となり、掃除でSMAPの『世界に一つだけの花』を流した時、同じことやってはつまらないから、サビの〈そうさボクらは~〉で、みんなで踊ったら面白いんじゃね? と思ったんです。
で、「ここのところは掃除しちゃいけないことにする。踊るように!」と言った。「その代わり、先生も踊るから!」。この時はみんなで歌まで歌ってました。
♠踊りで「オン・オフ」を切り替える
これが「ダンシング掃除」誕生の瞬間です。傍からは、ふざけているように見えたかもしれませんが、掃除を途中で放り出して踊る「強制ルール」は、子どもの中の「オン・オフ」スイッチを鍛える効果があるとボクは思っています。あえて「おあずけ状態」を作ることで、気持ちのすばやい切り替えを意識させる。それによって行動に緩急がつき、集中力が途切れないようになります。
だから、決してふざけているわけじゃないんです。......いや、ボクも楽しいし、子どもも楽しいからやったというのが本当ですが。
その翌年と翌々年、5、6年生を担任した2年間はダンスはやらなかった。2年生だからあんなことができたけど、さすがに高学年では無理だろうと思っていました。
それが、ひょんなことから復活したのが昨年の春です。
今担任している6年1組は、昨年の5年1組の持ち上がりですが、うちの学校は各学年が3クラスのため、3分の1がその時の2年生なんです。つまり、「初代ダンシング掃除」の経験者が、奇しくもまたボクのクラスに戻ってきたわけです。
なので、昨年春、5年生クラスが始まる時、掃除の時に面白半分で『世界で一つだけの花』を流してみたら、けっこう踊りを覚えてる子が多い。「お、まだできるじゃん」
さあ、ここからが新たな〝伝説〟の始まりです。
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。