沼田 晶弘
第3回 踊る教室(3)
♣「ももクロ」でハジけた子どもたち
ボクは今の6年1組を「世界一のクラス」だと思っていますが、昨年、彼らが5年1組だった時は、物足りないところもあった。みんなすごい能力があるのに、どうもいまひとつハジけていない。他人を気にしたり恥ずかしがったりする気持ちが強すぎる。何とかしてこの殻を破りたいと思っていました。
そんな時、たまたま何かのテレビで見たのが「ももいろクローバーZ」。実はその時はあまりよく知らず、一部に熱狂的人気があるアイドル集団、くらいの知識でした。でも、コンサート映像を見た時、「すっげぇな!」と思ったんですよ。これだけ歌いながら激しく踊るとは、なかなかできることじゃない。これだ、あの子たちにコレをやらせよう!と思った。
ももクロならあの子たちもよく知ってるわけです。「掃除でかける次の曲はこれだ、やるか?」と、『行くぜっ!怪盗少女』をパソコン映像でガンガン見せて練習させました。そして、9月の2学期から「新ダンシング掃除」がスタートしたんです。1学期は『世界に一つだけの花』だったから、その落差もすごかった。
結果的に、これであの子たちはハジけました。
♥「ナニコレ珍百景」にも登録
今年7月、テレビ朝日系のバラエティ「ナニコレ珍百景」に出ることになったのは、半ば偶然です。うちのクラスに来た教育実習生が、ももクロ掃除を見て仰天し、「これ、珍だよ! テレビに絶対出られるよ」と子どもたちに言ったそうです。
あの子たちはしかし、毎日普通にやってるものだから「はぁ?何言ってんの」という反応だったとか。その後、「ナニコレ」の番組資料を調べてエントリーしたのは子どもたちで、ボクはiPadで応募用の撮影はしたけど、ほとんど何もしてません。すぐにテレビ朝日のクルーが撮影に来ました。撮影は撮り直しなしの一発OKで、スタッフも感心してました。7月15日に放送された「ナニコレ」では、「MV珍」は逃しましたが、きちんと「珍定登録」されました。
♠本当に見てほしいのは「掃除」の部分
でも、ダンシング掃除の「神髄」は、本当は踊りじゃない。そこは声を大にして言っておきたい。
あの子たちの掃除には、ほうき係とかぞうきん係とかの固定された役割がありません。あえて作らない。係を作ると、自分の仕事を終えた後は待ち時間になりがちです。それがムダだとわかっているんです。
その代わり、子どもたちは常に掃除の全体を俯瞰し、状況に応じて機敏に役割を変えているはずです。「はずです」というのは、ボクはその間、机で彼らとの交換日記ノートをせっせと書いているので、見てないし、何も指示を出していません。全部あの子たちの判断でやっているんです。
例えば、ひとりがみんなのぞうきんを受け取って、洗濯機みたいにまとめて洗う。流し場の蛇口の数は限られているので、みんなが別々に洗うより効率的だからです。ほうきをロッカーに片付ける時は、教室の外でひとりがまとめて回収する。そういった工夫を独自に編み出している。机の移動、ほうき、ぞうきんと、38人の動きが回転扉のようにかみ合って、「秩序」が生まれている。クラス全体がチームとして動いているんです。
ボクがやったのはただ一つ、「曲が終わるまでに掃除を終えて」という目標を子どもたちに与えた、それだけです。
♦ファン(=保護者)サービスも忘れない
ももクロ以外にも、嵐の『GUTS!』、三代目J Soul Brothersの『R.Y.U.S.E.I.』などをレパートリーとして定期的にやってきましたが、最近の新曲は、『アンパンマンのマーチ』と『夢をかなえてドラえもん』。すごくないですか? ダンシング掃除の進化は止まらない!
また驚いたことに、あの子たちは最初から一発で踊ってみせるので、「なんで?この歌ダンスなんてないでしょ?」と思いましたが、ももクロや嵐の振りを即興でアレンジしていたんですね。
10月31日に、世田谷小の学習発表会「藤の実フェスタ」があったんですが、午前中に一度、保護者のみなさんの前でダンシング掃除を披露したんです。二度目をお昼にやろうとしたら、お母さんたちから「掃除はいいから、ダンスだけ見せてよ!」とリクエストがかかった。いや、一応ダンシング「掃除」ですから......と言ったんですが、子どもたちに「どうする?」と聞いたら「いいじゃんそれで」。まあ、テレビで有名になったし、見たい人もいるだろうなあと。
で、やりましたよ。フェスタの締めに、期待に応えて、レパートリーのダンス部分だけを全部メドレーで。保護者のみなさんはカメラやビデオを構えて、もう完全にアイドルのコンサート状態。
ファンサービスも当たり前。そう、ここは世界一のクラスですから!
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。