沼田 晶弘
第4回 100輪の花(1)
♣花とりどりの「殿堂」
ボクらの教室は、外の人がぱっと見てもわからないヘンなもので満ち溢れています。
例えば、背後の壁にずらっと並んでいる、色とりどりの「紙の花」。いま60個くらいでしょうか。日々増え続けています。
この花は、子どもたちが「プロジェクト」を達成すると、原則としてひとつ増えます。花がつけられている台紙に、プロジェクトの名称と、 参加したメンバーの名前、達成のひと言コメントが書かれています。 この壁は「The Hall of Fame」、つまり「殿堂」と、クラス内で呼ばれています。
教室の入り口の扉 には、現在進行中のプロジェクトが束になって貼られています。ちょっと読んでみます。
AOK IKK YST TSC GSC HOC ......
わけわかりませんね。怪しい暗号みたいです。解読してみましょう。
AOK=新しいおにぎり開発。家庭用ラップの会社が「気持ちを伝えるおにぎりコンテスト」を開催していて、それに応募するためのプロジェクト。
IKK=日本漢字能力検定協会の「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」に応募するプロジェクト。コンテストならKじゃなくCだろう! と一応ボクも突っ込んでいますが、間違えても気にしません、うちのクラスは。
YST=これは「読売写真大賞」に応募するプロジェクトですね。
TSC=図書館振興財団主催の「図書館を使った調べる学習コンクール」への応募。
GSC=朝日小学生新聞の「学校新聞コンクール」への応募。
HOC=市進教育グループ主催の「小学生俳句王選手権」への応募。
♥タンニンは郵便局に運ぶだけ
今、30くらいのプロジェクトが同時進行しているらしい。実は、ボクもすべてを把握できていません。
何しろ、NKS=「夏のコンテストを探す」(だからCなんだけど......まあいいか )プロジェクトのメンバーが夏休みの間に公募コンテストを探してリストアップ、クラスの中でコンテストごとにプロジェクトが立ち上がり、集めた作品をCDK=「コンテスト出したかどうか確認」プロジェクトのメンバーが、応募先別に封筒に入れてるんです。子どもの間だけで仕事がシステマチックに完結しています。
ボクは、そのデカい封筒をまとめて渡されて、せっせと郵便局に運んでいるだけ。「ダンシング掃除」と同じで、またしても何もしないタンニンです。
♠ひとりの栄誉はクラスの栄誉
驚くべきは、こうしたコンテストで、この子たちが次々と結果をゲットしていることです。
最近では、文具会社が新商品のアイデアを募る「100年文具への道コンテスト」で3人入賞。清涼飲料自販機協議会の「清涼飲料自販機アイデアコンテスト」で作文の部最優秀賞1人、デザインの部優秀賞1人、佳作1人。法人会女性部会主催の「税についての絵はがきコンクール」(東京局)で金賞1人、優秀賞3人。全国学習塾協会の「全国読書作文コンクール」で入選1人。
毎週のようにクラスに吉報が舞い込んできます。そのたびに、受賞した子がハイタッチ攻めにあったり(ちなみにハイタッチはこのクラスの「文化」です)、プロジェクトと関係ない子たちが抱き合って喜んだり、もう大変な騒ぎ。ひとりの栄誉はクラスの栄誉。その戦果が「殿堂」に咲き乱れる花々です。
実は、「ナニコレ珍百景」への応募も、こうしたプロジェクトのひとつでした。結果は先週書いたとおりです。大きな、名誉あるプロジェクトの達成については、ひとつでなく四隅に花がついています。これは達成者に対するクラスメートからのお祝いでもあります。
子どもたちとボクの目標は、卒業までにこの花を100輪にすることです。
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。