沼田 晶弘
第13回 アナザーゴール(2)
♣小学生にパワーポイントを教える
「勝手に観光大使」とは、子どもたちが「勝手に」各都道府県の観光大使に就任し、その良さを「勝手に」アピールする、というものです。
ボクがそれを提案した時、最初子どもたちは「え~、勝手にやっていいの~?」「観光大使?そんなのムリ」とかいろいろ文句を言いました。でもボクがめげずに、「いいんだよ、勝手なんだから!」と言い張ると、だんだん「そうか、勝手だからね......」と納得し始めます。よしキター!
この機を逃さず、まずは子どもたちに好きな都道府県を選ばせました。おじいちゃんがいるとか、よく旅行するとか、一度行ってみたいからとか、理由はそれぞれです。
「おーし、今からコンピュータールームに行こう。パワポでプレゼン資料を作るぞ!」
コンピュータールームとは、パソコンが複数台使える教室です。ここで深く考えるヒマを与えないのが大事。一晩たつと「やばっ、勉強やらされそうになってる!」と気づかれてしまいますので。
パワーポイントはご存知ですよね。パソコンを使ってスクリーンに資料を投影するアレ、会社の会議で使ったり、顧客にプレゼンしたり、大学の先生が講義に使ったりするアレです。さすがに小学生は普通使いません。というか、使う「機会」をなかなか与えられません。
「大人が使ってるのと同じだ!」というのが肝心。ここで、彼らのやる気がまたぐぐっと上がります。
♥「ネットは危ないからダメ」でいいの?
今の6年生のクラスには、パワポが得意な子が他の子に伝授する「パワポティーチャー」までいる |
前回書いたように、子どもはパソコンを使うのが大好きです。しかも飲み込みが早い。初めてのソフトでも、すべてのコマンド、あらゆるボタンをどんどん試していきます。この辺の恐れ知らず、好奇心の強さは大人の比ではありません。
子どもにインターネットを使わせるのは危ないんじゃないか、という意見があります。しかし、インターネットはとにかく情報収集が早い。プレゼン資料を作るためにはネット検索が欠かせません。危ないから使わせないという選択をボクはしたくなかった。
だから、検索をやらせる前に40分かけて「ワンクリック詐欺」のことを教えました。「こういうボタンが出てきたら押しちゃダメだ!」と。危ないからと禁止するのではなく、何が危ないかをきちんと教えた上でやらせる。そうすることで学びの効果がひとつ上がると思うんです。
時にパソコンの動作がおかしくなることもありますが、「これだけは覚えろ!」と教えた必殺ワザは、「パソコンから手を離して深呼吸!それから『戻る』ボタンを押せ! 戻った後は必ずセーブ!」。これさえできれば、パソコンはさほど怖くありません。
♠大人へのプレゼン大成功、さらなるステージに挑戦
勝手に観光大使としてのプレゼン勝負の場は、例の学習発表会「藤の実フェスタ」でした。
「来場する保護者の皆さんにプレゼンして、どこに一番行きたくなったかコンテスト!」
これは大人には大うけでした。各県の観光地、特産物、方言に至るまで、子どもたちが写真をふんだんに使って紹介するものだから、その地方出身のお父さんやお母さんはとくに大喜びで懐かしがっていました。
本来の教科書的ゴールは、「日本を学ぼう」「表現力をつけよう」の2点です。でもボクは、その最終ゴールを子どもたちに示しませんでした。代わりに与えたのが、「勝手に観光大使」「ネットとパワポで資料作り」「大人にプレゼンしてコンテスト」という別々のゴールです。
さて、子どもたちがこれだけ力の入ったプレゼン資料を作ったんだから、もっと面白いことができるんじゃないか。ボクは欲張りなので、これを利用して、もっと「書く力」を学べるような方法はないか?と考えました。
「おーし、これ、全部の知事に送るぞー!」
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。