進路室は海[19]豚汁という魔法

[19]豚汁という魔法

 

「豚汁って、いつ、誰が発明したんだろうね」

「もしかしたら、発明したの、『トン・ジルーさん』なんじゃね?」

 笑いながら、できたての豚汁を味わう3年生たち。さっきまで試験に集中していたぶん、豚汁のあたたかさに気負いも緊張も、ふにゃふにゃと解けていく。

 例年、冬休みの初日と2日目は「センター・プレ」を行う。3年生の希望者が集まって、センター試験の練習会をするのだ。予備校などが販売している「センター予想問題集」を用意し、実際のセンター試験とほぼ同じ時程で問題に取り組む。

 去年も一昨年も、先生方と保護者の方々とで、初日は豚汁を、2日目はお汁粉をつくった。午前中のテストが終了したら、食堂であたたかい汁ものをふるまうのだ。進路主任のクララ先生のアイデアで、とにかく受験生たちをあたたかく励まそうという催しなのである。

 毎年、材料費は校長先生が寄付してくださる。豚汁に入れる大量の野菜は、イシムロ先生のお父様の農園からいただいた。ウブカタ先生の家庭菜園からもおいしい材料をいただいた。みなさま、本当にありがとうございます。

 

 

煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火

井上法子『永遠でないほうの火』

 

 毎年、俺は朝早く調理室に行き、巨大な寸胴鍋でお湯を沸かす係だ。冬休みに入ったばかりの朝、校内はしんと静かで、ガスの火を見ているうちにだんだんあたたかい気持ちになってくる。

 学校では、本当にいろいろなことがある。悪人は一人もいないし、みんなそれぞれに頑張っているのだが、どうしてもうまくいかなかったり、辛いことがあったりする。でも、せっかく出会った同士、みんなでなんとか乗り越えていきたい。この鍋の中身のように、みんなが集まって、それぞれの味を出し合って、とてもいいものになっていけたら、どんなにいいだろう。

 今年のセンター・プレは12月26日、27日に行われる。豚汁もお汁粉も、美味しくできますように。

 

 

鉄棒の影はゆがんで今(「今」と意識した今)から冬休み

千葉聡『そこにある光と傷と忘れもの』

 

千葉 聡 @CHIBASATO

1968年生まれ。横浜市立桜丘高校教諭。歌人。第41回短歌研究新人賞を受賞。生徒たちから「ちばさと」と呼ばれている。著書に『短歌は最強アイテム』『90秒の別世界』など。「短歌研究ジュニア」の編集長も務めています。

この間、大学時代の友だちから「ヨミキョウ、いつも読んでいるよ」と言われ、このページの略称を知りました。みなさん、今年もご愛読をいただき、ありがとうございました。どうかよいお年を。ちばさとは、来年もさらに頑張ります。

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(2019年12月23日 15:30)
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