ぬまっち先生コラム19 真ん中にIがある(4)

昨年末の音楽発表会で6-1は「スウィングしなけりゃ意味ないね」を演奏。ソロパートでは「矢印」が出て、誰が弾いているか客席から一目瞭然!(2015年12月11日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第19回 真ん中にIがある(4)


 

♣ぶっちゃけタイムは「自浄機能」

 「ぶっちゃけタイム」を、全国どこのクラスでもやるのは、正直難しいだろうと思います。やった結果、クラスの雰囲気がもっと悪くなることだってありえます。クラス内の子どもたち同士の信頼感が高いことが大きな前提になるからです。

 ボクたちのクラスでも、「ぶっちゃけタイム」で友だち間のドロドロが吹き出してくることがあります。オマエが気に食わないとか、アイツの態度を何とかしてとか、まあいろんなことがぶっちゃけられます。

 その場で言い合いになっても、ボクは笑顔で見守ります。言いたいだけ言わせておきます。感情的な悪口とか、焦点がズレたら問題を整理しますが、制限時間が来たら「ぶっちゃけ終了!」です。

 思っていることを全部吐き出したからって、仲の悪い二人が仲直りしたり、何かが根本的に解決したりするとは、ボクは思っていません。

 しかし、こうした問題は生ゴミと一緒で、さっさと処理すればたいしたことないのに、ほったらかして時間が経つと、どんどん臭ってくるものです。子ども同士、育ってきた環境がみな違うから、お互いイラッとすることはあるでしょう。しかしそこはボタンの掛け違えで、早め早めにガス抜きすることで収まることが多いんです。

 また、「ぶっちゃけタイム」の大事な効能は、「みんなの前できちんと謝るチャンス」を演出できる場でもあるということです。このクラスならではの、オートマチックな「自浄機能」だと言えます。

 

♥「仲良し」よりも大事なこと

 ボクは子どもたちに「仲良くしなさい」とは言いません。なぜかというと、大人の社会のことを振り返ってしまうからです。

 みなさんの会社のいろいろな職場で、「みんな仲良し」と言い切れる人がどれだけいますか? 何となく反りが合わない、虫が好かない同僚は、むしろ普通にいるのではないでしょうか。それでも、大きな問題もなく毎日仕事ができているのは、お互い適度な距離を保っているからだと思います。

 子どもの世界だって、大人と変わるところはありません。

 その代わりボクが言っているのは、「必要以上に相手を攻撃しないでね」ということです。相手にムカついたからって、いちいちバチバチやってる時間もヒマも、君たちにないだろうと。

 クラスはひとつのチームなんです。試合ではチームワークを発揮して、一生懸命いいプレーをして、試合が終わったらバラバラにほどけて、気の合う相手と帰ればいいのです。

 つい最近、解散騒動で大揺れした国民的アイドルグループは、プライベートではお互いちょっと距離があるのかもしれませんね。それでも、彼らは最高のグループで、最高のパフォーマンスをしていることに変わりない。教室だって、それでいいんじゃないかと思います。

 でもきっと、傍から見ると、ボクたちのクラスは「みんな仲が良いねえ」と感心されることでしょう。それも間違っていないのです。たとえプライベートで仲良くなくても、仕事はチームワーク抜群。これだと仲良しに見えてくるものなんです。

 大人の組織や団体についても、同じことが言えるのではないでしょうか。

 そういう学びを与えるのも、学校という場ではないかと思います。

 

♠クラスの真ん中にあるもの

 ボクは、これまで担当してきたクラスに、それぞれ毎年「言葉」をプレゼントしてきました。クラスのキャッチフレーズ、目標のような言葉です。

 「BE COOL」「BRAVE」「ATTRACTION」といった横文字ですが、現在の6年1組に贈っている言葉は「BRIGHT」。ひとりひとりが輝けるようにという意味です。

 38人を5班に分けて、それぞれB、R、G、H、Tというチーム名がついています。

 あれ、Iがないのはなぜ?

クラスの言葉「BRIGHT」。5チームがそれぞれ記念撮影

 ちょっと説明が長くなります。今のクラスが5年生の時、世田谷小の音楽発表会で、「シング・シング・シング」というスウィング・ジャズの名曲を演奏したことがありました。(ジャズをレパートリーにするのは、ボクたちのクラスの名物です。)かなりの難曲で、「Iパート」のメロディが特に難しかったため、「I(アイ)が足りない」「Iがなくちゃダメだね」というフレーズがクラスで流行ったのです。

 ボクはそれにヒントを得て、子どもたちが6年生になった時、「BRIGHT」という言葉を贈りました。チームIはないんだけど、クラスの真ん中にIがある。

 Iは「自分」ということでもあります。まず、真ん中に自分というものを置こう。自分を大事にしよう。相手を楽しませるだけじゃダメ。自分も、相手も、楽しめることをやらなきゃ!

 そして、真ん中に愛があれば、何だって怖いものはありません。

 そう、ここは、世界"I"のクラスですから!


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。初の一般向け著書『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)が発売中。『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が3月24日に刊行予定。

 

(2016年3月14日 10:00)
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