ぬまっち先生コラム20 シュートをねらえ!(1)

ボールを持って走れるが、タッチされたら止まらねばならない「タッチバスケットボール」(世田谷小体育館で)

沼田 晶弘


第20回 シュートをねらえ!(1)


 

♣6-1にバスケリーグ誕生!

 ボクたちのクラスで2月はじめから、プロジェクトBLA=バスケットリーグアソシエーションというのが立ち上がりました。クラスを6つのチームに分け、体育の時間を使って熾烈なペナントレースをやっているのです。

 さっそく「BLA新聞」というスポーツ壁新聞まで発行され、6チームの戦績と順位が詳報されています。チーム別得点力ランキング、守備力ランキング、戦力分析まで解説されています。こういう盛り上がり方が、まったくこのクラスらしいところ。

 ところで、ボクたちがやっているバスケは、普通とちょっとルールが違います。

 「タッチバスケットボール」と呼んでいます。

 

♥「タッチハンドボール」がヒントに

 今年1月、世田谷小の校内研究授業で、体育の久保賢太郎先生が「タッチハンドボール」というのを考案、発表されました。

 「タッチハンドボール」は、技術の差が出やすいドリブルを省いたのが最大の特徴で、子どもはボールを持ったまま走れます。ただし、相手プレーヤーに体をタッチされたら、その場で立ち止まって、パスかシュートをしなければなりません。

 小学校学習指導要領で、高学年の体育は「活動を工夫して運動の楽しさや喜びを味わうことができるように」等の目標が定められています。より具体的な種目、例えば「ゴール型のボール運動」では、「簡易化されたゲームで、ボール操作やボールを受けるための動きによって、攻防をすること」となっています。久保先生はハンドボールのルールをうまく簡易化したわけで、ボクも「面白いなあ」と感心して見ていました。

 

さっそく発行されたスポーツ壁新聞。社説まであります。

♠子どものひと言で新ルールひらめく

 ボクはアメリカの大学でスポーツ経営学を勉強したこともあり、体育の授業をするのが大好きです。「ダンシング掃除」のルーツが、教育実習生時代の体育だったことは、以前このコラムでも書きましたよね。

 なので、久保先生の「タッチハンド」を見た時、感心しつつも、もうちょっと何か手を加えたくなりました。ドリブルがなくなったとはいえ、ボールゲームが苦手な子は、その場で立ち止まって待つことが多く、パスをもらうために動き回ることができません。

 その結果、なかなかパスが回ってこない。シュートチャンスも来ない。やっぱり上手な子がバンバン決めるのは同じ。そのあたり、何とかならないかなと思いました。

 久保先生のアイデアを使わせてもらって、ハンドボールをバスケットボールに替えて、タッチバスケットボールにしてみました。基本ルールは同じで、ゴールがハンドボールからバスケットボールのそれに変わっただけです。

 その練習ゲームをしていた時、たまたま近くにいた運動が得意な女の子に、「何か面白くならないかな、どうしたらいいと思う?」と聞いてみました。

 彼女はちょっと考えて、「シュートを決めたら選手交代ってことにしたらいいんじゃない?」。しかし、バスケ部の自分にとって不利なルールと気づいたのか、「あー! 今のナシナシ!」とあわてて手を振りました。

 ボクはその言葉にひらめいてしまいました。ボールゲームが苦手な子がパスを受け、シュートを決める姿が、その光景が、頭の中で見えたんです。

 

♦6-1式タッチバスケ完成!

 試行錯誤の末、いちおう固まった「6-1式タッチバスケ」のルールは以下の通りです。

(1)1チーム6、7人。試合に出るのは4人。

(2)試合時間4分。

(3)ドリブルなし。ボールを持って走れるが、相手選手にタッチされたらその場に留まり、パスかシュートをする。

(4)シュートで得点したらコート外メンバーと交代。メンバーは指名できず、順番を守る。

(5)シュート体勢に入ってからのタッチ、激しすぎるタッチはファール。

(6)2人が同時にボールをつかんだらジャンケンで決める。

 体育館ではコートが2面取れるので、その時試合のない2チームが審判を務めるようにしました。一試合4分なので、準備体操や交代時間を入れて、各チームが1時限で4、5試合できる計算です。

 そうそう、もう一つ大事なルールを忘れていました。

(7)連続して試合する場合、次の試合は前の試合終了時にコート外にいたメンバーを優先的にスタメンとする。

 

♣「ドラフト方式」で6チーム編成

 最初はボールに慣れさせるため、ひたすらランニングシュートの練習。それからチームリーダーを6人決め、「ドラフト方式」でチームを作りました。つまり、欲しいメンバーをリーダーが一人ずつ指名していったのです。

 「みんなの目の前でやったらイヤでしょ」と、リーダー6人はさっさと別室に行って指名作業を行いました。こういうちょっとした気遣いが、このクラスはよく育ってるなあ、と感心するところです。

 結果、6人チームが4つ、7人チームが2つできました。「ベアーズ」「ゆめぴりか」「ゴリランド」「クイーン」「モッツァレラ」「ナンシー友の会」の6チーム。男女比もほぼ半数ずつになりました。

 「体育の授業でドラフト方式なんて!」と驚く方、「チーム戦力に差がつきすぎるのでは?」と心配する方もいると思います。

 さあ、実際のペナントレースはどうなったでしょうか?


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。初の一般向け著書『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)が発売中。『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が3月24日に刊行予定。

 

(2016年3月21日 10:00)
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