ぬまっち先生コラム18 真ん中にIがある(3)

ボクたちの明日はどこまでも明るいぞ!(世田谷小の校庭で)

沼田 晶弘


第18回 真ん中にIがある(3)


 

♣先生だって間違える

 先生だって人間、完璧ではありません。間違えるし、ミスをすることもあります。

 ボクは授業の板書で時々漢字を書き間違え、子どもにツッコまれます。いつかは、豊臣秀吉の「太閤」を、「太閣」と書き間違えたことがありました。

 「ぬまっち、コウの字が違うよ! 門構えの中は各じゃなくて合!」

 「おー、よく気づいたな! 誰か気づくかなと思って、ワザとテストしてみたんだよ!」

 ボクは、外でやる授業などでは、まずこんな笑いの取り方はしません。このクラスだけです。ボクがふだん絶対言わないギャグをあえてニヤケ顔で言えるようになったのも、このクラスで「あー、間違えた-、ごめんごめん」っていうのを繰り返したからです。

 間違えない方がいいのはもちろんですが、間違ったら直せばいい。むしろ子どもにツッコんでもらえるような教室の空気作りが大事だと思うんです。

 ボクは、野球で言えば先生は「監督」なので、選手みたいにバッターボックスに立ってバットを振る必要はないと思っています。現役時代すばらしかった打者が、必ずしもいい監督になれるとは限らない。なのに、なぜか日本の球界では、スター選手が監督になりやすいところがありますよね。前巨人軍監督の原辰徳さんみたいに、スター選手で監督としても実績を挙げた人もいますが、監督は選手のように、ボールを打つために素振りしたり筋トレしたりする必要はない。監督は監督というプロフェッショナルであるべきです。

 先生も同じで、「勉強ができる人」「難しい問題が解ける人」だけが条件じゃないんです。もしボクが偏差値トップの秀才だったとしても、それはそれ。先生の能力は違うと思うのです。「先生は子どもの前で間違えちゃダメ」という思い込みが、現場の先生たちを窮屈にしているところはないでしょうか?

 

♥本音出し合う「ぶっちゃけタイム」

 ボクたちのクラスには「ぶっちゃけタイム」という「特別な時間」があります。

 「ぶっちゃけタイム」とは、子ども同士、あるいは子どもがボクに対して、腹の底から本音や不満をぶつけ合う時間です。その間は、廊下側のカーテンを閉め切り、外から見えないようにします。ボクたち以外、誰も立ち入れません。言いたいことを言い合うけれど、この場限り、終わったら全部忘れるというのがルールです。

 昨年の秋ごろ、プロジェクトのAKS=新しい曲探すチームが、新しいダンシング掃除に使う楽曲をクラス投票で決めたことがありました。ボクはたまたまその場にいなかったのですが、サビの部分が簡単すぎてチャレンジングでないと感じたので、「ダメだよ、こんなの!」と、その決定をひっくり返しました。

 その翌日、数人の子どもたちが日記にこう書いてきました。

 「ぬまっち、昨日のあれはないよ。いくら先生でも、ひっくり返すなら投票の前にやるのがルールじゃないの?」

 実は、この件についてはボクも後悔していました。前の晩は悶々として眠れないくらいでした。

 「今日、ぶっちゃけタイムをやりたい」。ボクは子どもたちに申し出ました。

 

♠子どもたちに頭を下げる

 「ぶっちゃけタイム」で、ボクは子どもたちに頭を下げました。

 「ごめんなさい。あれは失敗だった。ひっくり返すタイミングが違ったなぁと思う」

 そうだよ、アレはひどかったよ! とひとしきり文句を言われましたが、最後には子どもたちに「まあ、オレたちも言いすぎたよ」と慰められました。

 「久しぶりのぶっちゃけタイムだから、もっとぶっちゃけようよ」とボク。「言いたいことを言っていいよ。例えば最近、マスコミとかの取材が多くてどう? 何か不都合とかある?」

 「それは結構うれしい。けど......」と子どもたち。「オレたちのクラスがマスコミで紹介されるのは、ぬまっちが有名だからと思われるのがイヤだ」

 ハッとしました。そんなことを感じていたのか。確かにボクは、他の先生に比べて小学校の外での活動が多い。テレビやネットでの露出も増えてきました。「沼田先生のクラスだから、マスコミで取り上げられやすいんでしょ」という周囲の目が、子どもたちのプライドを傷つけていることに、今さらながら気がついたのです。

 そのことはゼロとは言いません。ボクを取材に来たクルーが、教室の授業風景を撮っていくことは確かにあるからです。しかし例えば、『ナニコレ珍百景』はボクと関係なく、子どもたちの力だけで出演を勝ち取ったものです。そして、ボクのところにマスコミが取材に来る最大の理由は、何より子どもたちが頑張っているから、いろいろなことを達成しているからです。

 「わかった」とボクは言いました。「みんなをそういう気持ちにさせたのは、ボクも悪かった。これからは取材でちゃんと言うよ。みんながすごいから、沼田はこうして君たちのタンニンでいられるんだとね」


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。初の一般向け著書『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)が発売中。『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が3月24日に刊行予定。

 

(2016年3月 7日 10:00)
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