ぬまっち先生コラム22 シュートをねらえ!(3)

タッチバスケでは、運動の苦手な子も活躍できる(世田谷小体育館で)

沼田 晶弘


第22回 シュートをねらえ!(3)


 

♣運動会リレーに勝つ方法

 ボクがこれまでいろいろな機会に話したり、書いたりしてきたことに、「運動会のリレーに勝つための理論」があります。

 クラス全員参加のリレーでは、足の速い子も遅い子もいます。どんな順番で走らせるのがベストなのか。足の速い子の間に遅い子を入れる「サンドイッチ作戦」は、よく見る光景ですね。リードをあまり広げられないように取る戦略でしょうが、ボクは、学校体育としては懐疑的です。

 先頭を切って走ってきた速い子に、バトンを手渡された遅い子の気持ちを考えてください。めちゃめちゃプレッシャーがかかります。せっかくのリードを守れなかったらどうしよう? それだけで体はガチガチ。走るのは苦手だから、やっぱり抜かれます。味方や親たちの「あ~あ」というため息が(実際はなくても)聞こえるような気がします。その子は罪悪感のかたまりになって、「もう二度と走りたくない!」と思うかもしれません。

 こうなってしまっては、残念ですよね。運動してもらうために体育をやっているのに......。

 

♥「足の遅い子から並べる」作戦

 ボクは2009年に3年生の担任だった時、「足の遅い子から順番に並べる」という戦法を取りました。クラスで一番足の遅い子が先頭走者になるのです。

 この方法だと、最初はビリになるかもしれないけれど、少なくともその子は、抜かれる屈辱を味わうことはありません。前を見て、差を詰めることだけに集中できます。

 そのオーダーで練習させると、面白いことが起こります。

 足の遅い子は、休み時間に好んで外遊びしない、運動が苦手な子が多いのです。そんな子がちょっと練習すると、割と簡単にタイムが縮まります。

 もちろん、ふだん運動していないから、いきなり俊足になることはありませんが、もともと運動好きで足の速い子がタイムを1秒縮めるのと、これまで運動しなかったがゆえに足の遅い子が1秒縮めるのと、どちらが簡単でしょうか。ちょっと考えればわかりますよね?

 そして、ここが一番大事ですが、足の遅い子がタイムを1秒縮めることは、チーム全体のタイムが1秒縮まることと同じです。

 この作戦がクラスで共有できると、足の遅い子は一生懸命練習を始めます。自分のタイムが縮まれば、間違いなくチームに貢献していることが実感できるからです。責任感も生まれてきます。

 足の速いクラスメートも、その子のがんばりを応援するようになります。もう、足が遅いから第一走者なんかじゃない。なくてはならない重要な戦力であり、リレーの仲間です。

 この作戦だと、最初は大きくリードを広げられるかもしれませんが、走者が替わるたびにスピードが上がるので、先頭との差は必ずじわじわ縮まっていきます。足の遅い子だって、がんばれば仲間のハイタッチ攻めにあう。全員一丸となってヒートアップする「追い込み型」のチームになります。

 実際、このようにオーダーを組み、練習した3年生チームは、運動会リレーで優勝しました。

 これこそ、『マネーボール』のビーンが目指し、ボクも目指している「チームの総合力で勝負」ということなのです。

 まあ、小学校ではさすがにトレードはないので、ボクの場合、あくまで現有戦力で戦うわけですが。

 

第2シーズンでリーグ優勝を果たした「ラブリーハハーン」(3月14日)

♠すべての子が輝ける体育を目指して

 さあ、ここでやっとつながりました。

 「6-1式タッチバスケ」とは、このリレー理論をボールゲームに応用したものだと言えます。大事なのは、個人の突出した能力じゃなくて「チーム全体の力」。運動の苦手な子でも、練習すればチームを引っ張る「得点王」になれるルールなんです。

 学校体育として考えた場合、タッチバスケにはまだまだ改良の余地があります。交代ルールゆえ、ポイントゲッターがシュート要員に特化しすぎるケースが出て、「得点王」なのに汗ひとつかかない、運動量が不均衡じゃないかという批判もありえるでしょう。その通りだと思います。

 でも、小学校体育の目的は、少なくとも運動嫌いを増やすことではないとボクは思います。運動ができる子もできない子も、同じように輝けて、ゲームとして面白くて、しっかり体作りもできている。そんな理想の体育を、ボクはこれからも、子どもたちと考えていきたいと思っています。

 そうそう、子どもの日記のコメントにこんなのがありました。

 「なんか休み時間にバスケの練習に行っちゃう自分が信じられない!」

 

♦まさかの第2シーズン突入!

 プロジェクトBLAのペナントレースは2月末、当初5位で低迷していたチーム「クイーン」が大混戦からぐんぐん抜け出して優勝。すっかり熱くなった子どもたちは、「第2シーズンをやりたい!」とボクに詰め寄ってきました。

 いや、君たちもうすぐ卒業だし、授業時間があまり残ってないんだけど......。

 と、のど元まで出かかりましたが、この熱気に水を差すのは、ボクのタンニン魂が許しません。何とか時間を工面して、チームをまたドラフトで組み替えて、BLAの第2シーズンが始まりました。

 驚いたことに、第1シーズンで有効だった「ゴール下にシュート要員」のセオリーを、緻密な連携プレーで封じるチームが現れ、ボクも舌を巻きました。各チームの戦略はますます高度化しているし、得点王ランキングもどんどん入れ替わってるし、タッチバスケ自体がスポーツとして進化している!

 もう行けるところまで行け。シュートをねらえ!

 ここは、世界一のクラスですから!


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。

 

(2016年4月 4日 10:00)
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