沼田 晶弘
第26回 世界一の卒業遠足(4)
♣協議会で質問攻め
公開授業が終わると子どもたちは下校。ゲストの先生や学生たちは居残り、協議会に移りました。協議会とは、今見学したばかりの授業の批評会です。授業をしたボクは、まな板の上の鯉のようなものです。
50人ほどが協議会に残ってくれました。誠にありがたいことに、北海道、岩手、山形、富山、京都、岡山からも、ボクの授業を見に来てくださった方々がいました。
協議会では、いろいろな質問を受けました。
Q 子どもたちの議論を聞いていると、何だかこのまま数で決めてしまうのはもったいない。最終的にはどう結論づけることになるのでしょうか。
ボク 実は、子どもたちが一番望んでいることは「長く一緒にいられること」なんです。帝国ホテルも、最初はランチだったのが、「ディナーの方がいい」と子どもたちが言い出したのは、「そのほうがみんなといられる時間が長いじゃん」という理由からです。だから、本当は「どこに行っても楽しい」と子どもたちは思っているんじゃないでしょうか。
最後は「多数決ジャンケン」になるかもしれません。単純な多数決って、生かされない意見が多いですよね。6対4で6が勝ったら、40%の意見はゼロになってしまう。とはいえ、10対0になるまで話し合いをやめないのはナンセンスです。
そこで、ボクたちのクラスで編み出されたのが多数決ジャンケン。6対4だとしたら、そこで勝ち抜き戦を行います。4人は不利だけれど、連勝すれば6人を打ち負かす可能性があります。これが発動したら、結果は絶対で、恨みっこなしです。
でも今日それを発動させなかったところを見ると、子どもたちにはまだまだ言い足りないことがあるのだと思います。
Q 子どもたちの様子を見て、よく話すなあと感心するとともに、よく人の話を聞いているなあとも思いました。「傾聴」は私のクラスでも指導していますが、その時はうまくいっても、なかなか長く定着しない。何かよい方法があるのでしょうか。
ボク 「人の話をよく聞きなさい」という指導は正しいと思います。それができるようになったら、そこで終わらず1歩先に行きたい。ボクは子どもたちに「人が聞きたくなるような話をしよう」と言っています。
みなさんが小学生の時、「あの先生の話、つまんないな」と思ったことはありませんか? ふと気がついたら自分がそうなっている時があるんですよね。こちらは一生懸命しゃべるんだけれど、相手にとっては大事でないのでつまらない。大学などで、自分の研究の話が楽しくなっちゃって、学生じゃなくて黒板に向かって話している先生もいますよね。
ボクはこの1年半、「話すなら、上手に話そう」と言い続けてきました。その成果は、今日のプレゼンとディベートに表れていたと思います。人の話を聞かないと、次の行動ができない。相手の反応を最大限考えるようになると、子どもたちはそう理解します。
さらに言うなら、今日の遠足のコース決めは、誰しもが聞きたくなる絶好のネタだった。子どもの興味を引きつけるリアルなネタ作りも重要です。
Q 子どもって時々調子に乗りすぎちゃって、授業と関係ないことをやり始めることがありますよね。そんな時、私はコラ! とつい叱ってしまうんですが、沼田先生でも怒ることがあるんでしょうか。
ボク ボクの想定から外れたことをやってくる子どもに対しては、むしろ「そう来たか!」とワクワクするので怒りません。ただ、誰かに対して失礼なことを言ったときはたしなめます。そのときのボクの目つきがめちゃめちゃコワいらしいです。
今日も、ぬまっちの恋愛運アップとか、悪い人がビビるとかいろいろイジられましたが、ネタに使ってくれてありがとう、という気持ちです。真ん中に愛を感じているので。
まあ、最初の一度はとりあえず笑って受け止め、二度三度しつこくやってきたら押さえますね。そこが許容範囲でしょうか。
♠チーム大再編、新宿は少数派に
翌週の2月1日月曜日、新宿チームのメンバーから「チームを移籍してもいいか」という提案が出ました。
「いいんじゃない、行きたいところへ行けば」
「どうせなら、今から移籍自由にしない?」
と、子どもたちの間で話がまとまり、4チーム間で大移動が始まりました。その結果、メンバーが横浜、お台場、川越の3つに集中し、当初19人と最大派閥だった新宿チームはわずか2人に。
傍から見ると「えっ?」というような展開かもしれませんが、これが平然とできるのがこのクラスの強み。強い信頼関係があるので、どんなことをしても全体のチームワークが崩れないんです。
ひとつ言い忘れたことがあります。このディベートで最初に結成されたチームは、「そこに行きたい!」という子ばかりではなかったということです。「行きたいところじゃないけれど、そこを調べてみたい」と、あえて別のチームに入った子もいました。
つまり、みんな、実は行き先はどこでもいい(笑)。ディベートを楽しみたい、決めるならちゃんと知ってから決めたい、ということなんですね。
♥「このクラスはどこでも楽しいから」
ファイナルディベートは2月9日に行われました。ここでも再び、お台場チームが中華街の混雑ぶりや治安について指摘し、横浜チームが反論してヒートアップ。
横浜チーム お台場は商業施設だから、お金を使わない人が楽しめない
お台場チーム 紹介したところはみんな無料。ガンダムだって無料!
横浜チーム ガンダムを喜ぶ世代なんてぬまっちだけ!
......などと、やや泥仕合になりかけたところ、
川越チーム みんなで楽しむのが目的で、買い物に行くわけじゃない。川越は街そのものの雰囲気が楽しい。商業施設じゃなく、もっと自然とか空気を楽しむことを考えようよ!
これには他チームからも拍手が出ました。
電車の混み具合を槍玉に挙げられていたのは新宿チームとお台場チームでしたが、
新宿チーム (写真を見せながら)乗車率180%ってこの程度。新聞がギリギリ読めるくらいだよ。オレたちならうまく動ける!
「根拠のある意見を言おう」「データを示して話そう」が今回のディベートの眼目だったわけですが、それはかなりのレベルで達成されたようです。
そして、最後の決め手になったのは―――。
横浜チーム この前のディベートの後、休日の午前中に横浜に行ってみたんだよ。電車はガラガラだった。みんなが心配するような混雑はないよ。平日の月曜日だもん。
これは見事な隠し玉。なにしろ実地踏査しているわけだから、誰も反論できない。ボクもうなりました。
この後、無記名投票を行い、38人中16票を集めた横浜が1位になり、遠足午前ルートは決定しました。
「ここまでディベートしたからもう満足」
「どこでもいいから行きたくなった」
「ゲーム感覚だから仕方ないけど、ちょっと相手を悪く言い過ぎた」
「みんなの意見を聞いて、知らなかったことを知ることができてワクワクしてきた」
という意見が口々に出て、ノーサイドになりました。
横浜中華街の関帝廟で。向かいには「金の餃子の神」があったはずなのだが......(2月29日) |
ちなみに、横浜を攻撃し続けたお台場チームのリーダーは、自分の票は川越に入れたあげく、「ま、どこでもいいんだよ。このクラスはどこでも楽しいから」と日記に書いてきました。彼女の本音だと思います。
♥後日談 中華街の衝撃
で、遠足当日。
横浜チームが中華街の目玉としてアピールしていた、関帝廟向かいの「金の餃子の神」(小龍包餃子の御代屋)ですが.........何と閉店している!
おーい、ボクの恋愛運はどうなるの?
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。