ぬまっち先生コラム27 世界一の卒業遠足(5)

舞台を終えたキングコング西野さんと記念撮影。教育に関心の高い西野さんは仮想学校イベント「サーカス!」の主催者で、その考えにはボクも共鳴しています(2月29日、新宿のルミネtheよしもとで)

沼田 晶弘


第27回 世界一の卒業遠足(5)


 

♣プレゼンはお笑いに学べ!

 この章の第1回で遠足のスケジュールを見た方は、ん? と思われたかもしれません。

 

  14:00●ルミネtheよしもとでお笑い鑑賞

 

 ルミネtheよしもとは、JR新宿駅南口の駅ビルの中にある、吉本興業の常設劇場です。吉本所属の芸人さんによる漫才やコントが連日休みなしで上演されており、お笑い好きなら一度は行ってみたい場所です。

 だからって、小学校の遠足でお笑い鑑賞......?

 ちょっと待ってください。ボクたちのクラスにとって、このルミネtheよしもとは、思い出の「学びの場所」だったんです。

 話は1年半ほど前に遡ります。

 子どもたちが5年生の秋に、「勝手に観光大使」というプロジェクトをやったことは、前に「アナザーゴール」の章でお話ししました。都道府県の観光大使となって、大人たちに地域の魅力をプレゼンしたあれです。

 それに先立って、「人前でプレゼンテーションするんだから、プロの技を盗みに行こう!」とボクは言いました。

 「話し方のプロといえば、お笑い芸人。芸人さんの話し方がなぜうまいのかを分析して、作文を書くように!」

 そして、れっきとした「総合学習の時間」として、ルミネtheよしもとに行きました。

 子どもたちは、お笑いを楽しむどころではなかったと思います。その時の出演者ですごいと思ったのは、宇治原史規さんと菅広文さんの「ロザン」でしたね。客席に大勢の子どもがいると見るや、

 「お前頭ええから何でもわかるやろ。じゃあ徳川家康の体積言うてみい!縦かける横かける高さは!」

 みたいなネタを飛ばしてくる。ちょうど体積を学習したばかりの子どもたちは大爆笑でした。

山下公園で「豚まんランチ」。これもNKI(肉まん買いにいく)というプロジェクトになっていました

 子どもたちも、お笑いを生で見て、「しゃべりのテンポが悪いとつまらなくなるな」とか、「しっかり前を見て話さなきゃ伝わらない」とか、学んでくれていました。それが「勝手に観光大使」のプレゼンの出来につながったと思います。

 その時子どもが書いた作文は、すべて吉本に差し上げました。

 

♠キンコン西野さんが作った「学校」

 お笑いといえば、ボクは昨年10月、大阪中央公会堂で、キングコングの西野亮廣さんが主催した「サーカス!」というイベントに出たことがあります。

 このイベントは、「学生時代、勉強が面白くなかった」という西野さんが、「勉強が面白くなかったのは、授業が面白くなかったからでは?」と気づいたことがきっかけだったそうです。

 「面白い先生ばっかり集めた学校があったら、勉強が面白くなる」

そう考えた西野さんは、自分が「校長」となり、芸人さんやその道のプロの人たちが「先生」となる仮想の学校を、連続イベント「サーカス!」として立ち上げます。それに声をかけていただいたというわけです。

 その時は、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんや、オリエンタルラジオの中田敦彦さん、予防医学研究者の石川喜樹さん、ファッションデザイナーのハヤカワ五味さんと、200人くらいの受講者に「授業」を行いました。

 漫才ではないので、芸人さんもお笑いネタでなく、何かについての「授業」をするんですよ。ボクはトーク術について講義しました。すごいと思ったのは中田さんで、「インド」を紹介する地理の授業だったんですが、これがめちゃくちゃ面白い。東京に帰って友だちに「負けたー!」と悔しがったら、「小学校の先生が、お笑い芸人と張り合ってどうするの?」と呆れられました。

 いや、張り合う気はないんですが、芸人さんの話し方やネタ構成は、教える仕事には絶対役に立つとボクは思っているんです。これから先生を志す若い人は、「しゃべりのプロ」の仕事を常に見ていたほうがいい。芸人さんだけでなく、政治家も参考になりますよ。演説のうまい政治家は、やっぱり説得力ありますから。

 

日比谷公園から、いよいよ帝国ホテルに向かいます

♥今度は勉強じゃなく、楽しむために

 で、ようやく話を戻します。

 つまり、子どもたちは、1年半ぶりに、思い出のルミネtheよしもとに戻ってきたわけです。今回は勉強じゃありません。ただひたすら楽しむために。

 しかもこの日は出演者が豪華でした。麒麟、ガレッジセール、東京ダイナマイト、それに西野さんのキングコングも舞台に上がりました。漫才もコントも非常に見応えがあって、子どもたちは「みんな面白かった!」と喜んでいました。

 公演が終わった後、西野さんは、子どもたち全員との記念撮影にもにこやかに応じてくれました。さすがは「校長」さんです。

 

♦最後の目的地、帝国ホテルへ

 新宿から東京メトロに乗り、午後3時半、日比谷公園に着きました。

 ボクの祈りが天に通じたのか、降水率50%にも関わらず、ボクたちは朝からここまでまったく雨に降られていません。(ルミネの中にいた時、ザーッと来たらしいのですが。)雲間に太陽さえ少し顔を出してきました。

 ここまで見事にスケジュール通りです。馬車道駅で降り、赤レンガ倉庫に行き、大さん橋で海を眺め、中華街で豚まんを買って、みんなで山下公園で食べました。子どもたちは、先客の幼稚園児と仲良くなって、一緒に電車ごっこに興じていました。こういうコミュニケーション能力の高さが、このクラスで感心するところです。

 38人がぞろぞろと、何度も電車を乗り継ぎ、歩道を列をなして歩きましたが、まったく心配はありません。ルートの先導も子どもがするし、みんな自律的に動いているからです。軍隊みたいに整然と行進するわけではありません。どちらかというと、だらーっとおしゃべりしながら歩いていますが、通行人の邪魔になりそうだったり、交差点に差しかかったりすると、瞬時にまとまりのある集団になる。ボクはだいたい一番後ろについていますが、「やっぱ世界一のクラスだわ」と思うことがしばしばありました。

 まあ、予定外といえば、「金の餃子の神」がなかったことと(笑)、横浜駅でふざけて、定期ICカードを線路に落とした子がいたくらい。トラブルとも言えません。むしろ慌てず騒がず対応する子どもたちに感心しました。

 しかし、朝の出発からもう7時間が過ぎています。移動距離も長く、さすがに子どもたちは少し疲れた顔。噴水脇に寝そべっている子もいます。

 しかし、今日のメーンイベントは、これからなのです。

 日比谷公園から、横断歩道一つ渡れば、帝国ホテル。目指すは17階の「インベリアルバイキング サール」です。

 「さあ行こう!」と、ボクは言いました。


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。

 

(2016年5月 9日 10:00)
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