ぬまっち先生コラム32 ワードバンク(1)

「ワードバンク」とは、ボクと子どもたちとで練り上げた作文学習システムです(4月22日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第32回 ワードバンク(1)


 

♣みんな「作文が苦手」なのはなぜ?

 みなさん、文章を書くことは好きですか?

 なぜいきなりこんなことを聞いたかというと、3年生の最初の授業で「作文が苦手な人、手を挙げて!」と言ったら、ほぼ全員が挙げたからなんです。

 8歳にしてすでに作文に苦手意識がある。うまく書けないと思っている。

 では中学生になったら、高校生になったら、大人になったら、自然に作文がうまくなるんでしょうか。文章を書くことが好きになるんでしょうか。

 ボクにはそうは思えない。小学3年生の時点で作文が嫌いだったら、よほどのことがない限り大人になっても苦手なままでしょう。

 逆に小学生の時に「作文って楽しい!」と思えたら、その後もどんどん楽しくなってくるはずです。楽しいことは「イヤな勉強」とは違いますから。結果として作文もうまくなるに違いありません。

 では、どうすれば作文が「勉強」ではなくなるのか。書くことが楽しいと感じられるようになるのか。

 今回の章はそこがテーマです。

 

♠使える言葉をチャリーンと貯金

 「そんなの知ってるよ、と思ってる言葉も、よーく考えたら知らないってことがあるんじゃないかな?」と、ボクは子どもたちに問いかけます。

 「たとえば、理科で『観察しよう』って言うけど、『観察』って言葉の意味知ってる?」

 子どもたちは国語辞書を持っているので、その場で調べて「物ごとを注意してよく見ること!」とすぐに答えが返ってきます。

 「ふーん、じゃあ『注意してよく見る』ってどういうこと? キミたち、本当に注意してよく見てる? 触ったりひっくり返したりして見てるの?」

 子どもたちはシーンとしてしまいます。「観察=注意してよく見ること」は、「ただ見ること」とは違うみたいだ......。自分たちが理解していた言葉が浅かったことに気づきます。

 「ね? 知ってたはずの言葉を実はよく知らなかった。だから言葉って面白い。これから調べてわかった言葉をどんどん貯金しよう。貯金額が増えれば、君たちの言葉が豊かになるよ!」

 ボクはこれを「ワードバンク」と呼んでいます。そのまんま「言葉の貯金箱」。ひとりひとりが専用のノートに調べた言葉をどんどん書いていく。使える言葉をチャリーンと貯めていくわけです。

 

♥辞書を引くのって楽しい!

 3年生の子どもは高学年と違って、火をつけるとたちまちボッと燃え上がります。

 ほんの少し火種を与えただけなのに、「超楽しい!」と言いながら、辞書を昼休み時間にまで引くようになったのにはボクも驚きました。ネットサーフィンと同じで、ある言葉を引くとその説明にある言葉をまた知りたくなって、いつまでもキリがない。おろしたてのスポンジみたいに、子どもはどんどん新しい言葉を吸収していきます。

 2年生まではほとんどまっさらだった辞書が、いろんな色の付箋で膨れ上がっていくのを見るのは楽しいものです。

 そうそう、今度の新しいクラスに与えるボクからの言葉は、

 Discover

 にしました。前のBrightのようにi(自分、愛)が入っているし、1年かけていろいろなことを「発見」してほしいと願っているからです。

 

♦「意見」と「事実」を分けることから

 「ごっちゃになりやすいのが『意見』と『事実』。まず、この言葉の意味を調べるところから始めよう!」

 国語の作文の授業ですが、ボクたちのクラスでは「ワードバンク授業」と呼んでいます。ワードバンクとは「言葉の貯金箱」であるとともに、ボク式の作文学習メソッドの総称でもあります。

 ・意見――ある物ごとについてもっている考え

 ・事実――実際にあったこと

 辞書にはこのように書いてありますが、本当に意味を理解しているかな? ボクは子どもたちを試してみます。

 「『きょうはいい天気です』。これは意見? 事実?」

 「事実!」

 「『いい天気なので気持ちがよいです』」

 「......意見」

 「『ここは世田谷小学校です』」

 「事実!」

 「『きょうはちょっと暑いです』」

 「事実!」「人によって感じ方が違うから、意見!」

 「そうだね。暑い国から来た人は暑くないかもしれないしね。じゃあ『気温が28度なので暑いです』は?」

 「事実と意見の両方!」

 「では『チョコレートは甘いです』は?」

 「意見!」「事実!」

 「実際には甘いけれど、甘さの感じ方も人それぞれだしね。あんまり甘くないチョコもあるし。......というわけで、実は『意見』と『事実』って境目が意外とあいまいなところもあるよね。それを分かった上で、インパクトライティングをやるよ!」

 さて、インパクトライティングって何でしょう。そのヒミツは次週で!


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。

 

(2016年6月13日 10:00)
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