沼田 晶弘
第33回 ワードバンク(2)
♣川端康成に書き方を学べ!
よい作文には「インパクト」がある。
これがボクの作文に対する持論です。インパクトの中身は「自分がこの作文で書きたいと強く思うこと」です。その思いが強ければ強いほど文章にインパクトが生まれ、読み手の心に残る作文になります。
そのためにはまず冒頭の1行目が大事です。ボクはそのことを
・インパクトスタート
と呼んでいます。強烈な出だし。先週説明した「事実」と「意見」では、「意見」が強めになる部分です。
強めと言ったのは、客観的事実でスタートして読者にインパクトを与える高等テクニックが存在するからです。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
ご存知、川端康成『雪国』の冒頭です。事実しか書いてないのに、その風景を見る人の心の底を映すかのように鮮やかです。この一文があまりにも有名なのは、やはりインパクトがあるからだとボクは思っています。
♠「最後まで読みたくなる作文」を目指そう
小学生の作文でよく見かけるのは、例えば、
私は○○で××です。
私はきょう△△しました。
こういった書き出しです。文法的にまったく問題はありません。こう教えることが間違いだとも思いません。ただあえて言うなら「普通」なのです。こういう文章は友だちも先生も見慣れているから、目の前を通りすぎてしまう。特に興味を惹かれないのです。
「話すなら、聞く人が興味を持つような話をしよう!」
これは、このコラムでも何度も書いてきたボクの持論です。作文でもまったく同じことが言えます。ボクが教えたいのは「人が最後まで読みたくなる作文」です。「魅力のある作文」と言ってもいい。この点において、小学生が書く作文も、プロ作家が書く小説やエッセイも、目指すところに本質的な違いはないとボクは思っています。
ベランダで感じるみずみずしい風。口で感じる、
「さくっ」
とした食感。まさに天国だ。
これはクラスの子が先日書いた作文の冒頭です。ボクはまったく手を入れていません。いきなり体言止めの情景描写で引き付け、擬音も効果的。彼は何を食べているんでしょう。続きが気になりませんか?
ちょっと教えただけで、子どもなりの感性があふれ出て、こんな驚くような文章を書いちゃうこともあるんです。
♥一生役立つ「3つのポイント」
インパクトスタートが成功したら、その次は
・クリアストーリー
です。スタートで演出した「何だろう?」を読者にクリアにする部分。状況を説明する中間パートです。当然、「事実」が強めになりますね。短く簡潔な文章をつないで、テンポよくモタモタしないのが肝心です。
最後は
・ドラマチックフィナーレ
です。思い切り盛り上げて締める。ここは当然「強い意見」になりますが、先ほど説明したように、情景や事実を描写することで書き手の意見を感じさせる高度な文章技術もあります。
・インパクトスタート― ――強烈で印象的な出だし(意見強め)
・クリアストーリー ――簡潔にわかりやすく説明(事実強め)
・ドラマチックフィナーレ ――気持ちを強くまとめる(意見強め)
この三つを常に意識して書くことが、インパクトライティングのポイントです。
この方法は大人になっても十分に使えるはずです。たとえば大学生が就活などで書くことがある「小論文」も、基本はつまるところこの3点に集約できると思います。小学3年生でこれを身につけておけば、一生役立つこと請け合いです。
♦「NGワード」を最初に決めよう
「運動会も近いことだし、今日のタイトルはこれ!」
ボクは作文のテーマを子どもに示します。
『うんどうかいにむけて』
これから黒板のタイマーをセットして書き始めるわけですが、その前に大事なことがあります。
「今日のNGワードをみんなで決めよう!」
子どもたちから悲鳴のような声が上がります。
さて、NGワードとは。作文に何の関係があるの? それはまた次週!
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。