沼田 晶弘
第37回 ひらがなプロフェッショナル(2)
♣逆さにしても美しい字が書ける!
大人に「ひらがなの書き方」教えます! センセイは小学2年生!
2011年12月12、13日に開かれた「ひらがな2丁目商店街」には、保護者のみなさんや、前の年にボクが教えていた5年生の子たちもたくさん来てくれました。
ボクも驚いたことに、書き方を極めて、上下逆さにしても美しい文字が書けるようになった子さえいました。もはや職人芸。「向かいあって教える時に見せやすいでしょ」とその子は平然と言っていました。
お父さんやお母さん、上級生を感心させたことで、子どもたちの自己効力感がさらにアップしたのは言うまでもありません。
♠「全員勝利システム」で自己効力感が高まる
実のところ、ひらがなの書き方は1年生の授業範囲なのです。
ボクがあえて2年生で取り組ませたのは、子どもたちに表現力と自己効力感をつけてほしいという狙いがありました。お相手さん活動を利用したのもそのひとつ。ボクがこれまで書いてきた「アナザーゴール」の応用でもあります。
あえて一文字しか練習させないひらプロは、授業としてはいささか型破りかもしれません。しかし、ワードバンクと同じく、「クラス全員に勝利体験を与えられるシステム」であることをお分かりいただけたらと思います。
こうして考えると、ボクがこれまでの10年間で行っている実践は、多かれ少なかれ必ずそういう要素を含んでいるようです。
6年生編で紹介した「伝説の花畑」プロジェクトや「タッチバスケットボール」、5年生でやった「勝手に観光大使」もそうでした。いずれも、すべての子どもが授業を「嫌なもの」「退屈なもの」と感じず、学びを楽しめるようになるシステムの追求ということができます。
そして、ボクが目指している真のゴールは「子どもの自己効力感を高めること」です。
♥なぜ日本の若者には自己肯定感が乏しいのか
もちろん小学校は学びの場であり、各学年の学習到達度を満たすことが大前提なのは言うまでもありません。それに加えて、小学生のうちに小さな成功体験、「自分はできる」という自己肯定感を積み重ねていくことは、その後の人生においてとても大事なことだとボクは思っています。
自己肯定感をしっかり持った子どもは、未知のことも恐れずチャレンジするようになり、学校の成績も自然と上がっていきます。ボクはこの10年間、そのようにどんどん変わっていく子どもたちを何度も目の前で見てきました。
日本の若者は諸外国に比べて自己肯定感が乏しく、将来への希望も乏しいという内閣府の調査があるそうです。それは小学生のころから始まっているのかもしれない。
なぜそうなってしまったのか。学校現場で何かできることはあるのか。
ボクは子どもたちに向かって「ど真ん中のストレート」を投げようと日々工夫しています。
でも、ボクはあまり理論的な人間でないので、言葉で説明するより、本能とカンを頼りにボールを投げているところがあります。変に技巧を凝らしているつもりはなく、球筋はまっすぐのはずなんですが、周りの人からなぜか「授業が個性的すぎる!」と言われてしまうのは、そのあたりに原因があるのかもしれません(笑)。
♦ボクはど真ん中の「勝利至上主義者」です
「全員に勝利体験を与えられるシステム」とは、言葉を替えれば「誰も負けないですむシステム」ということです。それだけ聞くと競争のない、闘争心もない、微温的で平和な教室をイメージするかもしれません。
しかし、それはボクの目指すところとまったく違います。
実は、ボクはガチガチの「勝利至上主義者」です。勝つことに徹底的にこだわります。そのためにあらゆる努力を惜しみません。
ただし、勝ち方は一つではありません。いろいろな勝利条件があるし、いろいろな自己効力感の高め方がある。さらに、それが学びにつながっていなければ意味がない。タンニンの腕の見せ所です。
来週からは、5月に行われた運動会のリレーでボクと子どもたちがいかに力を尽くして「勝ち」に行ったかを書いてみたいと思います。
次もど真ん中の直球ですから!
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沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。新刊『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が発売中。