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「関わらない」が正解なのか
2020年9月23日
今でも、どうすればよかったのかな、と考えてしまうできごとがあります。
2年前の秋、小学6年生だった長男が学校で派手にケンカをし、校長室にいると連絡がありました。相手は、特別支援学級にも籍を置くA君でした。発達に遅れがあるというA君と長男は気が合い、何かと一緒に遊んでいたはず。でも、そんな関係は高学年になり、いつの間にか変わっていたようです。
帰宅した長男は「このままAを特別扱いしていたら、Aはダメなやつになる」「先生も注意しない」と、怒りが全く収まっていません。引き金は、A君が自ら立候補して就いた話し合いの進行役を途中で放棄して、遊び始めたこと。長男が「おまえ、わざとできない振りしているだろ! 甘えるな」と向かっていき、殴り合いになったそうです。似たような小競り合いは、6年生になってから何度もあったようです。
「だからA君は、特別支援学級にいるのでは」と内心思いつつ、長男の言い分も全く分からないわけではありません。「ほかの子はどうしているの?」と尋ねると、「無視している」「関わらない」。なるほど。心のどこかで「それが一番無難だよな」と思ってしまった私が、情けなくもありました。
さて、長男になんと言えばよいのか。いろいろ考えたのですが答えは見つからず、結局、自分でも綺麗事に逃げているなあと思いながら、「A君がどれぐらい頑張れるかは、先生や親が一番よく分かっていて、本当にサボっているときは叱るはず。あなたが口を出す必要はない」と諭しました。長男は「先生も同じようなこと言うけど、絶対間違っていると思うよ」と、ついに納得はしませんでした。そして、卒業までA君と長男は同じグループなどになることはありませんでした。
別々の中学に進学して2年。長男は時々、「あいつ、どうしてるかなあ。会いたいなあ」と話します。2年分成長した長男の頭の中では、どのような理解になっているのでしょう。
障害のある者とない者が共に教育を受ける「インクルーシブ教育」という考え方が国連総会で示され、10年以上がたちました。今、社会全体が「共生」を目指して変わりつつあります。障害者のニュースに触れる度に、長男が抱いた問いに、答えが出せなかった私の不甲斐なさを思い出します。(悠)
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